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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第二章 【迷宮探索者】
38/70

第三話 『熊狩り』

今年最後の更新となります。


 俺達の目的である『シャープベア』は俺にとって名残深い【深魔の森】に生息している。

 クマということも影響しているのだろう。シャープベアは雑食だがハチミツも好物であり、極稀にハチミツを食している姿を見ることが出来るそうだ。

 蜂の巣は木の幹にあるのが多く、シャープベアを探すときは人気の無い林の中を探せば良い。実際に知り合いになった先輩冒険者が言っていた。


『蜂の巣のハチミツっていうのは高値で売れる。しかもそこにシャープベアがいる可能性があるんだ。一石二鳥だろ?』


 と、シャープベアとハチミツに命を懸けて三年の男の実体験だ。

 しかも血走った目で語りかけてきたから中々説得力がある。だから俺もほんの少しだけ頭に入れておいた。ほんの少しだけ。


 その事から朝から探し続けて今は昼だ。まだ一匹もエンカウントしていない状態に少し焦りだしている。

 その代わり蜂の巣を二つも発見したから、利益は出ているのは出ているのだが……依頼を達成出来ないのは冒険者としてもゲーマーのプライドとしても避けたいところだ。


 とは言え、


「この辺りにも居ない、か」


 根気強く探しているが、ここまで居ないと流石に嫌になってくる。シャープベアとは遭遇していないが、十数匹の『グレーフウルフ』には遭遇し、数回戦闘を行っていた。

 大抵は火魔法で牽制したり土魔法で目眩ましをしたりして戦闘を出来るだけ回避していた。インベントリに入りそうな分だけしか倒していない。無用な殺生は環境的にも悪いしな。


「もうここには居ないかも知れませんね。今のところ、大きな生物がこの付近で歩いているのは確認出来ませんし」


 イリスがインベントリから出した布で額の汗を拭いながらそう言う。


「イリスがそう言うならここにも居ないのか……。依頼不達成とかシャレになんねぇぞ」


 イリスはエルフの特徴でもある五感が鋭い。視覚は勿論、聴覚にも優れているため、俺の持つ【索敵】の拡大版みたいなものだ。

 最近は殆どイリスに魔物の索敵を任している。


「期限は別に明日までなんですから、そこまで急がなくても……」


「駄目だ! 依頼を出すって言うことは依頼者にとって急いで解決して欲しいっていう感情が表れているんだぞ。俺の怠惰で遅らせてたまるか!」


「何を言っているんですか!?」


 イリスが顔に驚愕を貼り付けている。俺の言葉が理解出来ていないみたいだ。

 判らなくていいけどな。これは依頼を出したゲーマーの気持ちだから。


 イベントの最終日にイベント用武器の素材が欲しくて依頼したのに、いざ終わって意味がなくなった頃に素材を渡してきて報酬を求める奴とかな。アレは苛ついた。

 しかもそいつイベント最終日に街の広場でナンパしていた男だったから、苛つき増し増しだ。



 ――――くぅ



 俺が溜め息を吐いていると、隣から可愛らしい音が聴こえてきた。

 イリスを見ると、顔を赤く染めてお腹を押さえていた。


 ……………………ふむ。


「……飯にするか?」


「なんでそんな温かい目で見てるんですか! ――って頭を撫でないで下さい!」


「……よしよし」


「だから……んっ、やめて……下さ……ふふっ」


 イリスが難解も抗議するが、気にせずしばらく頭を撫でていると諦めたのか、それとも陥落したのか気持ち良さそうに頬を緩めている。何この生き物。可愛い。


「確かに飯時だな。俺も腹減ってきたし、飯にするか」


「あっ…………」


 サラサラの髪から手を離すと、イリスから名残惜しそうな声が聞こえた。俺の気のせいかもしれないが。


 適当に岩がある場所を探し、そこに腰をかける。

 インベントリから今朝作った照り焼きバーガーを取り出した。出来たてのようにまだ温かい。インベントリの中身がどうなっているのか知りたいな。元の世界に帰っても使いたい。


「ほら、イリス」


「あ、ありがとうございます!」


 照り焼きバーガーをイリスに渡す。受け取ったのを確認すると俺も自分のバーガーを取り出して囓った。


「あぁ、美味い」


 口に広がる肉の旨み。レタスやトマトも肉に負けてなく、なによりソースが他の具材を引き立てている。マヨネーズはソースと絡んで一つレベルが上がっているし。だけどバンズが少し硬いのが惜しいな。


