第六話 『魔法を扱う剣士』
戦闘描写は難しいです。
楽しいですが一番難しいところですね。
グレーフウルフが一気に飛び込んでくる。
【索敵】を発動しながら調べると、数は全部で八体だ。前から三体。右からは二体に左から三体居るようだ。
さて、俺も斬り込み隊長として前から片付けるとするか。
「『二重・火壁』!」
右と左に炎の壁を創る。これで俺は前からのグレーフウルフに集中が出来る。
壁はそれぞれ左上がり、右上がりに設置したから、残りのグレーフウルフは壁同士の間から出てくるって寸法だ。もしグレーフウルフが壁を抜け出してもダリウスさんが魔法で撃ち落としてくれる。完璧だ。
「グルァ!」
三体のグレーフウルフは殆ど重なって走ってくる。隙間が狭いんだから当然か。まあ、好都合。
即座に魔法を練る。距離が近いから脳を酷使でもしないと襲われてしまう。これも特訓によって出来た成果だ。
「『岩石弾』!」
練っていた魔力を右手に宿し、前方に向ける。
その瞬間、バスケットボールサイズの岩が掌に形成され、グレーフウルフ達の足下を襲う。
グレーフウルフ達は地面を蹴り、飛び上がって回避する。賢い犬だがそれは愚策だ。
「それを読んでたよ!」
夕食時に使っていたナイフを一体のグレーフウルフに投擲する。夕食のすぐ後に魔法の練習をしていたのが功を奏したようだ。
空中に居れば、素早い敵も避けることは出来ない。これによって一体はビクンッと痙攣しながら落ちる。まず一体目だ。
投擲と同時に駆け出していた俺は空中に浮遊しているもう一体に剣を振りかぶる。肉薄していた俺から避けようとグレーフウルフは身体をよじらせるが、なにも変わらない。
結果は、死だ。
「グルアアアアアアァ……アアァ……――!」
「二体、目」
グレーフウルフの首を素早く落とすと、もう一体の方に振り返る。
警戒しているのか、距離を取って此方を窺っている。俺としては他のグレーフウルフが来る前に倒しておきたい。
先に動いたのは俺だ。グレーフウルフも俺に向かって駆け出してくる。剣を振り下ろして斬ろうとするが避けられ、のし掛かる。その瞬間、地面に叩きつけられた。脳が揺れる。
「うっ!」
「グルァ! グルゥ……!」
俺の首を噛みきろうと、鋭い牙を鳴らす。その牙を押さえるために小剣を噛ませるが、グレーフウルフは口を裂けんばかりに勢いを増す。
このままだとジリ貧だ。この体勢じゃ力が入らない。
「さっさと、退け!」
足をグレーフウルフの腹に打ち付け、吹き飛ばす。甲高い鳴き声を発している飛んでいるグレーフウルフに剣を構えて襲いかかる。
バランスを崩しているのなら、自慢のスピードは役に立たないだろう。
「グゥ!」
「三体目だ!」
グレーフウルフの腹に剣でトドメを差す。
残りを確認するために【索敵】で調べると、数は三体に減っていた。どうやら二体はダリウスさんが仕留めたみたいだな。
ダリウスさんは一体と交戦中のようだが、残りの二体は炎の壁の先に要るようだ。
「『二連・火矢』!」
魔力を練って火の矢を二本造り出すが、その直ぐ後に頭に激痛が走るのを感じて顔を顰める。
くそッ! 頭が割れるように痛い。魔力が不足しているのか……!
さっさと決めようと、『火壁』を解く。その瞬間、二体のグレーフウルフが襲ってくるが、火の矢を二発放つ。
「ガッ!」
「グルオオオ!」
「ッ! 外れた!?」
火の矢は一体を吹き飛ばしながら命中したが、もう一体は当たらなかった。命中力が足りないせいだ。命中力はDEXに依存するから、現在の低いステータスなら当たらなくてもおかしくないだろう。
グレーフウルフは襲い掛かってくる。が、遅い!
