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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第二章 【迷宮探索者】
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第七話 『魔法斬り』

正直ストックがあまりなく、不定期に投稿するので決まった時間には投稿できません。

毎日更新は頑張りますが

 今回の決闘は模擬戦ではないため、真剣を使っている。

 俺は【鋼鉄の太刀】と【鉄の小剣】を装備している。


 対するデリックは小型の盾【バックラー】と【レイピア】だ。鎧も高価な素材を使っているのか、銀色の輝きを放っている。


「カンザキと言ったな……降参してもいいんだぞ?」


 デリックが嘲笑しながら俺を煽った。レイピアを手に転がし、余裕を見せている。

 ここで俺が怒りに任せて冷静を失えば、勝てる確率は大幅に減ってしまう。デリックもそれが目的なのだろう。


「降参しても結局はお前の奴隷になるだけだろうが。お前こそ、敗けても俺を恨むなよ」


 鼻で笑うと、デリックは判りやすく身体をわなわなと奮わせて怒りを堪えている。

 顔が赤い。俺にしようとした作戦が逆に自分に受けたのだ。滑稽に感じる。


「貴様……! だが、王宮騎士四番隊隊長である私が、二十も満たないお前みたいな平民に敗けるわけがないだろう!」


 その自信に満ちた表情で悟る。

 こいつは俺が明らかな格下だと思ってこの勝負を仕掛け、今でも勝利を確信している態度を取るのだ。


 お前がそう思っていても、俺には関係ない。


「……もう話しは済んだだろ。さっさと向かってこい。決闘は始まっているんだからな」


 刀を持っていない左手で掛かってこいと言うかのように挑発する。

 それを見てデリックは笑みを消し、


「言われなくとも……判っている!」


 デリックはフェンシングと同じ身体を伸ばしきった突きをする。

 これは『ランジ』と言い、間合いが開いている場合でも繰り出せる攻撃だ。俺の首元を狙う突きを、冷静に刀で弾く。


 そのままデリックに攻撃をしようとするが、デリックは前に出した右足で地面を蹴り、俺からまた間合いを取った。


「そう簡単には私を倒すことは出来ないぞ」


「そうみたいだ……なっ!」


 話をして気が緩んでいる間を好機とみて俺から踏み込んだ。

 この間合いではしっかりと刀を振るえない為、『六花“貫”』の突きを放つ。


 だが、デリックはバックラーで俺の突きを放つ防ぎ、そのままバックラーで俺の刀ごと押し込んできた。


「ぐっ!」


「ハァッ!」


 俺が下がったのと同時に後ろ足を引いて右足を出す。その勢いでランジを放った。


 それを辛うじて躱すが、切っ先が脇腹を掠め痛みが走った。


「ソラ様!?」


 イリスが心配そうな声で叫ぶが、大丈夫だ。

 これぐらい、サイクロプス戦で死闘を繰り広げた俺のとっては十分耐えられる傷である。


「確かに、アンタは大口を叩けるような実力はあるみたいだな……」


 身のこなしは軽やかであり、とても滑らかだ。剣術もよく修練されていて、さっきのカウンターなど本気で危機感を感じる程のものだった。

 恐らく盾スキルも悪くはない。最低でもスキルレベルⅡはあるだろう。


「当然であろう? 私は騎士として厳しい訓練を積んできた強者だ! そして強者は弱者の上に立つ者。それが私の貴族としての義務なのだ!」


 デリックはランジを繰り返し、乱れ突きを放った。

 突きを主流に戦う相手は、『RWO』のプレイヤーにも少なかったため戦いにくい。捌ききれないと判断し、倒れながら躱し、柔道で使われるような側方受身で受身をとった。


「貰ったっ!」


 デリックは俺が倒れたのを好機と見たのか、俺に突きを放つ。


「隙だらけだぞ!」


 デリックは身体を伸ばしきった形で突きを放ったが、それは足元を動かすことが出来ない状況だ。

 足は伸ばしきると力が入らなくなるため、直ぐには動かせない。つまり、足元には隙があるということだ。


 俺は両足で地面を蹴り、デリックの方向に跳びながら突きを躱す。

 伸ばされた右足には脛当があり、あまりダメージは見込めないが、そのまま峰打ちで足を打った。


「ぐっ。貴様っ!」


 俺が立ち上がり見てみると、デリックは怒りの形相をし、手のひらを俺の方に向けていた。

 その動作には覚えがある。


 ――まさかっ!?


