第三話 『初戦闘』
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とても嬉しい限りです。
それでは、どうぞ!
俺がこの世界に来てから二日が経った。
未だに深い森の中から抜ける事ができていない。
ただ、俺は何もしないでこの二日間を過ごしてきたわけじゃない。
色々と試した結果、俺のスキルは既に二つ増えていた。
【スキル】
・投擲Ⅱ
・索敵Ⅰ
・解析Ⅰ
スキルの効果としては、以下の通りだ。
【索敵】
・使用者からある一定の距離にいる敵や魔物の存在を感知する事が出来る。
※熟練度により、能力が高まる。
【解析】
・対象に触れることにより、対象のステータスを確認する事が出来る。
※熟練度により、能力が高まる。
スキルはある条件をクリアすると、獲得する事が出来るようだ。自分の憶測だが、【索敵】は俺が敵に襲われないよう、夜中に警戒しながら過ごしていたからだろう。
【解析】はきっと、木に菜っている果実を調べようと、毎回ステータスを出すように念じていたからだ。これはこれで合っていると思う。
これのおかげで初日と比べると、安全の確保や、身体の休養が取りやすくなった。
《国士無双》のおかげで熟練度も上がっている。
熟練度による今のスキルの効果は、【投擲】は小石の場合、百メートル程投げることが出来る。コントロールは皆無だが。
【索敵】は半径約五メートル程の敵を確認。
【解析】は触ったものの名称と説明が分かるようになっている。
ちなみに【解析】の力で初日に食べた果実は『リンガ』という名称ということが分かった。名前と見た目から、ある地球の果物を連想したのは当然と言えるだろう。
「さて、そろそろ行くか」
小川が見当たらないこの道で、俺は水分補給代わりになっている果実、『ジュグ』を食べ終わった。見た目は青色で、味はほんのりと柑橘系の風味があり、噛むとジューシーな果汁が口の中に広がる。見た目から食べるのを拒否していたが、スキルを取ったおかげで安心して口に入れることができている。
念のため【索敵】を発動させる。俺にとってこれ程有り難いスキルはない。安全に移動するにはこの能力が役に立つ。
【索敵】によると、周りに魔物はいないみたいだ。分かるか? 黒毛の狼に襲われる俺の気持ちを。【索敵】で察知できなかったら食い殺されていただろう。たった五メートルでも違うものだね。
結局臭いで気づかれて木の上で一晩過ごす事になったんだ。魔物の恐ろしさが分かった瞬間だったと思う。
「兎に角、今は大丈夫だろう。眠いけど先に進まないとな」
そう言い、先に進む。勿論【索敵】は発動したままだ。歩きつつ道端に落ちている丸っこい小石を見つけたらポケットに入れる。投擲用の石だ。何時でも【投擲】で敵を牽制するために必要になる。実際にこの二日間、小さな魔物は【投擲】で撃退している。
敵を牽制しつつ熟練度も上げる。まさに一石二鳥だ。
かなり歩いているから、そろそろ森を出れるはずだと思うんだが、予想は虚しくも当たらない。早く町に出て肉を腹一杯食いたい。もう木の実や果実には飽きた。ビタミンを摂りすぎて健康的になってしまう。良いことなんだが。
「ぐわぁぁぁぁああああああ!」
「な、何だ!?」
声から察するに男の叫び声。それも喉が腫れんばかりの絶叫だ。折角の人間の様だが状況は悪い。この森で叫び声を上げる程の何かの可能性としては二つある。
一つ目は人間が森で事故が起きる事だ。だが、何もないこの森で事故を起こす可能性は低い。
最後に二つ目、これが可能性としては一番高い。そして一番悪い状況。魔物に襲われる場合だ。
俺は今まで意図的に魔物の接近を避けてきた。それは見たことがない以前に、武器がないからだ。俺が得意とするのはゲームでも元の世界でも剣だ。元の世界では竹刀か。これ以外で俺は勝てる気がしない。いや、剣を持っていても勝てるとは限らない。
