第四話 『デートっぽいなにか』
皆さん久し振りですね!
更新遅れてしまってごめんなさい。
今話は三章の本題に入る前の閑話みたいなものですが、どうぞー。
――昼下がり。
俺はとある人物と一緒に、飲食店に足を運んでいた。
雰囲気もいいし、若いカップルにも人気らしいし、料理も上手い。
なのだが……、
「なぁ……」
「む?」
俺の言葉に、首を傾げる紅髪の少女。
可愛らしい。目鼻立ちも整っているし、キリッとした瞳が彼女の美しさを際立たせているようだ。
間違いなく美人だろう。
――頬を大きく膨らませている以外は。
「あのさ、セーラ、そろそろさ……」
「むぐっ……どうしたのだ? あ、ソラも食べたいのか」
「ちっげぇよ! いつまで食ってるんだよ! なんなの。お前、俺に付き合わせておいてずっと食事タイムってなんなんだよ。馬鹿だろお前!」
「ソラ……少しは静かに出来ないのか?」
「理由考えろやテメェ!」
俺の態度なんて関係ない。
どこ吹く風と聞き流し、黙々と料理を口に運んでいく。いつもの美人な容姿が、まるで幼い子供のように見えるが、きっと錯覚だろう。
「それにソラ。今はお昼時だ。私も午前の鍛練で空腹であったし、少しくらい食事を多めにとって時間が経つのも仕方がないと思うのだ」
「あぁ、俺もそう思ったよ。でもさ、それ何杯目だ?」
「む? ちょうど十三杯目だな」
「食い過ぎだろうが! 大食いタレントもビックリだよ!」
高校生で育ち盛りであった俺でさえ、二杯も食べれば正直腹一杯になるだろう。
だが、セーラは何杯も飯を喰らう。喰らう。かっ喰らう。
正直おかしいと思った。コイツの胃袋はブラックホールかと思ったくらいだ。
人は見かけによらない。確かにその通りだろう。
「たれんと……? なんの言葉か知らんが、私はいつもこの量の倍は食べるぞ?」
「マジで!?」
どうやら本当にブラックホール搭載らしい。
「てか、俺らがこの店に入ってから二時間が経つぞ。お前が買い物に付き合えって言ったから、買い物前に早めに飯を食いに来たのに、お前がこんな様子じゃ、選ぶ時間も減るだろうに」
「案外、女性が買い物に時間を割きたいって気持ちを理解しているのだな」
「その気持ち判るんなら早く食えよ……。それに、俺の妹にちょくちょく買い物に付き合わされていたからな。そう嫌というほど言われたんだよ」
妹曰く、「女の子は買い物の時はゆっくりと選びたいの! べ、別にお兄ちゃんと少しでも一緒にいたいと言う訳じゃなくてね……?」なんて言っていた。
予定よりも一時間前からスタンバイすることは当たり前。
実際、妹の友達からはそんな彼氏はとても高評価と言われた。
別に彼氏ではなく兄貴なんだけど。
「妹? へぇ……ソラには妹がいたのか」
「あぁ、いたよ。まぁ、今は凄く遠くにいて、会えないけどさ」
「……そうか」
なにかを察したように、途端に会話を止めるセーラ。勘が鋭いのか。雰囲気を察してくれただけで有り難い。
セーラは口を噤み、空気を変えるかのように、料理を口に運んで――
「――って、さっさと食えや!」
「むぐっ!?」
結局、セーラは十三杯目で食事を終え、何故か料金は割り勘になりました。
……解せぬ。
◇ ◇ ◇
「で、なにを買いたいんだよ?」
「言ってなかったか? もうすぐ姉上の誕生日なんだ。だから贈り物を買いたくて、ソラに着いてきてもらったというわけだ」
「初耳なんだが……」
俺は「買い物に行くぞ!」としか言われてない。
それでホイホイ着いていくのもおかしいとは思うが、寝込んでいた時、イリスが失踪した時、心配をかけた礼と思えば別に苦にならない。
