第十話 『呼び出された意味』
気付いている方もいらっしゃると思いますが、サブタイトルを追加しました。宜しくお願いします。
「さて、改めて自己紹介をしたらどうだ? 話したいこともあるだろう」
アドマンド国王が俺、エミル姉とエミルを見ながらそう言った。ゾトル氏は既にアドマンド国王の隣に控え、デリックは俺の斜め後ろに立っている。
他の騎士二人はゾトル氏と交代するように外に出ていった。ゾトル氏は騎士二人よりも信頼出来るということなのだろうか。
あれから一悶着あったのだが、ゾトル氏の助言によって一旦落ち着かせる事になった。その後改めて自己紹介をするという形で。
というよりもエミル姉が騒がしかっただけなのだが。
「えっと、どっち――いや、どちらから自己紹介しますか?」
「……別にカンザキさん、無理に敬語を使わなくても良いんですよ?」
「いや、そういうわけには……」
確かに初めて会った時は失礼な奴だと思って敬語を使わなかった。別にまた再会しても直すつもりはなかったが、この国の王女様となると話は別だ。
下手すると俺の首と身体が離れる事態があるかもしれない。
俺が戸惑っていると、アドマンド国王が立ち上がった。
「本人が構わないと言っておるのだ。カンザキ殿、娘の為だと思って敬語を止めてもらっても構わぬ。私は黙認しよう」
「良いんですか、それで……」
まあ、アドマンド国王から認めてもらえるのなら敬語は止めるか。改めて敬語を使うのは、なんとなく面倒だと思っていたし。
……何故かアドマンド国王が笑ったような気がするが、見間違いか?
「別に私の時も敬語は止めても良いのだぞ?」
「だからそれは……まあ、王女様が敬語じゃないのにアンタが敬語なのはおかしいか……」
デリックにもそう言われたので敬語は止めることにする。
というわけで王女姉妹と改心騎士には敬語はナシの方向になった。
デリックの方は俺もそれほど気にしていないが、王女二人の場合は本当に後ろから斬られそうで不安なんだけど。
俺達の話が一段落したのを見計らい、エミル姉が前に出る。
「コホンッ。それでは、私から自己紹介をさせてもらいます。――私はエミリア・トーマ・アドマンド。アドマンド家の長女であり、この国の第一王女でもあります。宜しくお願いしますね……カンザキ、さん?」
「あ、あぁ……宜しく」
エミル姉はエミリアという名前を強調して笑顔を浮かべた。芸術品のような美しい女性の笑顔というのはやはり男としては凄く見惚れてしまう。
……只、最後の俺の名前を呼ぶ時の笑顔で、妙に背筋が寒くなったのはなんだったのだろうか?
「じゃあ、次は私だねっ」
隣で俺の右手を強く握っている幼女が手を上げ、皆の視線を集めた。
俺と向かい合っているエミル姉が、繋いでいる手を睨んでいる。……大丈夫だよ。俺、ロリコンじゃないから。手汗はこの娘の体温が高いから、かいているだけだぞ。
「私はエミル・トーマ・アドマンドです! えっと、アドマンド家の次女で第二王女です。宜しくお願いします、お兄ちゃん!」
「ああ! 宜しくな!」
幼女の笑顔に、言葉に、心が癒されていく感覚。いや、俺は決してロリコンではないが。
お兄ちゃんという響きが何となく嬉しい。妹のように接してくれてるのはなんだか涙が出てきそうだ。
ユキは元気なのだろうか? 泣いているだろうか。好き嫌いなく食べているだろうか。俺のベッドに忍び込んでいないだろうか。
今は会えないから、そう考えていても仕方ないのだけれど。
「むぅ~。カンザキさん……私とエミルで対応が違いませんか?」
「気のせいだ。気のせい」
エミル姉は膨れるが、どう考えても純真無垢な幼女の方が癒されるだろう。対応が違うのはエミル姉の感じ方だ。
すると、他の皆の視線が俺に注目する。確かに俺だけ自己紹介はまだだったな。
「……私はソラ・カンザキと申します。【ラフリア】で主に活動しているDランク冒険者です。宜しくお願いします」
俺はデリックの騎士流挨拶を真似てお辞儀をしてみる。この世界の正しい挨拶なんて知らないし、これでなんとかなるだろう。
「…………ふむ。礼儀も知っているようだし、良いだろう」
「えぇ、彼で大丈夫でしょう」
「何か言いましたか?」
アドマンド国王とゾトル氏が小さく呟いたが、微かに聞き取ることができ、質問してみる。さっきの言葉から俺の事だったように聞こえた。
そう言うとアドマンド国王はエミル姉を一瞥し、溜め息を吐きながら話し始めた。
「いや、今困ったことになっておってな。我が娘達が私の為の贈り物を隣街まで買いに行った帰りに襲われた事は知っているな」
「えっ? あれってその帰り道だったの?」
その事は初耳だ。というか、その帰りに奴隷商人の馬車に乗るって運が無さすぎだろう。
「えぇ。当日まで贈り物は秘密にするつもりでしたけど、その事でバレてしまいましたが」
「それ聞いた時、お父様は大泣きしてしまったんですよ」
エミル姉とエミルがそれぞれ話す。
いや、結構厳ついオッサンが大泣きするって、大人としてどうよ。親バカなのは判ったけどさ。
「私はそんな娘達を持って幸せなのだよ……」
「――国王様。話の続きですよ?」
「お、おお。すまない」
アドマンド国王が親バカを発揮している時にゾトル氏が止めてくれた。やっぱり執事というのは気が利く事をしてくれる。エミル姉も顔が赤くなっているし。
