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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第二章 【迷宮探索者】
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第二十五話 『剣士と魔術師=最強』


本日2話目でございます。迷宮編決着!




「――――ッ!?」


 目の前に【影】が現れる。人のような形をしたそれに、思わず【魔法剣】を振り抜くが、


「吸収した!? 嘘だろ!?」


 俺の刀が纏う焔が影に吸収されるように消えてなくなった。そしてそれに比例するように影も大きくなる。影には吸収の能力もあると言うのだろうか。


「無駄だよ……ソラ・カンザキ」


 予定外な事態に、咄嗟にその影から距離を取るが、


「くっ、後ろにも……囲まれてやがるのか……!」


 背後にも同じように人の形をした【影】が……いや、何体もの【影】が俺を囲むように周りに存在していた。

 どうして……焔も吸収出来るうえに数も増やすことが出来る。いったいウルの【影魔法】にはどんな性質があるというのか?


「よく判らない……っと言いたげな顔だね。実はその【影】には――」


 と、ウルはそこで言葉を伏せる。いや、話している暇なんてないのだろう。

 彼女を取り囲むように無数の『火槍』が宙に浮かんでいた。


「術者にダメージを負わせれば……ソラ様を取り囲む【影】は消えるはずでしょう!? だったら、貴女を先ず倒すことが先決です!」


 ウルの【影魔法】は一つの影で同時に何ヵ所もの攻撃を防げないはずだ。それは俺とイリスの同時攻撃で判っていることだ。

 あの多くの『火槍』を防ぐには、彼女の【影】だけじゃ難しい。確実に彼女にダメージを与えられるだろう。


「……やれやれ。人が会話をしている途中に攻撃を仕掛けてくるなんて無粋じゃないかい? 暗黙のルールと言っても過言じゃないだろうに」


「そんなこと私には知ったことないです。ソラ様の身の危機の時に、私が動かなくてどうするんですか! 私はソラ様を支える『仲間』なんですから!」


 イリスはそう吠え、浮かんでいる『火槍』を全てウルに向けて撃ち出した。

 全方囲からの攻撃。どんな強固な盾を持っていても、その全てを防げるわけではない。

 俺はウルへのダメージを確信した。


 だが、


「う、そ……?」


「勘違いしているけどね……別にボクの【影】は一つしか防げない、ということはないんだよ?」


 イリスの魔法は、ウルに届くことはなかった。【影】をコートのように纏ったウルは、その槍を全て防ぎきる。


「どういうことだ……?」


「それは教えられないね……それに、余所見していていいのかな?」


 ウルの言葉で咄嗟に周りに視線を向ける。一体の影が襲いかかってきて剣で阻もうとするが、ウルの『暗影の壁』並みの強度。影を切り裂くことが出来ず、回避するしかない。


「【魔法剣】も通用しない。刃も通らない。どうしろってんだよッ!」


「ソラ様ッ! ハァァァアッ!」


 イリスが俺の劣勢を見て、ウルへの攻撃を再開させるが、彼女の魔法は全て防がれる。イリスも打つ手がないようで手詰まり状態だ。


「アハハッ。そうだよ……君たちは今、逆境に潰されかけている。どうすればいいか、しっかりと周りを見て、考察して、方法を吟味しないとボクには勝てない。元の世界に戻るなんて夢のまた夢だよ?」


「……周りを……見る?」


 ウルの意味ありげな言葉に、【影】を回避しながら周りを見渡す。

 なにも変わらない。【影】を操るウル。魔法の嵐を吹き上げるイリス。この二人は問題ない。

 迷宮を形作る壁。なにも変化のない地面。壁に備え付けられている蝋燭。

 ……いや、待てよ。本当になにも変わっていないのか?