「喰らえ! 『火球ファイアボール』!」


「がっ!」


 デリックが無詠唱で放った『火球』が俺の腹に直撃した。

 焼かれる痛みが鋭く痛覚を刺激する。不意討ちの為、受身を取る事も出来ず倒れてしまった。


「てっ……てめぇ……反則じゃ、ないのか……」


「反則ではないさ。そんなルール決めてはないだろう? 寧ろ今まで魔法を使わなかったのが不思議なくらいだ」


 デリックの笑みは、嫌みったらしい表情だ。この魔法の事も確信犯だったのだろう。


 それより疑問だったのは、あれほどの剣の技量があるのに魔法が使えることだ。俺のような【ユニークスキル】を持っていたら別だが、持っているわけではないだろう。

 そして問題はその魔法の威力。簡単な魔法くらいなら誰でも練習をすれば使えるだろうが、『火球』の大きさからも威力からも、修練しなければ出来ない程だった。


 その疑問をデリックは答えて見せる。


「私が魔法を使えることが不思議のようだな。確かに私は騎士だ。だが、私はかつては【魔術師】を目指して魔法の鍛練をしていたからな。騎士でありながら、魔法も初級なら大抵使えるのさ」


「そう……かよ」


 デリックが自信満々の態度を取っていたのは格下と思っている事だけではなく、どうやら魔法を使えることも含まれているようだ。


「ソラ様! 大丈夫ですか!?」


「あぁ、大丈夫だよ。魔法が使えるなら、尚更俺は敗けないことをお前は知ってるだろ?」


 イリスに掛けられる言葉に、立ちながら微笑んで応じる。

 周りの人もデリックも、イリス以外は俺の言葉を理解していないみたいだ。


 そう。俺は、【】だ。魔法と剣を使ってこそ、【魔法剣士】の真骨頂。


「痛てて。腹、火傷してるじゃねぇか。はぁ……『水癒ヒール』」


「何っ!?」


 俺が腹を擦りながら水系統の回復魔法を使ったのを見て、デリックは驚愕した。

 それはそうだ。デリックにとっては魔法を使えるというアドバンテージが無くなったのだから。


「何故貴様が魔法を使える!? 何故平民である貴様が!」


「アンタは強いし、これまで鍛練してきたんだろうけど……」


 そうだ。あそこまでの実力を示しているのは、デリックがこれまで努力を続けてきた証だ。もしこいつが平民やハーフエルフに対しての偏見が無ければきっと尊敬できる人物になっただろう。

 だから、



「お前は、格下だと思っている人間に敗けるって可能性を考えた方がいいぜ」



「五月蝿い! 私はルーカス家の誇りを背負っているのだ! 貴様なんぞに敗けるわけがないだろう!」


 デリックは焦燥感を感じ、魔力を練って俺に手のひらを向ける。

 これが最後になるだろう。


 俺も、刀に魔力を注ぎ込む。


「ハッ! 『火球・八連』!」


 八つの火の玉。魔力を絞り出したのか、デリックは膝を着いた。

 だが、戦意は衰えてなく火の玉を俺に飛ばした。


「ソラ様っ!」


「カンザキ!」


 イリスとアランさんが叫ぶ。俺が避けきれないと思っているのだろう。

 だけど、心配しなくてもいい。


「――『魔法剣“紅蓮”』!」


 紅い煌めきが刀身を覆う。

 その煌めきに、誰もが言葉を失った。


「ハァァアアアアッ!」


 飛んできた火球を避け続ける。【回避Ⅳ】は伊達じゃない。

 避け続けるが、最後の一つは避けきれなかった。


 そして――


「バカな!?」


 俺は飛んできた火球を斬り裂き、そのまま突き進んだ。


 ぶっつけ本番だったから心配だったが、成功して良かったと心から思う。

 魔法は物理的には防げないから、間接的に魔法を纏って斬れば斬り裂けるんじゃないのかと考えていた。

 イリスに頼めば練習は出来ただろうが、奴隷の誓約で首が絞まる可能性があった為、イリスにも秘密にしていた。


 この技は『RWO』でも使う人は居ない。魔法がないんだから当然だが。

 技名は『魔法斬り』とでもつけよう。


 俺はそのまま攻め、動くことの出来ないデリックのレイピアを断ち斬った。


「これでも、お前は勝てると思うのか?」


 俺は焔の剣の切っ先をデリックの顔の前に突きつける。

 その焔はデリックの髪をチリチリと燃やしていた。


「…………いや、私の敗けだ」


 そう言い、デリックは顔を伏せた。

 もう、戦意が無いことを証明しているかのように。


「おい、終わりだぞ」


「っ! は、はい!」


 信じられないものを見たように呆然としていた審判に呼び掛ける。



「しょ、勝者! カンザキ!」



 歓声が訓練所に響き渡った。





【スフィア】解説

・『魔法』


魔法はスキルとして分類される。他のと同じように使えば使うほど熟練度は上がっていくが他のスキルよりも上がりにくい。

スキルレベルはⅠ~Ⅴまである。

今回神崎空が使った『魔法斬り』は【魔法剣】を使える者しか不可能だ。だが、正確に魔法の中心を断ち斬るには相当な技量が必要であり、神崎空が斬り裂けたのは初級の魔法という事と偶然が重なっただけのため、完全修得とは言えない。


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