表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第二章 【迷宮探索者】
50/70

特別番外編 『ばれんたいんでー』


この話は本編と時系列、並びに食材に関しては関係ありません。……多分。




 ――今日はソラ様が昼からアランさんと訓練所に行って夕方まで帰ってきません。


 なので、私はお留守番です。ですが、寧ろ好都合。

 というより、私がアランさんに頼んでソラ様を連れていって(引っ張って)貰ったんですけどね。


 あぁっ……ごめんなさい、ソラ様……! ソラ様が助けて欲しそうにこっちを見ていたのに目を逸らしてしまいました。

 帰ってきたらどんなお叱りも受けるので、今だけは許してください。


 私は宿に戻り、ソラ様から頂いて貯めていたお金を金庫から出してインベントリに入れます。

 部屋の鍵を閉め、ドリーさんに外出の旨を話してから宿を出ました。とてもいい天気です。


「よーし、行きますか!」


 今日のために色々と準備をしてきました。貯めていたお金もこの時の為だと行っても過言ではありません。

 待っていてくださいね、ソラ様! ソラ様の為に今日は頑張ってきます!


 私はグッと握りこぶしを作り、目的の場所へと足を運びました。









「お、お邪魔します……」


 私は、ソラ様と私が御世話になっているダリウスさんが構えている【エルノ商店】に来ていました。


 【エルノ商店】は今日限定でお休みしています。休みの理由は、ダリウスさんが用で出掛けているという事になっていますが、それだけが理由ではないことを私は知っています。


 ですので、あらかじめ教えてもらっていた裏口をノックしながら入りました。

 入って直ぐに私に気付いたのか、奥からダリウスさんの奥さん――私が今日、御世話になるミムルさんが迎えてくれました。


「いらっしゃい、イリスちゃん。もう準備は出来てるし、直ぐにでも取り掛かれるわ。今日はよろしくね」


「は、はい! よろしくお願いします!」


 ミムルさんについていき、【エルノ商店】の奥にある台所で持ってきていたピンクのエプロンを着る。

 ソラ様が帰ってくるまであと四時間程。頑張らないと。


「それじゃ、イリスちゃん。早速『ちょこれーと』作りをしましょうか」


「はい!」


 そう。私が今日ここに来た理由は、ミムルさんに『ちょこれーと』作りを教えてもらう為だ。


 今日は『ばれんたいんでー』という、大切な男性に『ちょこれーと』を贈って気持ちを伝える特別な日だそうです。

 それは何処かの国で始まったらしく、ミムルさんは昔からこの日になると、ダリウスさんに手作りの『ちょこれーと』を贈っているみたいです。

 前にそれを聞いて、私もソラ様に贈ろうと頼み込んだところ、一緒に作る事を了承して頂きました。


 この『ちょこれーと』はとても甘いです。ですので、料理があまり得意ではない私でも、ミムルさんに教えてもらえばそれほど酷くはならない筈です。


 それで『とても美味しいよ、イリス。俺もお前が大好きだ』って言われたらどれだけ幸せでしょう……!

 ……判っています。それは高望みだと。

 ですが、『美味しい』と言ってくれる事を目指して今日は頑張ります!


「先ずはこの『ちょこれーと』を刻みましょうか。ほら、イリスちゃん、やってみて」


 ミムルさんが用意していた『ちょこれーと』を包丁で細かく刻んでいきます。

 この包丁はソラ様がヴィリムさんにオーダーメイドで作らせたもので、とても使いやすいです。折角なのでミムルさんにも貸して一緒に作っていきます。


「ねぇねぇ、イリスちゃん」


「――? どうしましたか?」


 私とは違って難しい『ちょこぶらうにー』を作るために『ちょこ』を湯煎しているミムルさんが声を掛けてきました。どうしたんでしょう?


