第五話 『魔法の鍛練』
魔法の名前を考えたり、使いどころって難しいですね。
これからどうしようか不安です。
それではどうぞ!
「あぁぁぁッ、疲れたぁ!」
持っていた羽ペンを放り投げて凝り固まった背中の筋を伸ばす。首を回すとコリコリと音が鳴り、微かな痛みが心地いい。溜め息を吐きながら暫くの間ボーッとする。
「結構覚えたと思うんだがな……」
俺の目の前には文字が書かれた紙がある。文字は俺が書いたんだが、その文字は日本語ではない。何を隠そう、それはこの世界の文字だ。
俺がダリウスさんの馬車に乗せてもらうことになってから四日が過ぎた。明日の昼には街に着く事が出来るだろう。今思えばダリウスさんに出会って良かった。馬車でも五日掛かるなら、歩いてた俺はどうなっていたんだろう。話によるとこの森は世界で二番目に大きく、【深魔の森】と呼ばれているらしい。名前からして怖い。
そして何故文字を勉強しているかというと、初日にこれから行く街の事やこの世界の歴史について聞いたりしているとふと、ダリウスさんは「文字って書ける?」と聞いてきた。【言語理解】は文字には適用されないため、勿論書けるわけもなく、首を横に振る俺。そしたら商人として文字の大切さを判っている笑顔のダリウスさん。
その日から地獄の勉強会が始まった。朝は前日の勉強した部分を三時間復習。昼食時に御者のダリウスさんが休憩がてらに文字を二時間ほど教えてくれる。そしてその後は馬車に揺られながらまた勉強。
もうウンザリだ。そのおかげで文字は大体読めるようになったが、自分が学生だと再確認させられたよ。
擬似的勉強机の上にある水を嚥下して一息ついていると、馬車が速度を下げて停車した。何処か休息地になれそうな場所に着いたのだろう。それから一分も掛からずに御者を終えたダリウスさんが顔を出す。
「カンザキ君、川辺に着いたよ。夕飯にしようか」
「はい。俺も腹が減ってきた所です」
ダリウスさんに言われて外に出ると、やはり川辺に着いたようだ。大きな川じゃないが、内心キャンプ気分になる。元の世界では中学に進学してから友達とそういうことをする機会がなかったし、高校ではゲームにのめり込んだから、こういう事が嬉しい。愛羽達とは学校だけでの関係だったから誘うこともなかったしな。
ダリウスさんが料理の下拵えをしている間に、俺は薪を集める。林の中であるため、林の奥に進めば薪になる木はたくさんある。小さすぎると薪としてはあまり使えないから、奥に進み薪を集める。
ある程度薪が集まり、戻ろうとすると近くからパキッと木の枝の折れる音がする。
念のため【索敵】を使用すると、背後に反応があった。大きさからして、猪の類いだろう。
ダリウスさんから貰い受けた小剣を腰から抜き、素早く反転。振り向き様に投擲する。
「プギッ!」
放たれた小剣は草むらの奥にいる獲物に突き刺さり、断末魔を上げる。その草むらの様子を見に行くと、眉間に小剣を突き立てられて生き絶えている猪がいた。
「今日の夕飯は猪鍋だなっ」
猪を薪と一緒に引きずって持って帰るとダリウスさんに驚かれた。ダリウスさんが下拵えをしている野菜や干し肉が酷く惨めに見える。申し訳ない。
因みに猪の肉は鍋じゃなく普通に焼いて食べた。具材を下拵えをするのが面倒だったからだが、文句は言うまい。毛皮は剥いで残りの肉は干し肉にした。猪を初めて食ったが、クセのある味で中々旨かった。
◇
飯も食い終わり、ダリウスさんと寛いでいる。もう暗くなっているため馬車は今日は走らせない。
つまり、ダリウスさんも俺も暇だということだ。
「ダリウスさん! 始めましょう!」
「毎日飽きませんね。それじゃ始めましょうか」
そう言うと俺達は馬車から離れて川の方に移動する。ダリウスさんは後ろに下がり、俺は前に出る。馬車に乗ってから毎日続けていることを始めるからだ。
深呼吸して集中する。右手を前に突きだし、そして川に向かって放つ。
「――『火球』!」
右手から放たれた火の玉は水の中に水飛沫を上げながら沈みこみ、蒸気を発しながら消滅した。
「大分素早く出来るようになりましたね? 威力は既に僕より上みたいだ」
「いえ、ダリウスさんのお陰ですよ。魔法も使えて大満足です」
俺はあの日からダリウスさんに頼み込んで魔法の指導をしてもらっている。ダリウスさんは少しかじったぐらいで教えれないと言っていたが、最終的には了承してくれた。
今の俺は火魔法・水魔法・土魔法の初級を使える。ただ単に使えるという訳ではない。
俺は無詠唱で使えるのだ。他の魔法も使用できるが、無詠唱で出来るのは今のところこの三種類だけだ。無詠唱でないなら、一応中級魔法も使える。
