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【別離】

 あまりにも唐突だったので、ふたりとも体がビクッとなって、思わずお互いの顔を見合わせた。

 

 チャイムのような音のあとに、


 ――まもなく電車が到着いたします。危ないですから畳のへりの内側に下がってお待ちください。


 おそらく録音された音声が聞こえてきた。

 どこかにスピーカーがあるんだろうか。見回してもどこにそんなものが設置されているのかわからない。


「……来るんだ、やっぱり電車」


「ああ」


 やがて遠くのほうから震動がかすかに伝わってきた。

 間違いなく電車のやって来る音だ。

 僕はあわてて壁の路線図をひっぺがして折りたたむと尻ポケットに入れた。

 これがないとどこで乗りかえていいものやらわからない。

 そうして僕とめぐみは開けっ放しになっている障子戸から廊下を覗いた。


 廊下の奥から光が近づいてくる。

 音も次第におおきくなってきた。


 電車はこちらに向かってその姿をはっきりとあらわし、スピードを落としはじめた。車体前面の額に当たる部分に行き先が表示されてるんじゃないかと思うけれど、ライトがまぶしくここからだとよくわからない。僕はもっと目をこらしながらグイッと頭を廊下に突き出した。


「ニコゴリ、あぶないよ」


 めぐみが声をかける。


「まだよく見えないな」


 僕はほとんど半身が廊下に出んばかりに身を乗り出していた。行き先の文字をちゃんと確認しようとするあまり自分でそのことに気がついていなかったようだ。電車はほとんど間近に迫っていた。


「だからあぶないって!」


 あわてためぐみが僕の首ねっこをつかまえるようにしておもいきり後ろに引っ張った。僕はよろよろと部屋の中に後退し、卓袱台に足をぶつけうしろ向けにバターンとハデに倒れた。


「アイテーッ!」


「あっゴメン」


 その間に電車は障子戸のところにピタリと横づけして、停車した。


「何すんだよ……」


 僕は痛みに顔をしかめながら顔だけ起こすと、めぐみに怒りをぶつけた。


「だって」めぐみもキレた。「もうちょっとでハネられるとこだったんだよ!」


 電車の扉はすでに開いており、車体は催促するかのようにシューシューとエアーの音を立てていた。


「ほら、乗るよ」


 めぐみはそういうと、ひとりでさっさと電車に乗り込んだ。


 自分も起きあがろうとしたが、背中を強く打ったせいで動けない。


「ニコゴリ、早く」


「クソ……」


 力をふりしぼって何とか立ち上がると、僕はよろよろと電車に近づいた。


「あっ」


 ふたりとも同時に声をあげた。

 無情にも僕の眼前で、プシューッと電車の扉が閉まったのだ。


 僕はドンドンと扉を叩く。


 まったく聞く耳持たないといった感じで、電車はすぐにホーム……横づけした部屋からゆっくりとすべり出した。

 めぐみが中から僕に何かいっているが、ぜんぜん聞こえない。


「先に行ってるからねーっ」とでも伝えたかったんだろうか。僕はあわてて尻のポケットから路線図を出し、渡せるわけもないのにめぐみにヒラヒラと見せた。


「おまえ、どこで乗りかえるかわかってんのかよーっ」


 路線図がないとわかるはずがない。


 やがて電車は少しずつスピードを上げ、廊下の奥に去っていった。


 廊下のまん中、線路の上に出た僕は、バカみたいにボーッとちいさくなっていく電車を見送るしかなかった。めぐみの残像が、しばらくのあいだ僕の脳内に残っている。


 じきに静寂が戻ってきた。

 僕はひとりきりになった。


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