「それなら俺なんかより同性の友人を誘えば良かったんじゃないか? 俺は男だから、女性が喜ぶようなもん判んないぞ」
「姉上は男勝りな部分もあるものでな、それなら実際に男の意見も聞き入れようと思ってそなたを誘ったのだ」
「ふーん。仲良いんだな」
「……仲良い、か」
俺がそう言った瞬間、表情を曇らせるセーラ。
なにか悪かったのだろうか。それを聞くのは悪い気がして、俺は理由を聞くことが出来なかった。
それから口数も減り、ただ足を動かす時間。
そして早足だったおかげか、あっという間にセーラの向かっている店についた。
「さて、中に入ろうソラ」
「いや、中に入ろうったって……ここは……」
俺は店全体を眺める。
古臭い木製の造り。俺達の後から来た客は中に入っていくが、その客は若い女性ではなく強面なお兄さん達……ふむ。
「ここ武器屋じゃねぇかッ!」
「む? 当たり前だろう?」
「当たり前なの!? いやいや、おかしいだろ。お前のお姉さんに贈るんだろう? 女性に対して武器って……」
武器なんてものは贈り物として贈らないだろう。貰って喜ぶやつは戦闘狂かなにかだ。
いや、もしかしたらお姉さんはその戦闘狂なのかも――
「え? 毎年武器送ってるんだが、駄目だったのか?」
「――お前の感性が悪かったんだな」
どうやらセーラが悪かったようだ。
毎年武器を贈られるお姉さんに同情してしまう。
「はぁ……来いよ」
「ちょっ、腕を引っ張るんじゃない! ど、どこに行こうと言うのだぁ!?」
セーラの腕を掴み、無理矢理引っ張りながら俺は違う店に向かった。
そこは彫金師が経営している店――つまり装飾品を専門として扱っている店だ。
「いらっしゃいませ! 今日はどのような商品をお求めでしょうか?」
扉を開けて迎えてくれるのは若い女性店員。
この店はティオさんがよく行く店らしく、商品の品質もかなり良いらしい。
「はい、女性に装飾品を贈りたいんですが、なにかオススメを見繕ってくれませんか?」
「判りました! 少々お待ちください」
礼をして、店員さんはパタパタと店奥に駆けていった。
俺は女物の良さがあまり判らないし、肝心の馬鹿は使い物にならない。
それなら、店員さんの感覚に任せた方がマシだ。
「そ、ソラ……こんなところに姉上が喜ぶようなものはあるのだろうか?」
「寧ろ武器では喜ばねぇだろ。女性ってのは装飾品を贈られれば、誰だって喜ぶさ」
「そ、そうか…やはりソラに着いてきて貰って正解だったようだな」
「あぁ。俺もお前を一人で店に行かさなくて良かったと思ってるよ」
セーラが一人で買い物。
それはつまり、お姉さんの使わない武器が部屋に増えるだけだ。
妹の好意を無下には出来ないだろうお姉さんの気遣いを、事前に俺が阻止する義務がある。
「お待たせしましたー! こういうのはいかがでしょうか?」
店員さんが戻ってきた。
渡されたのは、オレンジ色にキラキラと光る宝石をつけたネックレス。
博物館で見たコハクのように、透き通るような美しさがある。
「へぇ、綺麗だな……」
「あとはこんなものですかね」
もう一つは赤いルビーのような宝石が規則的に嵌め込まれたブレスレット。
銀色の金属が縁となり、そこに映えるように存在する赤い宝石のブレスレットに思わずセーラ熱に浮かされたような溜め息を吐いた。
「どうかしたのか?」
「い、いや! なんでもないぞ! ただ、綺麗だなと思っただけで!」
「そ、そうか。そんなに気に入ったのなら、このブレスレットを買うか?」
俺がそう問うと、ハッとしたようにセーラは首を傾げて悩みだした。
時々チラチラとブレスレットに目を向けるセーラ。
もしかして……?
