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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第二章 【迷宮探索者】
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第九話 『国王との謁見』

 程よい風が窓の外から吹き込んでくる。

 冷たすぎないその風と、馬車の揺れが眠気を誘い、瞼が徐々に重くなっていくのが感じられる。


「カンザキ、本当に良かったのか?」


 俺をゆらゆらとした感覚から引き上げたのは、男の声。

 目を開けると、二十歳前半の容姿の整った男が俺の顔を覗き込んでいた。その容貌に何故か心がときめいたのは気の迷いなのだろう。うん、きっとそうだ。


「良かったっていうか、仕方がないでしょう。デリック様も言っていたように、王城では流石に連れてくるのは無理ですよ」


 近くにはデリックの他にゾトル氏が居るため、名前は様付けだ。

 今話をしている話題はハーフエルフの少女、イリスの事について。


 馬車には俺と、他の騎士とは例外に乗っているデリック、そして御者をやってくれているゾトル氏だけだ。

 何故イリスが乗っていないかと言うと、それはさっきの会話が関係している。


 旧デリックも言っていたが、貴族にとってハーフエルフは侮蔑する存在だ。王城はいわばその貴族の巣窟とさえ言える。

 ならそんな危険な所にイリスを連れていけるわけがない。幸い国王が望んでいるのは俺一人だ。イリスに行かなければならない義務はない。


 イリスには悲壮な表情を浮かばして自分も行くと言っていたが、流石にこればかりは譲れない。譲ってはいけない。

 後でなんでも言うことを聞くという条件でイリスを宿に戻らせて、俺は王城に向かっていた。


「そんなことよりも、俺が呼ばれた理由を知っていますか? なんで呼ばれたのか、自分には身に覚えがないんですけど」


 聞くと、向かいに来た本人であるデリックも判らないようで首を傾げた。


「すまないが私も知らぬ。王からは『カンザキ』という男を王城に連れてきて欲しいとしか言われていないものでな」


 そういえばデリックも俺が二十も満たない男というのは知らなかったな。

 今思えばあれから俺とイリスに対して敵意が強くなった気がする。少し前までのデリックがそうだと思うと信じられない。突然変異でもなければあり得ないだろう。


「――恩人だそうですよ」


「えっ?」


 ふと、御車の方から声が掛けられた。

 そこに居るのは一人しかいない。御者をしているゾトル氏の声だった。


「国王様が、貴方に礼を言いたいと。出来れば自分から直接言いたいと、そう申しておりました」


 何の事だろうか。俺は【アドマンド国】国王との面識はないし、そこまで感謝されるほどの事をした覚えがない。何か間違いではないだろうか。


「誰かと勘違いしているのではないですか?」


「いえ、フード付きの外套を纏った刀使いのカンザキという黒髪の男性は、貴方しかいませんでした。間違いという事はないでしょう」


 そこまでピンポイントで言われると俺以外には存在しないか。いや、でも、本当に覚えがないんだが。


 すると、デリックがおそるおそるといったふうにゾトル氏に聞く。


「あの、ゾトル様……国王様が恩人と言う程の人物なら、私がもしカンザキに何か粗相をすれば……」


「その場合、デリック様は今の地位を護ることが出来なかったかも知れませんな。まぁ、もしですが」


 デリックの顔はみるみる内に青褪めていく。その奥で微笑んでいるゾトル氏を見た瞬間、わざとだと言うことが理解できた。

 その意図を知らないデリックは俺の目の前まで迫り、肩を強い力で掴み、


「頼む、カンザキ! 私が貴様に働いた事は王には秘密にしてくれ! もうそのような行いはしないと誓ったばかりなのだ! 変わる前からそんなことになったら、本当にこれからやっていけないかも知れん……!」


「そこまで変わると寧ろ清々しいな!?」


 本当にこいつは突然変異しているんじゃないか!? 絡みやすくはなったと思うけど。


 確信犯であるゾトル氏も何か意味深な微笑みをデリックに向けている。デリックはゾトル氏に頭が上がらないみたいだな。


「ゾトル氏は、俺が恩人と呼ばれる何かを知っているんですか?」


「はい。知っておりますよ」


 第一王女の執事という事のため、知っているんじゃないかと思ったが、案の定ゾトル氏は知っているみたいだ。というか、最初から教えて欲しかった。


「カンザキ殿は、第一王女様と第二王女様を危機から救ってくださったと聞いております」


「危機……ですか?」


 俺が王女様二人に会っている? そんなことあったか?


「もしかして、王女殿下方が王城を抜け出して隣街に向かった時の話ですか?」


「ええ、その話で合っております」


 デリックは何か身に覚えがあるみたいだ。というか、城を抜け出したって駄目だろそれは。なんで抜け出せるんだよ。大丈夫か警護兵?


「その話は何の事ですか?」


「ああ、王女殿下方が隣街に買い物に二人だけで行ったのだ。王女殿下は警護兵に軽く外に出てくると言って城の外に脱出した」


「見逃したら駄目だろそれは!?」


「いや、何時もしっかりと伝えた時間に帰ってくるし、王女殿下自身が自衛の心得を持っている事から、何時も通り通したみたいだぞ。こういうのは今回が初めてのようだが」


 良いのかそれは? いや、俺がおかしいだけなのか……?