 違和感がある。なにかが引っ掛かった。改めて周りを見て、考えて……そして気付いた。


「蝋燭の……【影】がない?」


「ほう? よく気付いたね。いや、寧ろ今のヒントで判らないのなら幻滅していたところだよ」


 ゆらゆらと揺れていた蝋燭の火。それと同様の動きを地面に映る黒い【影】は行っていたはずだ。

 だが、今はその影はない。影のない奇妙な蝋燭が壁に備え付けられていた。


「てことは……お前は最初から蝋燭の【影】を支配下に置いていたのか」


「その通りだよ。君たちが来る前から魔法を使っていた。形に関しては、別に魔力を込めれば【影】の大きさも形も変えることは造作もないんだよ」


 確かに【影】を壁の形に出来るのなら、そういうことも可能ではあるな。魔力が少なければ影を多く扱うことが出来ないが、不幸なことにウルはイリスに匹敵するほど……もしくは上回る程の魔力保持者だ。厄介なことこの上ない。


 だが、俺の【魔法剣】を防げた理由はどう説明する? 影の硬化については納得は出来るが、どうして焔を吸収することが――いや、もしかして、


「……蝋燭だから、焔を吸収することが出来たっていうのか?」


「……ふーん? そこにも気付くとはね。君は意外に洞察力に優れている。そうだよ。ボクの【影】はその元々の【影】の主の性質を含んでいる。まぁ、君の焔を吸収するには相当の魔力を込めたんだけどね」


 ウルの【影魔法】は、正直チートと言っても過言ではない。魔力によって強度も、性質も、なにもかも利用することが出来る。火魔法だの風魔法だの、全てを否定するようなその魔法に恐怖すら感じた。

 俺の【魔法剣】は通じない。剣術や魔法に関してもウルの【影魔法】には手も足も出ないのだ。

 どうすればいい? 考えろ。考えろ。考えろ――


「『火槍』! 『風精霊の矢』! 通れぇぇぇ!」


「……いい加減に諦めたらどうだい? ボクにはもう傷一つつけられないよ」


 ウルは呆れた表情をし、『火槍』を『水壁』で、『風精霊の矢』を『暗影の壁』で防ぐ。先程から続くイリスの怒濤の攻撃は全てウルによって防がれ、魔力を無駄にしているようなものだ。


 でも、イリスは諦めない。即座に魔力を練り上げ、ウルに魔法を撃ち込む。俺を囲っている【影】にも魔法を飛ばしてくれているが、それは逆にウルの魔法によって届かない。


「イリス……!」


 なにをやっているんだ、俺は。

 歯噛みをし、囲む【影】を見据える。


 イリスが諦めず、この逆境を引っくり返そうとしている。なのに、俺がはなから負けを認めてどうするんだ? 一緒に乗り越えてこその『仲間』じゃないのか!?


「なら、どうすればいい……どうすればこの【影】を、ウルを、蹴散らすことが出来る?」


 【影】は一体一体は強くない。だが、影自体が硬いため俺の刀は通らない。つまり無敵の戦士のようなものだ。囲まれれば勝てる自信はない。


 ウルは先程からイリスを相手にしているが、その表情は涼しいものだ。イリスの魔法に有効な魔法で対抗し、【影】で防ぎ、イリスが俺を囲んでいる【影】に撃ち込む魔法もウルによって阻まれる。


 ……いや、そういえば、なんでウルは俺に付いている【影】への攻撃を防ぐ必要があるんだ?


 別にあの影の強度ならイリスの魔法を無視しても大丈夫なはずだ。それほどの力が【影】にはある。じゃあ、なんで防ぐ?

 ……一つ、心当たりがあった。仮説だが、十分信憑性はある。

 このままだとジリ貧。なら、確かめる価値はある。


「……『水刃』!」


 水魔法で形成した水の刃が一体の【影】を襲う。これまで剣が効かなかった【影】に、その時初めて変化が訪れた。


「…………やっぱり、水なら効くみたいだな」


 【影】は硬さからか切り裂くことは出来なかったが、一瞬その形は歪に変化した。

 初めての変化に、俺はついに自分の仮説が確信に変わったことを悟った。


「……まさか、この魔法の弱点を見破るとはね。剣を主に扱う相手には魔法を使うなんて発想はないから有効なんだけど」


「なんで水が効くか……それは蝋燭だからだろ? 【影】は自分の主の性質を得ることが出来るけど、それは逆に弱点も映してしまう。蝋燭は火だし、水には弱いからな。さっきので確信したよ」