ゲームではシステムで設定された技があったから、実際に剣術の心得がなくてもモンスターに有効なダメージを与える事ができた。だが、この世界は今の俺にとって現実だ。俺が使えるのは、小中と培ってきた剣道の打ち合いだけだ。後はゲームで身体に染み込んでいるなんちゃって剣術。所詮剣道はスポーツだ。実践で扱える程の力はない。これは『RWO』で経験したことだ。モンスターには剣道のようにルールがない。
それは今の状況でも同じだ。俺が助けに行ったとしても、武器がない俺が通用するわけがない。
「でも…………」
俺が助けに行かなかったら、あの人間は死ぬだろう。俺が行っても結果は変わらないかもしれないが、その人間が強いという都合の良い事は殆どない。
もしかしたら俺の勘違いかもしれないが、それで妥協して男が死んでしまったら絶対に悔やむ。
助けない理由にはならない。助ける理由にもならないけど。
俺は善人じゃない。遠くにいる人達何て知ったことじゃない。でも、俺の近くに助けられる人があるならば、俺は――
「逃げるわけにもいかねぇだろっ」
全力で地面を蹴りだした。
◇
念のため森の中を通って、音を立てないように気を付けながら隠れる。大体八十メートル。直ぐにその現場に着くことができた。
「ガァアアアアッ!」
「くそ……!」
襲われているのは男だ。その近くには積み荷を少量ぶちまけている馬車と、脚を怪我している馬が一頭。襲っているのは緑色の肌をして、声とは呼べない異音を出している魔物。この魔物には覚えがある。ゲームではゴブリンと呼ばれる魔物だ。
ゴブリンは三体。武器は持っていないが鋭い爪が武器代わりなのだろう。
男の腕から血が出ている。鋭い何かに切られたような傷痕が見えて痛々しかった。勿論ゴブリンの爪跡だと分かる。
そのゴブリンが背を向けている先にある物体は、直ぐに気づくことが出来た。
剣だ。それは刃渡り五十センチ程のショートソード。
何故あるかは推測だが男が剣で対抗しようとしたのだろう。男の服装から戦闘職のソレではないため、戦う技術がないのだ。その際にゴブリンに腕を切られて剣を落とし、少し離れたあそこまで追い込まれたのだと推測する。
どうする? 奇襲をかけるなら今だ。剣は俺とゴブリンの直線上にある。俺が走って剣を拾えば一体は不意打ちで倒すことが出来るだろう。だが、問題はその後だ。一体は倒すとして、残り二体はどうやって倒せばいい? 考えろ。考えろ――
「グガァァァァ!」
時間は無い。ゴブリンは襲いかかる寸前だ。考えている時間すら惜しい!
俺はなるべく音を立てずに草むらから出て、そのまま剣を目指して走り出す。
「ガァッ!?」
「遅ぇんだよっ、この野郎!」
ゴブリンは俺に気づいたようだが、その時には既に剣を拾い、一体のゴブリンに向かって剣を振りかぶっていた。
ザシュッ
そんな不快な音が聴覚と触覚にダイレクトに伝わる。
剣はゴブリンの喉を切断した。予想よりも簡単に肉と骨を断てたのに驚く。剣で斬り落とした首は地面に転がった。その光景と斬ったときの不快な感触を思いだして吐き気がしたが、唾を飲み込み脳を騙す。
剣を振り切った俺に、ゴブリン二体は襲いかかってくる。剣を右手で持ち、残った左手を服のポケットに突っ込んで石を握り投擲する。
「くらえっ!」
ゴブリンの一体に石礫を全力で投げて動きを封じる。実際にゴブリンは後ろ向きに倒れた。死んではいないはずだから警戒は怠らない。
「グガァ!」
「ぐっ!」
ゴブリンが鋭利な爪で切り裂こうとしてくる。それを剣で受けようとするが、重い。腕が震えて、これ以上は耐えきることは出来ない。咄嗟にゴブリンの腕に刃を立てようと剣をずらすが、皮膚を少し傷つけたぐらいで、重みは変わらない。唯でさえ剣の重みに腕が疲労しているのに、この重みは堪えることが出来ない事は明らかだ。
剣で相手の腕をこちらの方へなんとか受け流し、その反応でゴブリンの背後に転がりながら回り込む。
(マズイ!)
