エピローグ 『ここからが始まり』
頑張った。頑張って書きました!
資格試験の勉強しながら投稿です。
「ハァ……ハァ……ハァ……ッ」
本当にギリギリだった。死ぬかと思った。
あの時、サイクロプスが鎚を俺に投げた瞬間、俺は自分の足下に『落穴』を作り、そこに避難した。
【魔法剣】で発していた魔力をそのまま魔法に変換できていなければ、俺は死んでいただろう。
それにイリスの魔法には助かった。あの魔法でサイクロプスの意識が俺から離れなければ、攻撃は通らなかったと確信できる。
色々な偶然や幸運が重なり、勝つことが出来た。自然と頬が緩むのは仕方ない事だろう。
「ソラ様!」
いつも通りイリスが俺の所に駆け寄ってくる。足を挫いていたはずだが、どうやら治癒したみたいだな。
「信じてました、ソラ様! 信じていましたが、もしソラ様が死んだら私も後を追おうと思っていましたよ!」
「重いよイリスさん!?」
いや、確かに奴隷は主が死んだら誓約の力で首輪が締まるんだが聞くと恐いな。そんなこと言われるとますます死ねない。なんか呪われそうだし。
てか、今の発言からして俺の事信じてなくね? まあ、いいけどさ。
「これで【審判】は終わったのでしょうか?」
「まあ、倒したから終わりなんじゃないのか? もしこれ以上なんかあるのなら俺は死ぬ」
これは冗談抜きで、だ。
魔力も全く無い。体力も消耗しているし全身は傷だらけ。なによりさっきまでの感覚の鋭敏化が無くなっている。
投げられた鎚を回避した時からその感覚は無くなっていた。あの感覚が消えた瞬間、まるで時が早送りになったような感覚。最後の『六花“貫”』は本当にファインプレーだっただろう。
暫くするとサイクロプスの死体に変化が起きた。
「な、なんだ?」
サイクロプスは徐々に薄くなっていく。透けていくように、消えていくように。
ある程度薄くなると、急にサイクロプスの死体が霧散した。霧散し、霧になった物は俺の胸の中に吸い込まれていった。
「うぉおおおおおっ!? なんだこれ!?」
「ソラ様! 落ち着いてください!」
イリスの叱責によりどうにか落ち着きを取り戻した。別に身体の中に吸い込まれていっても異常は無い。
寧ろ身体から力が溢れ出てくるようだ。この感覚はよく知っている。
これはレベルが上がった証。それも経験上、大幅に上がった事だろう。
「ふむ……確かにあのサイクロプスを倒せば当たり前、か?」
「何がですか?」
「ん? ああ、それは――」
『――【審判】の突破を確認。この者、【迷宮】の攻略者に違わない実力を所持していると承認。
称号、【迷宮探索者】
報酬、【単眼黒鬼の皮】,【ミリール鉱石】,魔導杖【漆雨】を授与。
是を以て【審判】を終了とする』
イリスの質問を応えようとしたその時、初めのように何処からか聞こえてくる低い声。
それは最初とは違う、【審判】の閉幕を意味している。
それを理解した瞬間、胸の内側から抑え込めないような熱い何かが湧き上がってきた。
それは達成感なのか、それとも歓喜なのだろうか。俺にとってはどれも違う。
只、終わったことによる、恐怖から解放された事による安堵。
それが俺の身体に影響し、全身が弛緩した。強張っていた筋肉が全て解され、地面に尻餅をついた。
「終わったんですね……」
「……ああ。そう思うとすげぇホッとするよ。死ぬ思いして、やっと勝てたんだからな」
何度も死にそうになった。何度も諦めそうになった。
そういう時に頭を過ぎったのは家族でもなく、イリスだった。彼女を残して俺は死ねない。その事が俺の諦めの悪さに影響して、結果的に勝利に繋がったのだろう。
「……ハハッ」
そんなおかしな話につい苦笑してしまう。
「どうかしたんですか、ソラ様? 急に笑って変な人みたいです」
「人が感慨に浸っている時に変人扱いしないでね!?」
イリスの発言が胸にグサリときた。まさかあれだけで変人扱いするなんて……。
戦いが始まる前に和解したことが変化するキッカケになったんだろうけど、少しは優しくしてよ……。いや、多分天然だろうけどさ。
「そういえば報酬がなんとかって言っていたよな? インベントリに入ってるのか?」
聞こえてきたあの声は報酬を授与したって言っていた。てことはゲームのようにアイテム欄に入っているのかもしれない。
インベントリを確認すると、確かに新しく三つのアイテムが増えていた。
「【単眼黒鬼の皮】……? まあ、予想はできるけどサイクロプスの皮だろうな」
「サイクロプスは魔法には弱いですが、物理や斬撃に強いみたいでしたし、良い防具になるんじゃないでしょうか?」
確かにあの皮膚は硬かった。筋力値やスキルの熟練度を上げれば斬れるようになるとは思うが、【魔法剣】を使ってやっと斬れるほどの強度。きっと力強い防具となるだろう。使い道は決定だ。
「これは【ミリール鉱石】か。確か魔力伝導も高くて強度もある鉱石だったな。これなら良い刀が造れそうだ」
これも使い道決定。ヴィリムのオッサン大忙しだな。
「この杖は魔導杖か?」
「綺麗……」
美しい光沢のある黒い杖。『魔結晶』は淡い紫色の物を使っていて、その美しさにイリスは心を奪われたかのように見とれていた。
「これは俺は使わないし、イリスが使ってくれ」
「わ、判りました! 有り難く頂きます!」
イリスに杖を渡し、これで報酬は全て確認し終わった。後はステータスか?
