第二話 『ステータス』
どれだけ歩いただろう。所々で休憩しながら俺は歩いていた。
森に入った時は明るかったのに、空は既に暗くなり太陽の光を遮る木々のせいでより一層不気味さを醸し出していた。
喉が渇いたら道の近くにある川で水を飲んだり、腹が減ったら背の低い果樹から果実をとり、空腹を満たした。味は桃の瑞々しさに林檎の味だった。美味い。
俺はその際、果実を採っている時に自分の身体能力が通常よりも上昇していることに気がついた。背の低い果樹と言っても、やはりジャンプだけでは届かない高さにあった。獣に食べられない為だろう。種なら鳥が運んでくれるし。
でも何故届いたのか。勿論ジャンプしてだが。恐らく脚力が上がっているのだろう。亀○人の修行受けていないのに。もしかしたら全ての力が上がっているのかもしれない。
そう思った俺は試しに道に落ちていた小石を拾い、林の奥に投げてみた。その石はかなりのスピードで、さらに元の世界では決して届かないであろう距離まで飛んでいく。もう石は見えない。
投げた方向に何かの生き物の絶叫が聞こえたような気がして、変なテンションになった俺は石を拾いまくり適当に投げまくる。
『ピギッ』と、小動物の鳴き声も聞こえたが無視。動物愛護団体に怒られそうだ。
「ハハハハハハハハッ!」
笑いが止まらない。異世界に来たせいかテンションがおかしくなっている。やっていることは最低なことなのにね。
「ハハハハハハハ『ピキャァァアアアア』…………」
……なんか聞こえた気がする。声帯を潰しきった女性のような声が。……気のせいだな。
そんなことは置いといて、元の世界でやっていたとあるRPGには、今の俺の状況みたいなソフトがあった。
主人公はある日突然異世界に迷い込む。主人公はその世界の住人に勇者として魔王を倒して欲しいと依頼され、やはりそこはゲーム仕様でなのかプレイヤーは明らかにステータス値が高い。魔王レベル、というか魔王を倒す事ができたのだ。そしてモテモテとなって美人の王女や仲間達と結婚することとなる。てことは俺もモテモテに――無いな。
もしかしたらこの世界はゲームなのかもしれない。甘い考えが頭をよぎるが、そんな漫画にありがちな設定に期待する程俺は馬鹿じゃない。『RWO』の世界かもと思ったが、こんなステージ知らないし、教室からゲームの世界に行くこと何て馬鹿馬鹿しい。ゲームをしている最中に意識を失ってしまったらまだ解るが。いや、ゲーム脳だから一般的には解らないか。
でも、これがゲームとかだったら楽だとは思う。『RWO』だったら敵の攻撃パターンとか解るのに。そんなのは有り得ないから、なんとかこの世界で生きていく術を見つけないと。
「できたら、ステータスとか分かることって出来ねぇかな……?」
ふと、まるで俺の願いに反応したかのように、俺の視界にとあるボードが現れた。
そのボードは触ろうとしてもすり抜けてしまう不思議な存在だったが、そんなのはどうでもいい。
ボードにはある文字が書かれていた。
ソラ・カンザキ
Age:17
種族:人間族
クラス:なし
Lv:1
STR:20
VIT:20
AGI:20
INT:20
MDF:20
DEX:20
【ユニークスキル】 《国士無双》
【スキル】
・投擲Ⅰ
【装備】
・異世界の学生服・皮の靴
【称号】
・異世界より来たりし者
「これは……ステータス!?」
ソラ・カンザキは俺の名前だ。Ageは俺の年齢と一致しているから、半信半疑だが、俺に対しての能力値だと思う。
クラスはゲームでは確か職業の事だったと思うけど。てかなしって、俺は無職かよ。
STRは筋力値。VITは防御力。AGIは敏捷値。INTは知力。MDFは魔法防御力。DEXは器用値の事だろう。
これは俺がやっていたゲームによく出てきた数値だ。
そういえば靴って気にしてなかったけど、これ俺の靴じゃないな。作りは普通の靴と変わらないけど。まあ、学校で履いているようなスリッパじゃなくて良かったと心から感謝だ。
《国士無双》については、ボードを出したときみたいに念じると説明が出た。
《国士無双》
・熟練度が通常の三倍上がりやすくなる。
熟練度というのはなんだろうか? 【投擲】の横にギリシア数字の事か? それが上がりやすくなるってことか。他人の上昇率が解らないから確かめようがないけど。
後は【称号】についてだ。称号の名前からこの世界が異世界だと信憑性が増してきたな。
【異世界より来たりし者】
・自分や仲間に成長補正。
仲間に成長補正か。てことはレベルが上がりやすいとかか? 元々ボッチの俺には難題だぞ。くそっ。
帰る方法が見つかるまで、俺はこの世界で生きていくしかない。
レベル数値があるってことは、モンスターを倒してレベルを上げて、自分を強化していかないとこの世界に順応する事が出来ない。そういうことか。まんまゲームじゃん。
ステータスの記述から見て、魔法という概念も在るのだろう。どうやら魔法は覚えていないようだけど。レベルを上げれば魔法を覚えるのか、他の方法で覚えるのか分からない。もしかしたら魔法なんてものはないのかもしれないが、それはどこかの町に着いてから人に聞くとしよう。
スキルは魔法とは違って、1つだけ覚えている。
【投擲】だ。隣のギリシア数字を熟練度として考えることにする。ゲームでは技スキルにレベル制度があったから、これも同じようなものだろう。
というか何で【投擲】なんだ? もしかして俺の奇行ピッチングのせいなのか? そうなのか?
【投擲】
・物体を投げるとき、距離や、威力が上昇する。
※熟練度により、能力が高まる。
説明文から、スキルはそのまま習得者の力に反映するようだ。つまりパッシブスキル。【投擲】が使えるかは、正直微妙なんだが。熟練度はやはりさっきのレベルの事みたいだ。でも、それなら説明文に『スキルの熟練度』って書けば良いのに。他に能力が上がりやすいのか? でも【称号】の力もあるしな……。
なんにせよ、スキルは常に使っておかないといけないだろう。
俺のユニークスキルは、スキルの効果を増加させる熟練度を早く上げることが出来る。つまり俺の強みは、熟練度の高さになるだろう。
『RWO』はレベル制でもありスキル制でもあったから、スキルを鍛えることはとても大事なことを知っている。だから、俺のユニークスキルはチートだ。
だからといって過信するのは良くない。俺はゲームの頃みたいにステータスは高くないし、スキルもない。
今ある俺の力を最大限まで利用して、必ず元の世界に帰ってやる!
俺はそう決意をし、暗く深い森を歩き出した。