 火を吸収する時点で、あの【影】は『火属性』になっていたのだ。性質がそれなら、火の天敵である水が効くのは当たり前。

 それが判れば、あの【影】を倒すことは容易いだろう。

 ――普通なら、だが。


「…………ふふっ。その通りさ。でも、ボクの【影】は水という弱点の代わりに、元々の強度も備えている。君もさっき見ただろう? 君の魔法は【影】にダメージを与えることが出来ても、切り裂くことは出来なかった。つまり、魔法じゃ【影】には……ボクには勝てないんだよ?」


「魔法じゃ……勝てない? そ、そんなの、やってみないと判りません!」


「それは説得力がないよ。だって現に君は魔法でボクに傷一つつけていないじゃないか。かろうじて【精霊術】が厄介なだけだよ。君たちじゃ、ボクには絶対勝てない」


 反論を論破され、イリスは小さく声を漏らす。弓を持っている手にも力が入り、弓が微かに震えている。

 確かにそうだ。俺たちはまだ本気を出したウルに傷をつけていない。

 何故なら彼女は俺たちの先を考え、練り、最適な対処をしている。俺たちの攻撃を記憶し、パターンを読み取る力が、ウルと俺たちの差だ。


 だが、その差を覆すことは、ウルの先を一瞬だけ行くことは決して不可能じゃない。

 それを……証明してやる。


「『絶対』って言葉はねぇ……勝利の余韻に浸るには、流石に早すぎやしねぇか?」


「…………だったら、なにか手があるって言うのかな?」


「ある。とは言い切れないが、小さな希望ならあるよ。邪魔くさいこの【影】共を斬り裂くことは、お前の堅牢な【影】を越えることは。もう手がないのなら、その小さな希望に縋り付いても構わないだろ」


 手がない。それなら作ればいいのだ。小学生でも判る簡単な答え。

 それはつまり、ここでなにかしなければ逆転はない。俺たちの運命を決める最後のチャンスだ。


「ふーん……じゃあ、やってみてよ。君なら出来るでしょ?」


「言わずもがな、やってやるよ!」


 イメージしろ。相手は炎が聞かない堅牢な【影】。そして逆に水が弱点だ。


 だから水の魔法で攻撃するのもありだが、それじゃ【影】を斬り裂くことは出来ない。かといって剣で斬りかかってもやはり斬り裂けず、【魔法剣】による切れ味上昇、魔法付加が必要になるだろう。