「ステータス」
ソラ・カンザキ
Age:17
種族:人間族
クラス:魔法剣士
Lv:17→22
STR:171→190
VIT:105→124
AGI:209→228
INT:156→175
MDF:105→124
DEX:160→179
【ユニークスキル】 《国士無双》
【固有スキル】
・魔法剣“紅蓮”
・言語理解
【スキル】
・剣術Ⅲ・体術Ⅱ・投擲Ⅱ・索敵Ⅱ・解析Ⅰ・回避Ⅲ・料理Ⅰ・身体強化Ⅰ・魔力操作Ⅱ・火魔法Ⅲ・水魔法Ⅰ・風魔法Ⅰ・土魔法Ⅱ
【装備】
・鋼鉄の太刀・鉄の小剣・灰狼の外套・鉄の籠手・革の靴
【称号】
・異世界より来たりし者
・迷宮攻略者
・ボーナスポイント【25】
レベルが異常に上がってる。ステータスもそうだが、いつのまにか【剣術】と【火魔法】も熟練度がⅢになっているし、【魔力操作】も熟練度はⅡになっている。
【固有スキル】に【魔法剣】が増えているが、それは“紅蓮”のみのようだ。他の属性ではまだ無理ってことか。まあ、特訓あるのみだろうが。
大量のボーナスポイントは……落ち着いたときに割り振ろうか。
「このステータスなら……」
護れるかもしれない。
泣かせなくても済むかもしれない。
もう傷つけさせない。イリスは俺が護るんだ。
「魔法陣が……!」
俺達の足下に魔方陣が現れた。多分だが、これは転移魔法陣で、地上に強制転移させられるのだろう。
「……行こう」
「ソラ様……」
「まだ終わってないんだからな」
――上で高みの見物しているアイツに会いに行かないとな。
◇
「この時間帯に帰って来たってことは……終わったみたいだな」
久し振りに地上に出た俺達に浴びせられた言葉。
その言葉を聞いた瞬間、怒りが湧いてきたが冷静を欠いてはいけない。直ぐに奴の手で踊らされることになる。
「……お前の言った通り終わらして来たぞ、キール」
キールを睨みつけ、刀を抜いた。
「おいおい。まだオレに勝てると思っているのか?」
「バカにするな。俺は【審判】で力を手に入れたし、ステータスも上がっている。俺とイリスの二人がかりなら、レベル差があっても善戦できるさ」
挑発を込めて嘲笑する。ランクは然程変わらないし、経験やレベル差は人数で補えば良いだろう。
だが、
「――無理だな」
キールはバッサリと俺の言葉を切り捨てた。
「……何故だ。俺達と戦う気なのか?」
「確かにお前らは強くなった。確かに負ける可能性も無いわけではない。だがそれは――」
キールは不敵に笑みを浮かべ、
「お前らが魔力も体力も全て回復させた場合だ」
キールの言葉に、俺達は押し黙る。
これは図星だった。だからこそ反論できなかった。
脅しなんて効くわけがない。小さな望みに賭けただけの、成功すれば儲け物の手段だ。
「……クソッ、判ったよ」
「良いんですか?」
「俺もお前も、全快のこいつに勝てるわけ無いからな。それに、俺達には利用価値があるみたいだしな。殺される事はないだろ」
皮肉げに刀を仕舞いながら、イリスを抑える。
キールは俺という【転移者】が必要だ。なら、命の保護は保証出来る。
「そうだな。取り敢えずお疲れと言っておこうか。これで望みに一歩近付くことが出来た」
「そりゃどうも」
お前のためにやったわけじゃない。憎々しげにキールを睨み付ける。
「これで俺達を解放してくれる……わけないよな」
「ああ、次は待望の【空中迷宮】の攻略だ。オレに出来ることならサポートしてやる。但し逃げたら――」
「……判ってるよ。畜生」
逃げられない。逃げてはいけない。
迷宮攻略は元々の目的。だが、こいつらの為に迷宮を攻略しに行くのは堪えきれなかった。
唇を噛み、血が滲む。
「よし、それで良い。お前らが迷宮を攻略するまでは先輩後輩の仲だ。――これからも宜しく頼む」
そう言い、キールは馬車の元へ向かっていった。
「ソラ様……」
イリスが心配そうに俺に声を掛ける。
ああ、判っていたさ。
これは終わったんじゃない。始まりに過ぎないんだ。
それで利用されている。それは何故か?
俺が弱いからだ。
だけど、それでも目的の為にはこの道を――
「……あぁ、クソッ……」
そんな俺の呟きは、森の中で静かに消えていった。
◇
そこは虚無の世界。
澱んだ空気の中、塵一つ舞い上がっていない。
そこは何処が上なのか判らない。光が無い、暗い暗黒の世界だからこそ、その事が可能なのだろう。
『――――目覚めたのね』
その暗黒の世界が、停まっていた世界が動き出した。
その声は綺麗な女性の声。
艶のある、熱に浮かされる女性の声だ。
どんな表情を浮かべているのか判らない。が、その声は何かを渇望していたかのように歓喜によって塗り潰されている。
何処からか現れたのだろう。いや、既にそこに存在していたのかもしれない。
『ぁあ……待ってるわ、ずっと……貴方を』
その声を最後に、世界はまた静寂に包まれた。
これで一章を終わりとします。
二章は少し時間を頂いて毎日更新を出来るストックを書き溜めるつもりです。
二章までにイリス視点でのお話、その頃のクラスメイト達の話も書いていくので宜しくお願いします。
それではまた二章を楽しみにしてください!