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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第三章 【ユニークチートの死神】
66/70

プロローグ 『紅き世界の邂逅』


新章突入です!





 ――『紅い世界』。


 血の匂いが濃い。辺りをその匂いが染め上げ、言い方を変えれば死の世界とも言えるだろう。

 その世界に生まれる音。死の世界を飾るように、瀕死の人間の呻き声がこだまする。


 少年はその声の発生源に目をやり、足を上げる。

 鈍い音が鳴り、その呻き声は二度と聞こえなくなった。


「……呆気ないよな」


 全身を血に染めた灰色の髪の少年は、そう小さく呟く。

 地に伏したピクリとも動かない数名の男達。

 少し前まで少年にとって恐怖の対象だった人間は、今となってはただの『モノ』だ。


 なにも感じない。前までの自分であったなら、心を大きく揺らしていただろう。


 目の前で知り合ったばかりの人が魔物に喰われる瞬間を目にし、怒りに身を任せて人を殺してしまった時でさえ、深い悔恨に襲われていたのだ。

 あの時、自分を支えてくれる少女が居なかったら、自分は精神が擦り切れてしまっていたかもしれないのに。


 なのに今回は違う。

 明確な意思をもって、人を『あやめた』。なのに心の内を占めるのは、圧倒的な『無』だった。


「う、うぅ……っ」


「……まだ死なないのか。案外しぶとい奴なんだな」


 少年は頭蓋を握り締め、宙へ上げている豚のような男へ呆れたように呟いた。

 散々痛め付けた。壁に顔面を叩きつけたし、全身を剣で切り刻んだと言うのに、まだ息がある。


 「まぁ、それでもいいや」と少年は口を歪めた。


「まだ生きてるってことは……今度こそ確実に殺さないとなぁ? 俺をこんな目に合わせた、礼もしねぇといけないしな」


「ひ、ヒィ……!?」


 豚のような男の首に剣の切っ先を向ける。

 少年の身体中は血だらけだが、これは全て返り血というわけではない。

 寧ろ、この染みの大半は少年自身の血だからだ。


 今更恨みなどないが、この男は許せない事を口走った。それだけで、殺す動悸は十分なのだ。


「それじゃ……ッ!?」


 少年は自分の喉元に向かって飛んできたナイフを、咄嗟に男を盾にして回避した。


 だが、それだけでは終わらない。

 更に飛んでくる数本のナイフに、少年は男を放り投げて距離を取って躱す。

 しかし全てを回避することは叶わず、一本ナイフが肩に刺さってしまった。


「痛ぅ……誰だ?」


 肩を押さえながら、ナイフが飛んできた方向に顔を向ける。

 その人物は、まだ齢十二程の少女。

 赤と茶の着物に身を包んだ少女の容姿は可憐だ。艶のあるセミロングの茶髪。だが、問題はそこではない。

 頭からは艶やかな茶色に染まる、ピンとした耳が生えている。耳の先は黒く、ふわふわな尻尾は耳と同じ小麦色をしているにも関わらず、耳とは違い、尻尾の先は白い。


 この死の世界に咲く一輪の可憐な花……というわけではないようだ。


「なんだよその眼……敵意を隠すつもりもないみたいだな」


 髪と同じく茶色い瞳が、少年に隠すことない敵意をぶつけている。

 少年は肩を竦め、身体に刺さったナイフを抜く。

 抜いた瞬間、比べ物にならない程の血が流れた。

 少年は出血多量で取り返しのつかないことになる前に、治癒魔法で傷口を塞いだ。


「……貴方が、やった?」


 年相応の幼い声。綺麗な声だと、少年は思った。


「そうだよ。俺が全部やった。まぁ、コイツらは死んでも仕方のないことをしたんだし、別に構いはしないだろ」


 悪びれもなく少年は笑う。

 実際、少年にとってコイツらは死んで当然の人間だ。寧ろ、清々しているのか正しいだろう。


「……そ」


「あぁ、お前がなにしにここに来たのかは知らねえが、結果は同じだろ?」


 少女が両手で短剣を構えたと同時に、少年も剣を構える。

 本気でやらないと、返り討ちにあう。少年は少女が見た目通りの実力ではないことを、直感していた。



 血に塗れた、死の世界。

 そこで対峙する二人の存在は、新たな物語の始まりに過ぎないのだ。



「――――フッ!」


「――――んッ!」




 ――その始まりの幕が、今、上がった。




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