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【抵抗】


 僕は階段の下の行き止まりに背中を張りつけ、たくさんの触手をゆらめかせながら粘着的な音をさせてゆっくり上から降りてくる怪物に向かって、あまりにも無力な箒を突き出しているしか手がなかった。


 怪物はもう狭い階段の半ばまでずりずり降りてきている。今まさに僕に覆い被さらんばかりに迫ってきている。


 かたや僕は開かない鎧戸を背に逃げ場を失っている。


 唯一の選択肢は……やっぱり戦うことしかないのか。

 しかしそれはいやだ。こんなの相手に勝てるわけがない。武器は箒だけ。きっと触れただけで溶ける。


 いやなぜ何もしないうちからそう決めつけるんだ。あんがいこいつ見かけ倒しかもしれないじゃないか。

 いやいやいややっぱりそんな賭けはできない。リスクが高すぎる。

 っちゅうかだから僕に選択肢はないってことをすっかり忘れてた。こうなったらもうどうにでもなれ。気持ち悪いが奴の目をつぶす。こっちからできそうな攻撃はこれだけだ。これしかない。

 僕は意を決して階段を駆け上がり怪物の目めがけて突進した。


 あれ、届きそうにないぞ。


 奴の顔に当たる部分は思ったより高い位置にある。

 これじゃジャンプしたって怪物の目には届かない。

 こんなおおきなやつがよく押入れにもぐり込めたもんだ。柔軟性がハンパじゃない。


 思うまもなく僕は怪物の触手に絡め取られた。


「うわぁっ!」


 触手が僕の体を持ち上げ、締め上げる。

 持っていた箒でバシンバシンと怪物の体を叩く。

 バカみたいだ。もうダメか。これで最期なのか。いったいなんなんだ。まったく状況が見えないままこんなわけのわからない狭苦しい階段の途中で僕は死んでいかなきゃいけないのか。

 怪物のおぞましい口が近づいてきた。やっぱり捕食だ。僕は食われるんだ。こいつの口臭ハンパじゃないな。クソ、歯磨けよこの野郎。


 カツンと軽く僕の頭に何かが当たった。


 裸電球だ。

 屋根から吊り下がっている電球だ。僕はとっさに電球の上のコードを掴んだ。


 するとガクンとおおきな音がして、吊られた電球の位置が下がった。同時に背後の鎧戸がギーッと開いたのだ。この電球のコードを引っ張れば開く仕掛けになっていたのだった。いったいほんとになんなんだこの屋敷。


 一瞬だけ怪物の注意力がそれた気がした。

 触手にこめられていた力が緩んだ。

 そこを逃さず僕はぶら下がっているコードの反動を利用し、パッと手を離した。そのまま怪物の顔面にキックをお見舞いする腹だったのだ。

 しかし残念ながら何しろまだ触手に縛られたままの状態なのでそんなにはうまくいかない。

 それでも片足の裏が怪物の目玉のひとつをかすめた。


「プシューッ」


 おそらく苦悶に違いない息が怪物の口から漏れた気がした。

 僕は一気に触手から解放され、階段の上に落下し、そのまま下まで落ちていくと開いた鎧戸の向こう側まで転がった。


「イテテテテッ!」おもいっきり背中を打った。


 しかし早く逃げないとまた襲ってくる。僕は力を振り絞ってなんとかしてよろよろ立ち上がった。背中だけじゃなく全身が痛い。足も打った。腰も打った。後頭部も打った。それでも僕は痛みをこらえながら振り返って怪物を見た。


 怒ってる。

 はっきりわかる。

 触手をメチャクチャに振り回し、ゼリー状の体には少し赤味がさしている。

 スピードを上げて階段をじゅるじゅる降りてきた。

 僕はあわてて鎧戸を閉めにかかった。重い。ビクともしない。ええいクソもうほっとけ。僕は足を引きずりながら新たに前方に広がった長い長い廊下の奥に向かって逃げ出した。


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