第八話 『武器屋』
ソラの話?が少し書いてあるのは次話でした。ごめんなさい。
それではどうぞ!
ギルドから出て、ティオさんに教えられた武器屋を目指して東を進む。道中俺の黒髪を見て怪訝な視線を送ってきた通行人達だったけど、俺の服装で貴族とかだと勘違いしているのか声は掛けてこなかった。
「掛けてきたら、それはそれで困るんだけどな」
元の世界の時から人付き合いが苦手な俺が、そんな多くの人数から声を掛けられたら泣いちゃうよ。
親しい人とか、外面だけ良くするのは得意なんだけどな。いきなりそんな視線を浴びたらテンパりそうで怖い。
そんな視線を浴びながら歩くと、やっと目的地に着いた。
その店は煉瓦造りの建物で結構大きい。煉瓦は長年の影響か、少し風化している。
そして何よりも印象的なのは、看板に『ヴィリムの武器屋』と書いてあることだ。
「いや、どんだけ自己主張激しいんだよヴィリムさん……」
【スフィア】の人はこうなのか? 流石に違うと思いたい。
「取り敢えず入ってみるか」
武器屋の扉を開ける。中は通路の間が狭いが、その分大量の武器や鎧が置いてある。
西洋剣のようなものや大槍。杖やナイフまである。そして剣が置いてある所から離れた所には、包丁や鍋、フライパンまである。
……庶民仕様なんだね、ヴィリムさん。
買うところであろうカウンターには誰もいない。これじゃあ泥棒されるんじゃないか? というか客を待ってろよ。
「すいませーん。武器を買いに来たんですけど。誰かいませんか?」
…………へんじがない。ただの〇〇のようだ。
「すいませーん! 武器を買いに来たんですけど! ヴィリムさんは居ますかぁ!」
…………へんじがない。ただの――
「おーい! 居ないんですかっ! 居たら返事してください! 居留守じゃありませんよね! 忙しいと思いますけど、客で――」
「あぁっ! うるせぇな! ちょっと待っとけよ!」
ヤケクソ気味に叫ぶと、店の奥から声が聞こえた。てか、うるせぇって日本じゃ訴えられるレベルだ。俺も結構危なかったけど。
声が聞こえて直ぐに頭がやけに光る筋骨隆々の壮年の男が店の奥からやって来た。
「なんだなんだ! 客ってのは誰だ!?」
「あっ、俺が客です。本日は武器と防具を買いに来たんですけど、見せて貰えますか?」
「あっ?」
男――ヴィリムさんは俺を品定めするかのように全身をくまなく見る。……悪いけど俺ノンケだからね。
「ちっ! お前みたいなガキが来ていい所じゃねぇぞ、ここは! 命を賭ける冒険者や騎士達が来る所だ! さっさと帰れ!」
……はぁ!? このオッサン、なに言ってんだよ!
オッサンは額に青筋を浮かべて俺を罵倒する。それを聞いて苛ついた。日本だったらクビレベルだぞ!
「言わせておけば……! 俺だってもう冒険者なんだよ! 覚悟ぐらいあるわ、このハゲ野郎!」
「ハゲッ!? ハゲって言ったなこの野郎……!?」
あっ、気にしているのか。というか、俺って図太くなったな。日本だったらこんな強面のオッサンに啖呵なんてきれないぞ。
「ん? そういやお前、冒険者だったな……」
「ああ、そうだけどそれがどうしたんだよ」
オッサンは俺の腰に差してある小剣を見て少し考え込むと、
「そうか……分かった。今から剣を振れ。それで実力があるんなら認めてやる」
オッサンは挑発的な笑みを浮かべて俺を睨んでくる。
つい売り言葉に買い言葉で了承する。
そして剣を振るうために俺とオッサンは店の外に出た。
「よし。剣は持てるな?」
「ああ」
俺は腰から小剣を抜いて上段に構える。
「ほう? 構えは結構出来ているな。まあ、ちゃんと振るえるかが問題だが」
いかに【剣術】が有っても、敵の居ない空斬りではしっかりとした剣術には見えない。さて、どう振ろうか。
ふと思い出す。『RWO』の技スキルはどうだろうか? あれなら何回も振っているから身体に染み付いている。流石に人間離れした技は再現できないが、それ以外なら【剣術】の補正でなんとかなるかもしれない。
俺は思い出す。何回も振った剣を。単純で良い。それで俺は連続斬りの類いである技を振るう。
「……『“破芯”五月雨』」
俺の記憶をもとに剣を振るう。
上段からの袈裟斬りをし、左斜め上に斬り上げる。そして右に剣を水平に振るい、その勢いのまま回転斬り。回転斬りをした後は、剣を弩弓のように引き絞って突く。
久し振りの感覚。流石にゲームのようにはいかないが、【剣術】のお陰で多少は形になったようだ。
「どうだ。俺の実力は認めるに値したか?」
内心ビクビクしながらオッサンを見ると、オッサンは目を見開いていた。怪訝に思ったが、
「……な、なんだよ坊主! 悪かったな! 予想以上に良かったぞ!」
バシバシと俺の肩を叩くオッサン。困惑する俺。何この状況?