「……こっちのネックレスの方にする」
「いいのか?」
「いいのだ!」
あんなに気に入っていたのにブレスレットを選ばなかった理由。
俺には一つしか思い浮かばなかった。
「もしかして……お前このブレスレットを自分用に買いたいのか?」
「ち、ちゃうわぼけぇ!」
子供かっ! というようなツッコミはしない。それよりもこの反応、どうやら図星のようだ。
姉に買っていきたいが、自分はこのブレスレットが欲しい。だから違う方をプレゼントとして選んだ。
「バレバレなんだよ。欲しかったら買えばいいだろ?」
「くっ……私が騎士団から貰える小遣いは少なくて、貯めていた金額では一つしか買えないんだ。仕方ないだろう」
だから、今回は諦める。
だけど、今度は来たときは……そんな思いが感じられる言葉だった。
やっぱり優しいんだな。
自分のことよりも家族の事を優先するセーラに、そんな感想を抱いた。
……仕方ないなぁ。
「店員さん。このネックレスと……あとこのブレスレットをください。ブレスレットは別で俺が払います」
「そ、ソラ!?」
「畏まりました! お買い上げありがとうございます!」
セーラが驚愕の表情で俺を見るが、俺はその視線を無視して店員さんに金を払い、代わりに渡されたブレスレットをセーラに渡す。
「ほらよ」
「ど、どうして……」
「別に。ただ、お前には寝込んでいる時に世話になったからな。その礼ってやつだ」
実際、恩返しという意味の方が多い。
何だかんだでこの異世界で友人として接してくれるセーラに俺は感謝している。
だったら、たまにはプレゼントを贈るのも悪くない。
「で、でも……」
「いいから受け取っておけ。素直に受け取って貰った方が、贈った方も嬉しいんだよ。遠慮するな」
「…………あ、ありがと……」
顔を赤く染めて、プイッと顔を逸らしたセーラ。
不覚にも、可愛いと思ってしまった。
セーラは物凄い美人だ。寧ろ可愛くないわけがないのだが、こういう子供っぽい態度が妙に心をくすぐった。
「綺麗……」
いそいそと早速ブレスレットを左手に着け、セーラはそれを眺めて熱っぽい声で呟いた。
「おぉ、似合ってるぞ」
セーラの髪は紅色だし、ブレスレットは赤色。
彼女ほど似合う人はいないだろう。
「に、似合ってる……? 本当なのか?」
不安なのか、オドオドと俺の様子を伺うセーラ。
いつもの凛々しい姿はどこへやら。まるで別人のようだ。
「あぁ、似合ってるよ。マジ綺麗。やっぱり素材がいいとアクセサリも映えるよね。セーラマジ美人マジ女神」
勇気づけるつもりで褒めちぎってみると、セーラは顔を真っ赤にして震えだした。
いったいどうかしたのだろうか?
「ば……」
「ば?」
小さな声でなにかを呟いた。
聞き取れなかったから、反芻するように聞き直す。
「ば、馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
顔を真っ赤にしながら笑みを浮かべるセーラは大声で叫びだし、そのまま店を飛び出してしまった。
「や、やべっ。やり過ぎちまったか?」
急いで追いかけようと、俺も店を出ようとする。
すると、右肩に万力のように強い力で引っ張られ、俺はそれ以上進むことが出来なかった。
なんだ? と思って振り向くと、そこには笑顔で俺の肩を掴む店員さんの姿。
「お、客、さ、ま?」
笑顔な店員さん。
俺も笑顔になる。
「ネックレスのお会計……お願いできますかね?」
「…………」
セーラに奢ったことを後悔した瞬間だった。
今日から恋愛小説を投稿しました。
行き当たりばったりで書いているので、あまりよくないと思いますが、よかったら読んでみてください!