回り込んだ時に気付いたが、投擲して昏倒させたゴブリンが意識を取り戻したようだ。そのゴブリンとさっきのゴブリンが俺を挟み撃ちにしている。自分で墓穴を掘ってしまった……!
しかもバランスを崩している状態でゴブリンを相手にする事は出来ない。
(このままじゃ殺られる!?)
安全をしっかりと取っていなかったからこんなことになってしまった。どうにか打開策を練ろうと一瞬にして頭を回転させるが何も思い付かない。思わず舌打ちする。この状況を打開出来ない自分に対して苛立った。
腕を振り下ろそうとしているゴブリンを見ながら歯を食い縛る。
「火よ! 球体となりて敵を討て!
――『火球』!」
「ギィグゥゥ!」
俺の目の前のゴブリンが火の玉を受けて吹き飛ぶ。分かる。
これは――魔法だ。
「大丈夫かいッ!?」
「あ、……あぁ」
どうやら火の玉を放ったのは、あの男のようだ。男に救われたのは変わり無い。心の中で礼を言い、吹き飛んだゴブリンの元まで走る。
「……ガ、ギィ……っ」
ゴブリンのその姿は無様なものだった。あんなに固かった皮膚はあちこちが剥がれ、右半身に至っては黒焦げになり、体を動かすことが出来ないようだ。今はもう苦しむだけになっている。
「……ごめんな」
しゃがんでゴブリンの無防備な喉に剣を突き入れる。ゴブリンは小さな悲鳴をあげ、そのまま息絶えた。
「君! 後ろだ!」
「……知ってるよ」
最後のゴブリンが昏倒から目を覚まし、俺を襲おうと走ってきている。それを事前に【索敵】で察知していた俺は地面の土を握りしめ、ゴブリンの眼に投擲する。
「グギイッ!」
ゴブリンの腹に向けて剣を振る。ゴブリンの眼に土が入り、あまり見えていないようだ。俺の剣に対しても反応が遅くなり、その皮膚に剣を叩きつけることを成功する。
その剣は深く相手を斬りつけることが出来た。さっきのゴブリンでは全く傷を付けることが出来なかったのにだ。
(さっきとは違う? そういえば剣が軽くなった気がする。気のせいじゃないのか?)
ゴブリンは激昂して俺に腕をがむしゃらに振るう。が、俺は剣で危なっかしくそれをいなす。
やっぱりさっきと違う。自然と体が動いているのが分かった。言うなれば、これが剣術なのだろうか。剣道は剣を打ち、相手の剣を防御するのを主流としているし、ゲームではシステムに設定された剣技を扱う。ゲームではHPが尽きなければ剣を振るうことが出来るため、捨て身の技を使うことが出来る。
だがこれは違う。自分を守りつつ相手への攻撃の機会を窺う戦い方。
これが戦闘に特化している本物の剣術だ。
「フッ!」
いなしている間にゴブリンに隙が出来たため、全力で一閃する。
ゴブリンの右腕が飛び、血が吹き出す。それを気にせずゴブリンが突っ込んできた。単調な動きだ。その勢いを利用して剣をゴブリンの左胸に突き刺す。
硬い皮膚を突き破ると後はスムーズに肉と骨を斬り分けながら突き進み、剣の鍔が左胸に密着する。ゴブリンの顔は俺の目の前にあり、血を吐きながら体重がのしかかってくる。
そのゴブリンの左腕は俺の右肩を切り裂いていて、鋭い痛みが走った。まるで焼けたかのような痛みが神経を刺激するが、それを唇を噛んで痛みを和らげる。
「……ギ……ガ……――」
ゴブリンは虚ろな眼を浮かべ、絶命した。その瞬間を見ていた俺は、不思議と落ち着いていた。
殺したのに。殺されかけたのに。残ったのは倒したという達成感だった。馴れているかのような、そんな感じだ。……ゲームのやり過ぎかもしれない。
「ステータス……」
俺はボードを出してステータスを確認した。
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