「それでだな、隣国貴族であるアストライ侯爵の息子がエミリアに求婚しているのだ。……お主の功績を自分の配下の者がやったと言い出し、それを結納の代わりとしてな」
「アストライ侯爵……聞いたことがあります。先々代の功績により伯爵から侯爵に成り上がった貴族。ですが、先代からは不正などの黒い噂が絶えないらしいですが」
デリックはアストライ侯爵の事を説明する。
つまり二人の情報を整理すると、
『不正等の黒い噂の絶えない貴族が、俺の手柄を自分の物だと言い出してエミル姉に求婚を迫っている』と。
「最悪な貴族じゃないですか……」
「爵位も低くはないし、隣国との関係を築くには悪くはないんだが、流石にアストライ侯爵はな……」
アドマンド国王は頭を押さえながら、首を振って溜め息を吐く。
エミル姉とエミル、ゾトル氏もこっちを見ている。
…………これは嵌められたかな。
「……それで、私に何をさせたいんですか? 礼を言う為だけに呼んだわけではないんでしょう?」
こんな内部情報を恩人だからといって、只の冒険者に話して良いわけないだろう。それを俺に話すということは、何か裏かあるとしか考えられない。
「判っているのなら話が早い。私がお主に望むのは――」
アドマンド国王は不敵な笑みを浮かべ、
「――――エミリアの婚約者のフリだ!」
◇
実はこの後、アストライ侯爵の息子がまたやって来るそうだ。
王国としては下手に動くと隣国との関係が悪くなる可能性がある。
そこで本当の恩人である俺の登場と、同時に婚約者という所を見せつけて、少しでも向こうの情報を混乱させたいらしい。
その時間があれば、アドマンド国王は今回の事から相手側の不正等を暴く理由付けが手に入る。そうすれば今回の事は解決だ。
「カンザキ殿、出来るだけエミリアと仲睦まじく宜しく頼む。胸とか触ったら死刑だがな!」
「厳しくないですか!?」
「カンザキさん……そういうことはしないでくださいね」
「俺を信頼してくれませんかねぇ!?」
漫才のような事をゾトル氏とエミル、デリックは微笑みながら眺めている。関係ないからって、フォローの一つもしてくれない……。
――――コン、コン。
大きな扉だからか、小さなノックの音が響いた。ここに来る人物は、一人しか居ないだろう。
「うむ。入りなさい!」
アドマンド国王がそう叫び、扉の方から騎士を二人連れた青年が入ってきた。
青年はキラキラとした装飾をし、背は高いが身体も横に大きい。容姿は肥えた豚の人間版みたいだ。
「国王陛下! エミリア様! お久しゅうございます。ジャリーア・アストライです。今日はお招き頂きありがとうございます」
いや、誰もお前を招いてねぇよ! というツッコミが出そうだったのは俺だけではない筈だ。確かにこの男とは不正云々とか以前に結婚したくないな。
というか、近くにいるエミルぐらいは挨拶しろよ。こいつはエミル姉ぐらいしか見えてないのか?
「うむ。来てもらって早速なのだがな――」
「ああ! エミリア様、本日も麗しい!」
「ひっ!」
アドマンド国王の言葉を無視してアストライの息子とやらは早速エミル姉を口説きにかかった。
エミル姉の手を掴んだお陰で、エミル姉から悲鳴が上がる。生理的に無理みたいだ。失礼な男だし、何故こいつが貴族なのかよく判らない。
「良かったな、デリック」
「……何がだ?」
「前のお前はアレよりも断然マシだったぞ」
「…………比べないでくれ、頼む」
デリックは本当に嫌そうに首を振った。まぁ、アレと比べると自分でも悲しくなるんだろう。俺も嫌だ。
「私の求婚を受けてくれますか? エミリア様。私は貴女を愛しているのです……」
「ぇっ……やっ……!」
まさに美女と豚みたいな感じだ。アストライの息子が手の甲にキスしようとすることで更にそれが顕著になる。
するとアドマンド国王や他の皆が俺の方を見ている。さしずめ「早く行け」ってことだろう。
……仕方がないか。
「――すいませんが、ジャリーア様。手を離してください」
「なっ!」
エミル姉の手をジャリーアから無理矢理離させ、エミル姉を抱き締めるように庇う。
ジャリーアも驚愕の表情を浮かべているが、エミル姉も同じような顔をしている。
きっとこんな風にされるとは思ってなかったのだろう。我慢してほしい。仕方がないことなんだから。
「き、貴様! 何をするのだ!? 私達の時間を邪魔しおって……貴様は何なのだ!」
本当に意味が判らないような顔で混乱している。豚が喚いているのは滑稽だ。いや、それは本当の豚に失礼だな、うん。
「私ですか? 私は王女殿下の…………いえ、」
俺は見せつけるように、挑発するようにエミル姉の頭を胸に包み込む。
エミル姉は混乱しすぎて顔が真っ赤だが、今は無視するぞ。
「――――私はエミリア様の婚約者ですよ」
【スフィア】解説
・『RWO』
神崎空や愛羽夏姫が愛用しているVRMMOである。
魔法は無いが、剣から拳銃まで幅広い武器が存在している。神崎空が愛用したのは刀。
他にも家を買うこともできるし、街では実際に建築やガラス作り等も体験することが出来る。
毎月大きなギルド戦があり、そこで一番のギルド、プレイヤーを決めている。
モンスターは強いが、基本はソロでもギリギリ倒せる設定にしているため、パーティを組めば負けることはない。隠しクエストは例外ではあるが。
◇
後、2、3話程で迷宮攻略出来ると思うので、それまでお付き合いください。