 だが、それじゃあ焔の【魔法剣】しか使えない俺の刃は、無駄に焔を吸収されるだけで終わる。


 なら、水の【魔法剣】を作ればいいのだ。

 俺たちの先を今までのデータにより対処するウルが知らない技で。

 一瞬だけでいい。遥か遠い高みへ――


「ふぅ……流れる。荒々しく。透き通るような……そんな力を、魔法を……」


 イメージするは、緩やかに流れる川。

 イメージするは、荒々しく波立つ海。

 イメージするは、清らかで純粋な水。


 その他にも頭の中で様々な連想をしてイメージを固めていく。

 【魔法剣】はそう簡単じゃない。『剣』と『魔法』の共存なんて普通は困難な事なのだ。その困難なことを、無理矢理だが形づけていく。

 水と油。だが、それを可能にしてこそ本当の強さを掴めるはずだ。


「火を打ち消し、全てを飲み込む蒼き水よ……集え――」


 刀身に水のさざ波が聞こえる。気のせいじゃない。確かに聞こえる。

 不可能じゃ、ない。




「――『魔法剣“蒼波”』!」




 刀身は渦を巻くように蒼き水を纏う。透明にも見えるその水。聞こえる、さざ波が。水の魔法の波動が。


「…………へぇ」


「凄い綺麗……」


 ウルは感心の、イリスは感嘆の声を洩らす。

 焔の【魔法剣】の荒々しさと違い、水の【魔法剣】はまるで芸術のように美しかった。


「……今なら、いける」


 渦巻く水を集中し、徐々に薄く薄く刀身に纏わせていく。鋭く、なにもかも斬り裂けるように。

 纏う水は姿を変え、元々淡い蒼色だった刀身が、濃い蒼色に変わったかのように錯覚するほど薄くなっていく。無駄な水を圧縮しているのだ。


「見せてやるよ。これが、俺の新しい力だ!」


 もう既に【影】は動き出しているからあまり余裕はない。だから、一瞬にしてケリをつける。

 身体を捻り始める。刀を水平に構え魔力を流し始めた。振った瞬間、刀身が長く鋭くなるイメージだ。


 集中しているせいか心臓の鼓動が明瞭に聞こえる。音が、鼓動しか聞こえない。


 出来るか判らない……いや、出来ることは判っていた。

 それが出来なければ、俺は【魔法剣士】とは言えない。


「――『二重奏“渦飛沫”』!」


 全身を使った回転斬り。刀を振り抜いた瞬間、膨大な魔力を放出。それによって刀身に纏っている薄い水の層が長い水の刃となって【影】を襲う。

 その場で目の前の半分を斬り倒し、半回転。もう半分を斬り裂くことにより、全方位の【影】を斬り倒すことに成功した。


 【影】は水の魔法しか効かない。

 【影】は鋭い斬撃が必要だ。

 だったら、水の斬撃なら全て解決する。弱点を与え、斬撃で斬り倒す。【影】に一番有効な技だ。


「…………成功、だな」


 確信があったわけではない。若干博打のようななか、勝つためにその博打に賭けた。

 その結果が『魔法剣“蒼波”』という新たな力を手にする事になった。たった一つ。たった一つだけ力を手に入れただけだが、これだけで今までの戦いは劇的に変わる。

 この力は、勝つための希望だ。


「……なるほどね。水属性の剣で【影】を切り裂いたのか……確かにそれが一番有効だけど、練習なんてしていたのかい?」


「たまに、だけどな。でも、成功したのはこれが初めてだよ。まぁ、理由は大体判っているけど」


 今まで個人的に練習はしていたが、全く成功する気配はなかった。水を纏おうとしても、先ず水の元になる魔力が霧散してしまったり、辛うじて水に変化させても直ぐに形を崩してしまっていた。

 今までの失敗と今回の成功を比べ合わせると、理由は一つしか浮かばない。


 ――イリスだ。


 イリスが俺を信じてくれるから、俺と歩いてくれるから、精神的余裕が出来たためスムーズに形作ることができた。イリスには感謝してもしきれない。

 俺は、心から思う。イリスは最高の『仲間』だと。


「――くっ……あはははははははっ!」


 途端に、ウルは額を手で覆い、狂ったような笑い声を上げる。心底楽しそうで、狂喜に染められたソレに寒気がした。


「なんですかっ!?」


「…………なにがおかしいんだよ。気でも狂ったのか?」


「あははっふぁはっ……そうだね。気が狂ったように楽しくてさ、嬉しくてさ、笑いが抑えられないんだよぉ! 君は……君たちはやっぱり最高だよ。これなら大丈夫さ……ボクは認める。その意見に異論はない筈だよ、みんな!」