「イリスちゃんはカンザキ君に告白するの? 好きだって言うの?」


「――――っ!?」


 あ、危ない……! 思わず刻んだ『ちょこれーと』をひっくり返すところでした……。

 私は恨みがましい視線をミムルさんに向けます。


「な、なにを言うんですか……いきなり……!」


「ごめんごめん! でもさ、渡すのってカンザキ君でしょう? だから、告白するのかな……って」


 ミムルさんは頬を掻きながら気まずそうにしていました。

 その表情から、なにを言いたがっていたのか判ってしまった。


「いえ、告白はしませんよ」


「そうなの?」


 告白は本当に大切な人に贈るものです。確かにソラ様は私にとって初めて好きになった方……ですが、



「私はこの関係でも、十分満足してますから」



 私は忌むべき存在のハーフエルフの奴隷。それに対してソラ様は勇者様と同じで異世界から召喚された『英雄』の素質を持っている人。


 ですから、私とソラ様では釣り合わない。私が告白すればソラ様は困惑し、きっと気持ちを受けとめて貰うことは出来ないでしょう。

 それなら、関係を崩すぐらいなら、私は今のまま・・・・でいい。


 ――それが、今の最良の選択ですから。


「そっか……でも、いつかイリスちゃんの想いが通じるといいね」


「……そうですね」


 いつか……。その日が来る事はあるのでしょうか。


「――はい、刻み終わりました! この後どうすればいいですか?」


「……えぇ。この後はこの生クリームを鍋で温めてみて。温めたらそれで『ちょこれーと』を生クリームに溶かすから」


「判りました!」


 まだまだ先は長そうです。疲れた手を振ってほぐしながら、私は生クリームを温め始めました。











「そろそろ良いんじゃないかしら?」


「そうですか?」


 溶かして形を整えた『ちょこれーと』を氷魔法で冷やしていましたが、もう十分そうなので魔法を解きます。

 ドロドロしていた『ちょこれーと』はすっかり固まっていて、とても甘い匂いを発しています。美味しそう。


「それにしても、魔術師がいるのは楽わね。本当だったらわざわざ氷を買ってきて一晩冷やさないといけないんだから」


「お役に立てたのなら良かったです」


 一晩冷やした方が美味しいらしいですが、この日しか店の休みが取れなかったみたいなので仕方ないです。

 ちなみに、ミムルさんの『ちょこぶらうにー』は窯を火魔法で温めました。


「それじゃあ、次はそれを食べやすい大きさに切り分けて。そこにこの粉を掛けたら完成よ」


 包丁で一口程の大きさに切っていきます。とても柔らかい感触。そこに黒い粉を掛けました。

 この黒い粉は少し苦味がありますが、『ちょこれーと』と相性が良いそうです。



 そして、私が作っていた『生ちょこ』が完成しました。



「今日はありがとうございました! これでソラ様も喜んでくれると思います!」


 私一人ではきっと焦がしてしまったり、固くなってしまったりと散々だったでしょう。ミムルさんに教わったお陰で無事に完成できました。


「こちらこそありがとね。イリスちゃんと作ったお陰で楽しかったわ」


 これからミムルさんは帰ってくるダリウスさんに『ちょこぶらうにー』渡すそうです。そんな家庭を作っているミムルさんが羨ましい……。


「イリスちゃん」


「はい?」


 ミムルさんは私を優しく抱きしめ、耳元で囁きました。


「――頑張ってね」


「…………」



 なにを頑張ればいいんですか。そんな事は言いません。きっと、私の頬は真っ赤に染まっていることでしょう。










「――た、ただいまぁ……!」


 ソラ様が部屋にふらふらしながら帰ってきました。今になって罪悪感がとても膨れ上がってきます。


「お、おおお……おかえりなさい、ソラ様!」


「あ、ああ。なんでそんなに吃ってるんだ?」


 緊張で上手く言葉が出ませんでした。そんな私の様子にソラ様は首を傾げています。うぅっ、恥ずかしい……。


「そ、ソラ様ッ!」


「は、はい!」


 私が大きく声を出したせいか、ソラ様が背筋を伸ばしました。ですが、その事を謝ることなんて今は出来ません。

 頑張れ……私!


「あの、これ!」


 私は後ろで隠し持っていた皿に載った『生ちょこ』をソラ様に渡します。


「えっ? これって……チョコか?」


 やっぱりソラ様は博識です。『ちょこれーと』の事を知っているなんて……もしかしたら『ばれんたいんでー』の事も知っているかもしれませんが、その時はその時です!


「ひ、日頃のお礼に作ってみました。た、食べてください!」


「おっ、おお。ありがとう」


 何故かソラ様も顔が赤かったのは、私の都合の良い勘違いでしょう。

 ソラ様は指で『生ちょこ』を摘まみ、口に運びました。


 ――そして、


「う、美味いなっ。このチョコ」


「本当ですかっ!?」


 私の剣幕にソラ様は驚きながらもコクコクと頷きます。それを見て、私は笑顔になってしまうのを堪えることが出来ませんでした。

 ソラ様はパクパクとどんどん口に入れていきます。気に入ってくれたみたいです。本当に良かった……。


 私がホッと胸を撫で下ろしていると、




「――やっぱり好きだな」




「――――!? す、好きって言いませんでしたか!?」


 き、聞き間違いでしょうか!? そ、ソラ様が好きって、そう言ってくれました……!

 私は歓喜の渦に巻き込まれました。ですが、


「ああ。好きなんだよ、チョコは」


「……………………え?」


 上げて落とされました。ええ、それはもう奈落の底の奥深くに。

 判っていましたが、まだまだ希望を捨てきれていないようです。ミムルさんに言ったことは、全て建前のようなもの。


 ですので、その言葉を受け止めることなんで出来ず、



「ソラ様の! バカぁぁああああああああっ!!」



「いや、なんで!?」


 私は勢いよく部屋の扉を開け、そのまま部屋を出ていきました。ソラ様の声が聞こえましたが、足は止めません。


 涙を堪えながらそのまま宿を出ましたが、ふと気付きました。


「…………雪?」


 白い雪が空から降り注ぎました。美しい雪。

 雪を見た衝撃のおかげか、少し落ち着きを取り戻しました。


 ――諦めませんよ。ずっと。




「……私は好きですよ、ソラ様」




 いつかこの気持ちが、あの鈍感なご主人様に届くことを夢見て――










ハッピーバレンタイン!


皆さんは誰かに気持ちを伝えましたか? それとも気持ちを受け止めましたか?


私には縁が無いことですが、イリスにもソラにもそういう日もあります。今日と言う日が良き日になることを!



イリスが可愛いと思ったら感想お願いします。イリスに人気がない……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