「レベルが上がったみたいだな。動きが遅く感じる」
飛び掛かってきたグレーフウルフを勢いを活かし、一本背負いで地面に叩きつけた。そして無防備の腹に剣を全力で突き刺す。
それだけでさっきまで動いていたグレーフウルフは死んだ。
「ハァ、ハァ……」
「カンザキ君! 無事かい……って、うわぁ」
駆けつけたダリウスさんは、グレーフウルフの死骸を見て唖然とする。俺が一人でこの数を倒したことに驚いているようだ。その様子だとダリウスさんも倒したようだな。
「……ステータス」
ソラ・カンザキ
Age:17
種族:人間族
クラス:見習い魔法剣士
Lv:2→3
STR:29→32
VIT:24→27
AGI:36→39
INT:24→27
MDF:24→27
DEX:28→31
【ユニークスキル】 《国士無双》
【固有スキル】
・言語理解
【スキル】
・剣術Ⅰ・投擲Ⅱ・索敵Ⅰ・解析Ⅰ
【装備】
・鉄の小剣・異世界の学生服・皮の靴
【称号】
・異世界より来たりし者
・ボーナスポイント【5】
ふむ。やっぱりレベルが上がっているな。AGIがちょっと飛び抜けてるけど、予定通りだ。
ボーナスポイントは、魔法も扱うからINTにも振っておこう。
結果、AGIに3ポイント。STRとINTにそれぞれ1ポイントずつ割り振った。
「カンザキ君、怪我はない?」
「大丈夫ですよ。ダリウスさんこそ怪我はしなかったんですか?」
「ハハ。実は腕を噛まれたんだけど、直ぐにポーションを掛けたから大丈夫だよ。ちょっと突っ張る感じはあるけどね」
それは大丈夫だと言わないと思うんだが、言葉には出さない。
「それじゃあ、グレーフウルフの毛皮や、牙を採取するとしようか。……燃えたりして使えないものもあるけど」
「……? 必要なんですか?」
「グレーフウルフの牙は刃物にも使われるし、毛皮は立派な防具になる。カンザキ君のその服も丈夫そうだけど、どうせだったら、街でこの毛皮を利用して防具を作った方が良いよ」
「成る程……」
ダリウスさんはそんな俺の様子に満足したのか、解体用のナイフを取り出して、グレーフウルフの毛皮を剥いでいく。
その姿はまさしく現代に現れた悪魔のようで、この世界では普通だということが恐ろしい。
そんな恐怖体験を俺もやることになると知るのは、もう少し後になってからだ。
◇
「うえっ! まだ血生臭い……」
グレーフウルフの血で染まった手を洗い流し、臭いを嗅ぐと、血液特有の鉄のような臭いが鼻をつく。
解体が四体目になってから、二体分をダリウスさんに解体させられた。冒険者になるなら必ず通る道とはいえ、嫌なものは嫌だ。
しかも毛皮なんてものは丁寧にやらないといけないから、一時間も掛けたんだぞ。そりゃ臭いが手に移るわ。
「初めてにしては上手でしたよ。僕が冒険者を目指していた頃なんて……やっぱり止めようか。魔物に対する冒涜だったね」
「何があったの!?」
気になりすぎて何回も聞いたが教えてくれなかった。取り敢えず酷い出来事だってことは理解したけどさ。
「さて、もうすぐ【ラフリア】だね。短い間でしたけど、楽しかったよ」
「何ですか、急に。……俺こそダリウスさんに会わなかったらどうなっていたか……」
「それでもですよ。僕は少なくともカンザキ君に会わなかったら死んでいた。そうなれば、僕は家族に申し訳がたたない。君は僕の恩人ですよ」
ダリウスさんは深々と頭を下げた。
「ちょっ、頭を上げてくださいよ! 俺だって助かったんですから……。お互い様で良いじゃないですか?」
「……フフフ。そうだね。お互い様だ」
ダリウスさんは優しく微笑んだ。
俺も、最初に出逢ったのがダリウスさんで本当に良かった。
ダリウスさんは俺にとって、恩人であり、師匠であり、そして友達だ。
「もう、こんな話止めましょう! 別に離れる訳じゃないでしょう? 寧ろまた会いに行きますよ。ダリウスさんの店で色々と買いたいですし」
「そうだね。じゃあ、これからも宜しくね、カンザキ君」
「はい、宜しくお願いします」
最初に会ったときのように言葉を交わす。もう充分だ。俺にとって初めての繋がり。この繋がりは大事にしていかないといけない。
俺とダリウスさんはその後ゆっくりと語らい、疲れを癒すために眠った。
明日は遂に【ラフリア】に着く。
期待を胸に抱いて、俺は静かに目を閉じたのだった。
第七話はいつも通り18時に投稿するので楽しみにしている人はお楽しみに!