「痛ッ! つまり認めて貰ったことになるのか?」
「ああ、勿論だ! 坊主の年齢からしたら充分だぜ! それにあの剣技、【剣術】スキル持ちだろ? それを持っているなら冒険者としても始められるだろう」
【剣術】スキルを俺の年齢で持っているのは珍しいのか? 確かに《国士無双》のお陰でスキルの習得は早いんだが。
「ああ、ありがとう……ございます。えっと、ヴィリムさんに武器を売って貰いたいんですけど」
「止めろよ敬語なんて。今さら敬語にされても気持ち悪い」
いや、良くないだろう。けど、これで武器が買える。
兎に角、オッサンと一緒に店内に戻る。
「さて、坊主の欲しいのは何だ?」
欲しい物。取り敢えずは防具となる服だ。それから小剣以外の剣かな。別に小剣は悪くないが、やはり短い刀身ではやりにくい。
「まずは防具だな。金が勿体無いから、グレーフウルフの毛皮で作ってくれないか?」
【インベントリ】から鞣した毛皮を出す。鞣したため、灰色に近い黒色の毛皮はさらに色に深みを増している。数枚は駄目になっているが、充分足りるだろう。
「ほう? これは坊主が狩ったのか?」
「まあな」
「それは将来有望だな。どんな防具にするか要望はあるか?」
「まずはフードを付けてくれ。この黒髪が目立って仕方がないんだ」
ダリウスさんにも指摘された事だし、町に入ってから嫌というほど理解することが出来た。やはり髪を隠せるのが一番だろ。
「確かに目立つな。他には?」
「あー、俺は動きにくい鎧とかは嫌いだから、なるべく全身を守れる軽装にしてくれ」
「鎧を着けないなんて剣士にしては珍しいな。なら外套のようにさせてもらうぞ?」
「分かった。後は丈夫な革靴と両腕に籠手が欲しいな。籠手は一応鉄で頼む」
流石に外套だけでは守れないし、俺はVITが低い。腕だけでも武装した方が良いだろう。後、今履いている靴は靴底が固くないため充分に地面を蹴れないし、今買うのが一番だ。
「分かった。左に靴と籠手は置いてあるから好きに選んどけ」
「ありがとう。後は剣かな。ちょっと見せてもらってもいいか?」
剣が置いてある所を眺める。どれも西洋剣のようなもので、イマイチ欲しいのは見つからない。
落胆して視線を端に寄せると、細身の長い剣が立て掛けてあった。その形状はゲームでとても慣れ親しんだ形状。
「あれは……?」
「あれか? あれは“刀”と言ってな、あまり使いにくいんだ。それがどうかしたか?」
「……あれが良い。買ってくよ」
「マジか? まあ、坊主が良いんならそれで良いけどよ」
太刀を引っ張り出し、刀身を鞘から抜く。刀身は一メートルを越える長さで、それは光をよく反射していて美しかった。
「使いにくいんだが、良い剣なのは保証するぜ。鉄よりも丈夫な鋼も使っているしな」
「ああ。良い物を手に入れることが出来て良かった」
その後、革靴と籠手を見て自分のサイズに合ったものを選んだ。それをカウンターの方に持っていく。
「これと太刀と外套で幾らだ?」
「そうだな。革靴で一万ゴル。籠手で二万ゴル。外套がオーダーメイドだから四万ゴルと少し高い。後は太刀だが、十二万ゴルもして合計十九万ゴルだ」
「うぇっ。予算ギリギリだな……」
ダリウスさんから貰った金は残り十九万九千ゴルだ。本当にギリギリ。宿代がキツいな……。
ていうか金が無いから毛皮持ち込んだのに高いのかよ。その分良い物を作るみたいだけど。
「だが、最初に迷惑かけたからな、特別に十七万ゴルにしておいてやるよ」
「マジで!? 良いのか!」
「ああ。構わねえぞ」
「うおおっ。オッサン、愛してるぜ!」
「悪いが俺はノンケだ」
貰った革靴を履き替えて、履いていた靴は【インベントリ】に仕舞っておいた。籠手も同様にだ。
小剣も仕舞おうと思ったが、ベルトを貰って後ろ腰に仕舞う。太刀は小剣があった左腰に帯刀する。
「それじゃあ、明日の朝にまた来るよ」
「分かった。外套、楽しみにしておけよ」
適当に手を振り、店を出る。そして宿を探そうと歩き出そうとするが、
「あっ、何処の宿に行けば良いんだ……?」
また店に戻った俺を、呆れた顔で見てくるオッサンの目が辛いです……。
次話は明日の18時になります。