【物音】
どれだけ眠っていたのか。
不意に何かガタッと音がしたような気がして、両目がカッと開いた。
一瞬、音は夢の中で聞こえた気がしたが、意識が焦点を結ぶと、どうやら現実の音らしいことがわかってきた。その途端、僕はあわてて上体を起こしていた。
(何だ、何の音だ)
部屋をキョロキョロと見回す。
特に何もない。
両側には襖。
どちらの部屋からか聞こえてきたんだろうか。僕は自分の息をも止める注意深さで耳をすませた。
世界の時間が完全にストップしてしまったかのように、もう何の物音もしない。
(やっぱり夢だったのかな……)
一晩くらいは寝たような気もすれば二、三時間くらいの気もする。寝なおそうかとも思ったが目がさえてもう眠れない。
音が夢の中のものだったのか現実のそれだったのかわからないので、僕はさらにしばらく上体を起こしたままで耳をすませていた。
しばらくすると、ゴソッと何かが動いたような音がした。控えめな音だったが確かにした。今度はもう間違いない。
近くに何かがいる。
(こっちだ。こっちのほうから聞こえてきた)
これから進む予定の、まだ開いてない奥の部屋に通じる襖のほうに僕は注目した。次の六畳間には確実に何かがいる。
例のグロテスクな怪物だろうか。
こんなところまで追いかけてきたんだろうか。
いや、違う。
怪物だとしたらおそらく別のやつだ。
屋敷内のありとあらゆるところで複数のおぞましい生き物がウロウロしているんだ。
僕は勝手にそう決めつけてしまっていた。
こうなるともう絶対に眠れない。
僕は音を立てないようにしてゆっくりと立ち上がった。そんなことしなくても相手は僕がこの部屋にいるのを知っているように思えたが、念には念を入れて静かに行動することにした。
(どうする? 次にどう行動すればいい?)
そっと『荻風』の間まで戻るか。
でもあたりはまたすっかり静かになっている。まったく音がしない。
今度は最初から例のグツグツいう音が聞こえたわけでもない。
やっぱり怪物じゃないのかもしれない。
音の主はいつまでたってもこの部屋に入ってこない。
そんな意思はハナからないのかもしれない。
じゃ何だ。音の正体は何なんだ。
敵なのか。
何なのか。
害を与える物なのか。そうでないのか。
やっぱり耳の錯覚なのか。
気になる。
しだいに警戒心より好奇心のほうが強くなってきた。
(……開けてみるか、襖)
念のために僕は敷いていた座布団を一枚拾い上げると、それを両手で盾のようにして構えた。
そうして、音のした襖に向って、
「おい、そこにいるのはわかってるんだぞ」
声をかけると両手で座布団を強く握りしめ顔を覆った。
……。
襖は無反応だ。
座布団に埋めていた顔を離した僕は、声を出したことで妙な勇気が出て、右手を座布団から離すと、その手を襖に伸ばした。
その状態で数秒のあいだじっとしていると、思い切って勢いよく襖を開いた。