「そして王女殿下方が帰るときの馬車で、盗賊達に襲われたそうだ。そこでとある冒険者がお二人を助けたらしいんだが」


 デリックの言葉を聞いて、俺は何かを思い出した。

 それって、もしかして……。


「――カンザキ殿、デリック様、着きましたぞ!」


 そう言われて、窓から外を覗く。

 白などの明るい色で彩られた、清潔感を感じられる城。そこまで大きくはないが、それでも十分な程美しく品がある。



 そんなことよりも、俺はさっき言っていた王女様について心当たりがあり、その事をずっと考えていた。







「なんか壮観だな……本当に俺なんかがここに来ても良いのか?」


 国王の間に向かう最中の廊下もとても美しい装飾品が使われている。

 しかも服は皆が正装、もしくは騎士の鎧に対して俺は薄汚れた外套だ。場違い感が感じられてとても居心地が悪い。


 すると、俺の言葉を聞いていたデリックが、


「良いに決まってるだろう。貴様を呼んだのは国王様だからな。寧ろ来なければ王に対しての反逆罪として罰せられるぞ」


「理不尽だろ……それは」


 案内してくれるのはゾトル氏だ。鎧を着ているデリックは俺と会話をしている。

 周りの遠回しに見てくる視線から、疑惑の目が向けられているのが判った。デリックはそう言うが、やっぱり場違いじゃないのか?


「ここで国王様がお待ちです」


 ゾトル氏が大きな扉の前で止まった。如何にもという感じだ。


「国王様、カンザキ殿を連れて参りました」


 ゾトル氏がノックをし、大きな声で呼び掛けると、少しの沈黙の後に声が聞こえた。


「おお、入ってくれ」


 低い声。それは許可を意味する言葉だ。少し緊張するが大丈夫だ。

 深呼吸をしながら、開かれた扉の中に入る。


「……失礼します」


 中に入ると、大きめな部屋に予想以上の美しい装飾品が目の前に入ってきた。

 だが、それほど装飾品の量は多くなく、控えめだが外装と同じように上品という言葉が似合う程だった。


 そして、目の前にはゾトル氏よりも若いが、壮年の男性が部屋の奥にある椅子に座っていた。その左右には騎士であろう鎧を着た男が二人立っていた。


 俺達は座っている男に近付くと、ゾトル氏とデリックが左膝を上げた正座状態となって頭を下げた。


「……お主が、カンザキか?」


 その言葉を聞いて、俺も二人を真似て建膝たてひざをついた。


「はい。私がカンザキと申します。お招き頂きありがとうございました」


 聞いていなかったとしても国王だというのは判るだろう。とても落ち着いた貫禄を纏っていて、これが上に立つ者なのだと心から思った。

 デリックは人の上に立つのは難しいかもな。レベルが違うもん。


「よい、頭を上げよ。呼び出したのは私の方だからな。ゾトル、デリック、ご苦労だったな」


「ハッ!」


 顔を上げ、国王の顔を見る。ふむ。イケメンだな。貴族ってのはイケメン補整でもあるのか?


「私は【アドマンド国】国王――ドルマン・トーマ・アドマンドだ。以後、宜しく頼む。今、娘達を呼んでおるからな」


 娘――そうだ、俺が呼ばれた理由の娘って……!


「此度呼んだのは他でもない。聞いていると思うが、私の娘を救ってくれた恩人に対して礼を言おうと思ってな。感謝する。娘を救ってくれてありがとう……!」


「い、いえ……! 国王様も顔を上げてください! 視線が気になるんですが……!」


 アドマンド国王が頭を下げた瞬間から、前方の騎士二人とデリックからの視線が痛い。若干睨んでいる気がする。


「おお、すまなかった。それでだ――」



「――お父様!」



 バンッ! という音と共に扉が開かれ、一人の少女が中に入ってきた。

 その少女は十歳も満たないであろう。青いドレスを着て、周りをキョロキョロと見渡す。


 そして、少女の目と俺の目が合った瞬間、太陽のような笑顔になった。


「お兄ちゃん!」


 少女はドレスを着ているのも関係なく大股で駆け寄ってくる。

 そのまま飛び付くように俺の懐に頭が直撃した。


「ぐはっ!」


 今日は女性に抱き付かれる日なのだろうか。イリスにもやられたように、一ヶ所に痛みを伴うというオプション付きだが。


「久し振りですね! お兄ちゃん!」


「お前は……」



「――こら、エミル! 走らないの!」



 再び扉の方で声が聞こえた。

 今度は駆け寄ってきた少女の大人びたように成長した美しい女性で、赤いドレスを着ていた。

 ドレスは派手だが、立ち振舞いは清楚な女性を連想させる。


 そして俺はその女性を指差し、




「お前…………エミル姉か!?」




「エミル姉じゃありません! エミリアですよっ!」





 ――かつて俺が救った姉妹との再会だった。







【スフィア】解説

・【アドマンド国】


【スコラット大陸】にある国の一つ。

特徴としては税を搾取することもなく、王室の者も贅沢はあまりしないため、比較的良い国だと言われている。

国王も王女も街の人々とも交流があるため、国民との仲は良好と言えるだろう。

特に王女二人は国民のアイドルであり、第二王女は可愛く、第一王女はとても美しい少女だ。

最近では冒険者に銀髪の美しい少女が現れた為、その三人の派閥が出来ているそうだ。

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