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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第一章 【異世界転移】
33/70

幕間 『六代目勇者召喚』

今回はクラスメイト視点です。


12/09 『完全記憶』の読みを変えました




 古き時代から、かつて【スフィア】に召喚された勇者は十数人にも及んでいる。


 例えば大陸で殺戮を繰り返す龍の討伐。国同士の戦争を終結させる救世主。そのように召喚された理由は様々である。


 その勇者召喚の起源は、存在すら疑われている【レスタール王国】と言われている。

 その時代、魔族が大陸を支配し、殺戮と混沌の渦の中にいた【スフィア】を救うための計画が立てられた。

 ――それが勇者召喚である。


 その当時研究されていた【召喚魔術】を元に、もっとも【召喚魔術】に近い属性と言われる希少な光魔法を有する高位な魔術師を利用したのが最初だ。


 その結果召喚された者は、歴代最強とされる『ヒイラギ』と言われている。


 かつての【召喚魔術】を書物に記し、研究者達によって改良され続けた。


 今現在の勇者召喚は、召喚魔法陣と膨大な魔力を利用するだけと、昔よりも簡略化されている。



 そして、今回も数十年振りに勇者召喚が行われた。



 ――現れた者は、四人の少年少女であった。







 神崎空のクラスメイトは、個性的ながら皆才能が高い。



 

 ――鮫島将吾は素行が悪い少年だ。

 彼は頭も同年代の中では悪く、お世辞にも賢い人間とは言えない。

 だが、彼は類稀なる運動センスがあった。中学の時の部活でも、有名になるほどの選手だったらしい。




 ――小鳥遊鈴は秀才な少女だ。

 彼女は同学年の中でテストの順位は二位。努力を怠らない程の堅実さである。

 神崎空とは中学の時同じ学校だったが、その時からあらゆることを解析し、もっとも良い結果を導き出す程の頭が切れる。




 ――雨宮大地は万能型の少年だ。

 彼は鮫島将吾に勝るとも劣らない運動神経。小鳥遊鈴に匹敵する程の頭脳がある。小鳥遊鈴程、頭が切れる訳ではないが、それでも一般的にはかなり高い。

 優しさも彼の武器であり、どこかカリスマ性を窺わせる。






 ――そして、愛羽夏姫。

 彼女は神崎空から言わせると、一言で済む。




 『天才』




 彼女はあまりにも天才過ぎた。

 テストの順位は学年一位。教科書を読めばその内容を殆ど覚えることが出来、忘れることなど全く無い。


 運動神経に関しても、男子にも負けない。筋力という差は埋めようがないが、そのセンスは、鮫島将吾と雨宮大地をも凌駕する。

 例えば基本的に難しいと言われているサッカーの『エラシコ』。彼女はそのプレーを一度見ただけでモノにしてしまう。


 そして『RWO』。神崎空はこのゲームでの戦闘センスは異常なまでに高い。きっとゲーム内でも三本の指に入るだろう。

 それを彼女は破って見せている。一度受けた技を分析し、一瞬にして防ぐ方法またはそれを自分のモノにする能力もある。

 その愛羽夏姫に少しでも勝利を奪っている神崎空も順応性は高いのだが。





 彼女は『天才』だ。







 ――『ヒイラギ』の再来と言われる程に。









 夏姫達四人が光に呑まれ閉じた目を開くと、そこは見たことの無い場所だった。


 広い空間。軽く、だが派手にならない程度の装飾に彩られた壁。

 上は二階建てのようになっているのか、階段があり、バルコニーが左右にある。まだ外は明るく、バルコニーから陽の光が漏れ出している。

 周りには十数人の防具を着ている如何にも兵士のような者達、夏姫達を取り囲むようにローブを着た兵士達の倍にも近い者達がいた。


 そして奥には、豪勢な椅子に座った中老ほどの髭を生やした男性。

 その後ろでは綺羅びやかなドレスで着飾った女性達が夏姫達を見て歓声を上げている。


「あれ……神崎君は――」


「おい、ここは何処だよ! さっきまで俺達は学校に居たんじゃねぇのか!?」


「落ち着いて。騒いでも何も出来ないでしょ」


 未知の体験の後に見知らぬ場所に居る事から、将吾はパニックになり声を荒げた。夏姫の言葉を遮りながら。

 それは無理もない。人間の心理的に危機反応が起きてしまうからだ。実際、夏姫と大地も落ち着きがない。

 だが、一番冷静な鈴が将吾を諫める。彼女も最初は動揺したが、何より切り換えが早い。周りを見る能力が高いのだ。それにより夏姫達三人が落ち着きを取り戻した。


「それで、ここは何処でしょうか? ……いや、日本語は通じないのかな?」


 四人を代表して鈴が周りに居る者達に聞く。出来ることならあの椅子に座っている男性に届くようにそちらの方を向いて。確実にあの人間が一番権力がありそうだ。その事も一瞬で頭が回ることは流石と言っても良いだろう。