 どこに向けているのか。腕を大きく拡げ、頭上に向けてなにかを訴える。

 その姿はまるで狂人。誰にも理解することは不可能で、許容することなんで出来やしない。

 ただ、判ることは……彼女は本気で歓喜と狂喜に震えているということだ。


「……お前は、いったいなんだ……?」


 判らない。彼女の思考が、行動が、なにもかもが理解出来ない。

 だけど……何故だ。


 心の奥底で、呆れたように感じてる俺がいるのは――


「それはこっちの台詞だよ。君は……いったい誰だい?」


「な、にが……ッ」


 狂った笑い声を止め、無表情になったウルが俺を見つめる。

 俺の瞳の奥から、俺を心の内まで覗き込もうとするかのようで。


「なにを言っているんですか? ソラ様はソラ様です! ソラ様の代わりはいない。私にとって一番大事な人は、今ここにいるソラ様しかいないんですから!」


 訴えかけ、俺の横に並んでウルを見据えるイリス。

 俺を見ていない。前を見据えている。俺の横に立ち、俺と同じ方向を見ているのだ。


 そうなのだ。もう俺は気負わなくていい。イリスを護る存在にならなくていいから。

 二人で、どんな困難も打ち破っていけばいいから。


「…………改めてだが、決着をつけようぜ、ウル」


「――――」


「言ったろ? 『剣士』と『魔術師』が揃えば誰にも負けねぇ。俺たちが、最強だってなぁ!」


 俺の言葉にウルは肩を竦めながら、無言で小さな杖を構える。ウルの影が蠢き、壁を作るようにウルの姿を隠した。

 これが最後になるだろう。魔力が全くない。体力もすっからかんな俺達がウルに勝つには、予測すら出来ない奇想天外な攻撃をウルに一発ぶちこむしかないから。


「イリス……これで最後だ。悪いけどさ……俺に着いてきてくれ」


 隣のイリスに笑いかける。


「最後じゃありませんよ。これが終わったら皆で祝福して、騒いで、笑い合って……そしてまた違うところへ冒険しにいきましょう。私もソラ様も、まだまだこの世界を回っていないんですから!」


 イリスも笑いかけてくれる。

 覚悟は決まった。

 もう怖くない。俺は独りではないから。


「だから……この手で道を切り開いてやる!」


 鞘に仕舞った刀に手をかけながら地を蹴り、ウルに向かって駆け出した。

 一気にトップスピードまで持っていく。

 『ヘルハウンド』との戦いで高レベル程の敏捷を手にいれた俺のスピードを捉えることは難しいだろう。


 だが、それは並の相手だった場合だ。


「そんなの、ボクが捉えられないと思ったかい? 甘いよ! 『豪流水撃』!」


 膨大な水の砲弾。俺のトップスピードじゃ停止することも叶わないし、かといって躱すにはスピードが足りず、完璧なタイミングで俺に直撃するだろう。


「だけど……これが決着の一発だ! 対策だってしてあるんだよ!」


 直撃する直前、俺は速度を上げた・・・。それにより、直撃するはずだった水は俺の背後で弾ける。


「なっ!? なんで躱すことが……!」


「だから言ったろ! これで全部終わらすつもりなんだよ!」


 そう言いつつ、原理は簡単だ。

 ウルが魔法を発動する前に『ヘルハウンド』を討伐した際にレベルアップしたボーナスポイントを、全て敏捷に注ぎ込んだのだ。

 それにより、ほんの少しだがスピードは更に上がる。


 完璧なタイミングのウルの魔法だからこそ、打ち破れたのだ。


 そして、ウルの直ぐ側まで接近することに成功した。

 ウルは影を自分の目の前に構築する。これでは、ウルを倒すことが出来ない。


「さぁ、最高の攻撃を撃ち込んできて! ボクはそれすらも止めてみせる!」


「うぉぉぉおおおおお!」


 ウルに近付く。近付き、近付き、そして――通り過ぎた。


「…………は? どうしたの? まさか……諦めたのかい?」


 ウルは拍子抜けと言うように背後に振り向こうとする。呆れて、失望したように。

 だが、


「信じてたぜ……イリス!」


「――ッ! まさか!?」


 その行為も間に合わない。ウルが振り向いた瞬間、きっと俺はウル目掛けて剣を抜こうとしていただろうから。


 なにをしたか。これもやっぱり簡単なことだ。

 俺がウルの横を通り過ぎた瞬間、イリスが土魔法で壁を精製し、それを足場に俺は方向転換した。

 簡単ではあるが、だからこそ天才に近いウルに効果覿面だったのだ。


 完璧な不意討ちと油断が仇となる。もう手遅れで、決着はついた。


「――俺たち二人が……最強だ!」


 『“抜刀”三火月』が、ウルの身体を斬り裂いた。





 ――その瞬間、『迷宮攻略者』が誕生した。





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