「どうだ、イリス?」


「美味しいです! ソラ様の料理は食べたことが無い味ですが、凄く美味しい。ソラ様は料理も得意で羨ましいです……!」


 イリスはあまり料理が得意じゃない。動物を捌いたり、筋を無くして焼いたりするのは美味いんだが、俺のような創作料理は苦手のようだ。エルフは森の中で暮らしているからそれも当然だろう。


「いや、イリスは別にしなくてもいいさ。イリスには今回みたいに依頼対象の魔物を索敵して貰っているし、料理ぐらい俺がやるからさ。昔からやってたから得意なんだよ」


 イリスには感謝をしている。確かに奴隷商に捕まっていたイリスを助けたのは俺だが、その後俺の奴隷のして苦労ばかりかけている。

 本当なら彼女の故郷まで帰したいんだが、彼女の暮らしていた森は【シルベール大陸】にあるため、今の俺の貯金じゃ無理だし実力も足りない。

 だから、俺も働くのは仕方が無いことだ。対等な関係だと言ったのは俺だしな。


「あの、ソラ様は……か、家庭的な女性が好きですか?」


 急に萎らしくなり、イリスは頬を染めた。オドオドとして落ち着かない様子だったが、意を決したように顔を上げてそう聞いてきた。


「家庭的な女性? んー、そうだな……」


 俺自身、別にこだわりを持ってはいない。容姿はやっぱり美人の方が良いが、性格が良ければそこまで気にしない。それに恋もしたことがないし。

 だからといって、家庭的な女性が好きどうかを聞かれるとなると……どちらかと言えば、


「家庭的な方が好きかな……」


「や、やっぱりそうなんですね……」


 イリスは判りやすくテンションを落とした。世間一般の意見を聞きたかったのかもしれない。俺からしたら性格は完璧だと思うけどな。容姿にも優れてるし。


「別に女性は家庭的なだけが魅力じゃないんだし、気にしない方が良いんじゃないか?」


「…………ソラ様のばか」


「なんで俺は罵倒されたんだよ……」


 小さく俺を罵倒し、そっぽを向きながらイリスは手のバーガーを食べ始める。その行動に首を傾げつつも俺も食事を続ける。美味いな。



「――――ッ」



 しばらく食事を味わっていると、いきなりイリスが立ち上がった。……ということは、


「イリス、シャープベアか?」


「……はい。数十メートル先を歩いています。クマの匂いと息遣いから間違いないでしょう」


 人間とは思えない芸当だ。いや、エルフか? イリスさんパネェっす。


「じゃ、俺が仕留めてくるか?」


 腰から相棒となっている刀を抜く。今の俺にとって、シャープベアは正直軽く倒せるレベルだ。それに俺には前に使えるようになった【魔法剣】がある。大丈夫だ。


 だが、イリスはそんな俺を制して、


「私がやります」


 イリスはインベントリから『魔鋭弓』と矢を取り出した。それを引き絞って狙いを定める。


「当てられるのか? もしあれだったら俺が仕留めるけど」


「大丈夫です。…………これで挽回しないと」


 小さく何かを呟いたが聞き取れなかった。

 というか、本当に当てられるのだろうか? 俺はシャープベアの居場所が見えていない。それほど遠くにいるというのに、イリスは狙おうと言うのだ。愛羽みたいな奴じゃないと無理な気がする。


 そんな心配をして見守っていると、引き絞られた矢が放たれ、森の中に消えていった。

 その直ぐ後に何かの悲鳴が聞こえた。


「やりました! 命中です。早速行きましょう!」


「お、おう」


 笑顔で報告するイリスに思わず吃ってしまう。イリスさんマジパネェっす。




 そして、矢を放った先で額を撃ち抜かれて絶命していたシャープベアをインベントリに収納し、俺達は街に戻った。





【スフィア】解説

・【料理】スキル


【料理】スキルはⅠ~Ⅹまでの10段階に分けられる。

一つのレベルにつき、料理のランクが1.2倍アップすると言われ、それは味が主な変化点だ。

熟練度はどれだけ料理を作ったりした経験で増加する。

レベルが上がると料理のテクニックも増加するが、やはり作り手の元の実力も大事であり、【料理Ⅴ】を持つ只の主婦より、毎日料理に関する研究をした【料理Ⅳ】を持つ三ツ星レストランのシェフの方が料理の質は上である。



次話は明日の18時に更新します。

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