 その鈴の思惑が叶い、椅子に座った男が立ち上がり微笑んだ。


「いや、言葉は通じているぞ勇者様方!」


「勇者?」


 大地が呟いた言葉は男の声に掻き消される。当然の如く聞こえていない男は言葉を続けた。


「先ずはこの場所についてであったな。この世界は主らの世界とは違う世界、【スフィア】。そしてここは【エルメリクス大陸】にある国【ノールム王国】という。ワシはその【ノールム王国】の国王――ヴィルビィ・シュライ・ノールムだ。宜しく頼む」


 ノールム国王は召喚された勇者達に対し謙った態度で説明をする。だが、それは日本人にとって傲慢な態度であるため判るかどうかは別問題である。


「な、何を言っているのでしょうか?」


「さっさと言えよオッサン!」


「おい、将吾!」


 ノールム国王の言葉は鈴達の理解力キャパシティを越えてしまう。鈴は落ち着いて意味を問おうとするが、やはり国王の言葉遣いが気に障ったのか将吾が怒鳴り付ける。

 急いで大地が将吾を止めた。それも反射的なことだ。兵士達の殺気が将吾に降り注いだのだから。流石に将吾も情けない声を出しながらも、渋々口を閉ざした。


「これ、止めんか」


「し、しかし……!」



「――ワシの言うことが聞けないのか?」



 王族の威厳。冷たく低い声が兵士達を諫める。その声で兵士達は顔を青ざめ、王と勇者達に謝罪し下がった。


「すまなかったな。ワシの国の者が無礼な態度を取ってしまって」


「い、いえ。此方にも非はありましたから」


 大地が王の謝罪に対し応対する。元々は王の態度から始まったとは思ったが、口に出すと今度こそ兵士達に何を言われるか堪ったものではない。


「さて、先程も言ったが、ここは君達がいた世界ではない。それは判るかな?」


「えっと、つまりここは私達のいた地球ではなくて、もっと違う世界ということでしょうか?」


 ずっと口を閉ざしていた夏姫が王に問う。その事は有り得ないことだろうが、映画のセットにしては凝りすぎている事と教室での体験により四人は薄々信じかけていた。

 そして――


「――そうだ。ワシらは君達の……勇者様の力を借りるために召喚させてもらった」


「そんな!」


「嘘だろ!?」


 大地と将吾が驚愕する。この二人は日本でも漫画や小説を読んでいなかったため耐性が無い分ショックが大きいようだ。

 そして鈴は夏姫の顔を――口角が上がっている様子を見ながら思った。



 ――アンタはなんでそんなに嬉しそうなのよ……!



「俺達は元の世界に帰れるんでしょうか?」


 兎に角それが本題だ。既に過ぎてしまったことは仕方がない。その後のことを考えるべきだ。

 そして、希望は打ち砕かれる。


「……今は無理だ」


「無理だと!?」


「だから落ち着きなさいって鮫島。……今は無理とはどういうことでしょうか?」


 今は・・。つまり帰れる方法は有る筈だ。鈴はそう思った。


「魔力や魔法陣がないのだ。召喚魔法には魔法陣に大量の魔力を注がないといけない。だが、魔法陣も先の召喚で壊れてしまった。今から数ヵ月を掛けて魔法陣を完成させる。そして魔力を更に注いで長い間馴染ませないといけないのだ」