上位の魔導師ともなると無詠唱は当たり前らしい。そして無詠唱はイメージが特に大事になる。元の世界で映像や漫画、小説を触れてきた俺にとってはそこまで難しい事じゃなかった。だが、詠唱での魔法に馴れた者や裕福じゃなくて色々な事に手をつけていない者は使うことが難しいとのこと。ちなみにダリウスさんは前者だ。
ダリウスさんは若い頃冒険者を夢みていたみたいで、だから図書館で魔法の勉強をするために毎日のように文学を勉強していたらしい。そのおかげもあってか、ダリウスさんがいた村では村で一、二を争う秀才だったとか。
ダリウスさんはその後図書館で火・水・土・風魔法を勉強して、全て初級を習得した。そして冒険者を目指しているある日、冒険者になるために訪れた街で受付嬢だった女性に恋に落ちて結婚。安定の収入を手に入れるために冒険者を辞めて、持ち前の文学を活かして商人になったそうだ。
それならばダリウスさんが初級しか使えないのも納得だ。それに一気に四種類も覚えるのも愚行とのこと。強力な魔法が使えないのは確かに痛いだろう。なんせゴブリン三体を一掃出来る魔法が使えないのだから。
俺も数種類の魔法ではなく一種類の魔法を極めた方が良いと提案されたが、やんわり断った。俺の主は剣だからだ。そう言うと納得されたが。
話によると、近接系の戦士と魔法使いの混合はありえないらしい。戦士系でいこうとするならば、近接系のスキルを鍛えないといけなく、魔法は疎かになる。反対に魔法を磨くと、近接系のスキルが上がらないからだ。
まあ、俺のユニークスキルだったら別に魔法を鍛練してもスキルは上がるから、どちらも鍛練しようと思う。魔法は案外イメージ力で何とかなるし。剣と魔法を扱うって……格好良いじゃん?
他の魔法も教わったがどれも初級ばかり。ダリウスさんは初級以外余り使えないとのことだ。風の魔法はコツを掴んだからその内無詠唱で使うことが出来るだろうし、魔法を練習してから三日四日で習得出来ているから、直ぐに他の魔法も無詠唱で出来ると思う。
今向かっている街【ラフリア】には大規模な図書館があるらしいから、そこで回復魔法、中級の魔法に挑戦することにしよう。今こそスパルタであるダリウスさんの勉強講座が役に立つことに……!
「どうしますか、カンザキ君。僕が教える方が良いか、自分で魔法を磨くか」
「んー。そうですねぇ。風魔法も無詠唱で使えるようになりたいから自分で練習しますよ。魔力が尽きるまでやるつもりですからダリウスさんは先に馬車に戻ってますか?」
「いや、折角だし見学させてもらうよ。仮にもカンザキ君の師匠ですからね」
俺はそれを快く受け、魔法を発動させる。無詠唱の鍛練は、ただ魔法をイメージするわけではない。頭の中で詠唱を自然と思い浮かべるまで練習し、魔法の全体像や効果を完璧にイメージしないと成功はしない。冷静さと想像力が必要となるのが無詠唱だ。
俺はひたすら魔法をイメージし、ダリウスさんに助言を貰いながら魔法を発動し続けた。
◇
「ッ!」
気付かなかった。やっぱり魔法で集中していたのが原因か? もう少し目立たずやるべきだったか。後悔しても遅いから仕方がない。
「どうかした、カンザキ君?」
「…………ダリウスさん。囲まれています」
「なんだって!?」
俺の【索敵】に反応するだけでも六体。もう少しいるかもしれないが。
暗闇には赤色の光が見える。よく見ると身体を確認することができた。黒っぽい毛皮の狼だ。俺が森でさ迷っていた時に出会った魔物の同じ種類だろう。
ダリウスに見覚えはないか聞いてみると、直ぐに教えてくれる。
「それは【グレーフウルフ】じゃないか! マズイな……」
「厄介な魔物何ですか?」
「一体の実力はゴブリンに劣るけど、群れを組んでいて非常に手強いんだ。大きいものだと四十体程の群れを作るらしい」
「数は少なくとも六体……いや七体に増えました」
「小さい群れのようだけど……。どうする、カンザキ君?」
どうするもなにも、囲まれてるんだから答えは一つだ。
「戦いましょう。ダリウスさんは俺を援護しつつ馬車を守ってください。俺は攻めこみます」
「大丈夫なのかい?」
「任してください。ゴブリンの時と比べると魔法も使えるようになっていますし、それに……」
スキル【剣術】は大きい。更に向上したステータスがあれば百人力だ。
ゴブリンは殆ど不意打ちで倒した様なものだから、グレーフウルフに通じるかどうか分からない。が、やれないことはない。
ゲームの時でも感じなかった『リアル』を感じる。今の俺にとっては、日本での生活ではなく、命を賭けたこの世界こそが『リアル』だ。
だからこそ始めよう。
この世界に順応するため。
この世界に認められるため。
そして、この世界を生きていくためにも。
「じゃあ、始めようか!」
剣を抜く。それを戦闘の合図として、グレーフウルフは飛び出してきた。
――――さぁ、戦闘開始だ。
次回の更新も明日の18時になります。