「それはどのくらいでしょうか……?」


「すまない。判らないのだ。只、数年は掛かるだろうな」


「そんな!?」


 数年とはあまりにも長い時間だ。それほど長くこの世界に居ることになるなら、残してきた家族はどうなるのだろう。不安が募る。


「只、安心してほしい。術によっては君達の召喚された日に戻ることが出来る。その点は大丈夫だ」


 その言葉に四人共押し黙った。怒りによって叫び出したい気持ちはあるが、この武装した連中が居るため不用意に発言できない。

 怒りを押し殺して話に戻る。


「理解しました。過ぎたことは仕方がありません。それで、私達を喚んだ理由はなんでしょうか」


「うむ、実はもうすぐこの世界は破滅すると言われている。それは高位の星読みによって確認済みだ」


「破滅!?」


「その破滅が何なのかは判らない。だが、ワシらはその破滅を食い止める為の救世主を欲していた。――それが君達だ」


 破滅という言葉に固まってしまう四人。それを食い止めるのが自分達と言われれば当然と言える。


「頼む、勇者様方! ワシらを……この【スフィア】を救ってくれぬか!?」


「国王!」


 深く頭を下げたノールム国王を見て近衛騎士が声を上げた。仮にも国のトップが頭を下げているのだ。只、それはあまりにも“誠意”が見えていたため誰も嘲笑する者は居ない。


 沈黙が暫く続き、その沈黙を前に出た夏姫が破った。


「――判りました」


「おおっ! やってくれるのか!?」


「な、何を!?」


「ちょっ!?」


「夏姫、アンタ正気!?」


 三人の言葉に夏姫は振り返って諭すように口を開いた。


「困っているんだよ。皆が、世界の人々が私達に助けを求めているんだよ。なら、私達が世界を護ってあげようよ! それが、私達勇者の使命でしょう!?」


 怒鳴り付けるように放った言葉に大地と将吾は圧倒された。まるでそれが正しいことではないかと。力が有る者が弱き者を護るのは当然ではないかと。


 只、それは彼女の性格をよく知っている鈴には通じなかった。


「……で、本音は?」


「勇者なんて面白そう! ゲームや漫画みたいな事が出来るんだよ! 帰るのはまだまだ先なら勇者をやっても良いじゃない!」


「「「……………………」」」


 何処までも夏姫は夏姫だということに三人は唖然として、そしてどちらかともなく笑った。

 笑って、そして決めた。


 勇者をしようと。弱き者を救う、強き者になろうと。


「勇者の件、引き受けさせてもらいます」


「有難い、勇者様方!」


 国王の顔が喜色に染まる。周りもその言葉で喜びにざわめいた。


「これで決まりだね。神崎君もいたら……そうだ、そういえば神崎君は!?」


 ニコニコしていた夏姫がキョロキョロと周りを見渡すが、当然そこには探し人の姿は無い。


「召還されているの? 私はこの四人だけだと思っていたのだけど」


「いや、神崎もあの光に巻き込まれたはずだ? 何で居ないんだ?」


「アイツは来ていないんじゃねぇのか?」


 ざわめき出した四人に対してノールム国王が訊ねた。


「どうかしたのか、勇者様?」


「はい、私達と一緒にいた人物が居たんですがここには居ないんです。確かに光に巻き込まれたからこの世界に召喚されているとは思うんですが」


「ふむ、もしかしたら召喚された座標がズレたのかも知れぬ。こちらの方で捜索しておこう」


「宜しくお願いします」

 その言葉に四人はホッと胸を撫で下ろした。

 大地は友達として、将吾は召喚前の罪意識から。


 そして、夏姫と鈴は――淡い想いから。


 その事は皆気づいてはいない。


「さて、問題が解決したところで先ずは勇者様方の能力だ。『ステータス』と言葉に出してみてくれ」


 何となく恥ずかしさが上がってきたが、それを夏姫以外の三人は押し殺して叫んだ。


「「「「ステータス」」」」




ナツキ・アイバ


Age:16

種族:人間族

クラス:勇者

Lv:1

STR:20

VIT:20

AGI:20

INT:50

MDF:20

DEX:100


【ユニークスキル】 《創造者クリエイター


【固有スキル】

万能技能オール・ラウンダー

完全記憶パーフェクト・メモリー

・言語理解


【装備】

・異世界の学生服・皮の靴


【称号】

・異世界より来たりし者

・天賦の才を持つ者





 人通りステータスを確認すると、夏姫を除く三人はユニークスキルが強力のようだ。夏姫はステータスから判るようにユニークスキルは戦闘系ではない。どちらかと言うと固有スキル特化だ。その分ステータスの一部が高いが。


 勇者はユニークスキルが強ければ強い程実力があると言われる。このステータスにより全員から夏姫が一番弱いと思われている。


「ま、元気だしてよ夏姫ちゃん。これから頑張っていこうぜ」


「アンタは人の事気にする前に自分の事気にしなさい」


 ユニークスキルでは将吾が三番目だ。そこまで強くは無いが、彼の運動神経なら補えることだろう。


 そして、その心配は夏姫には杞憂に終わるだろう。神崎空が居るなら鼻で笑った筈だ。

 彼女ほどの『天才』が、そんなこと些細な事で気にする筈がないだろうと。


「それでは、勇者様方を部屋に案内しよう。後は頼んだぞ」


「判りました! それではこちらへ」


 メイドが現れて四人を部屋に案内する。容姿が良く、更に日本とは違うその事から男子二人はテンションが上がる。そして鈴に白い目で見られていた。


 歩きながら、夏姫は考えていた。


(この力……《創造者クリエイター》はかなり使い勝手が良いなぁ……。使いこなせばチート級だろうし。あぁ、早く神崎君に会って戦ってみたい……)


 夏姫の顔は少しの間、喜色に彩られていた。









 夏姫達が居なくなって閉じられた扉を見ながら近衛騎士が自国の王を見る。


「良かったのですか? 真実を話さなくて」


 それは、勇者達に激震を与えるもの。帰る方法が無いという、絶望の真実。


「仕方がないであろう。話してしまえばきっと彼等はワシらに協力をしない。それが外道な事だと判っていてもな」


 ノールム国王の顔は罪悪感に塗り潰されていた。目を瞑り、何かに懺悔するかのように。


「この罪はワシが全てを背負う。お主らは勇者様方のサポートを最大限にしてくれ。頼んだぞ」


「……ハッ! 仰せのままに!」


 そう言って近衛騎士は王から目を逸らした。


 これ以上、王の悲痛な顔を直視出来ないから。




まだまだ夏姫以外不満がありますが、勇者召喚を呑み込んだ勇者達でした。


いずれ夏姫と鈴が神崎空に感じている想いを書いていくつもりですが、それはいずれ。

早く空と夏姫の戦いも書きたいですが、当分先です。それまで読んでください。


今度会うときは第二章なので、これからも宜しくお願いします。

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