第二十四話 『指名依頼』
お久しぶりです! お待たせして申し訳ありませんでした!
それではどうぞ!
「『指名依頼』……ですか?」
「はい。隣街に行く馬車の荷物の護衛です。オーガを倒した期待の新人冒険者に任せたいそうですよ」
翌日、ギルドに行くとティオさんに呼ばれた。何でも依頼を特定の人に任せたいという『指名依頼』に俺達が指名されたみたいだ。
他のDランク冒険者に頼めばいいのに……なんで俺達なんだ? そんな疑問が無いわけではないが、ティオさんによると、護衛には信頼がおける人間が必要なため冒険者の割に品性の良い俺達が選ばれたらしい。
「この依頼主は実はCランク冒険者の方なんですよ。キールさんという方でとても礼儀正しい人で、今回は襲ってくる魔物を討伐するのも行ってくれるそうです。ですので不測の事態が起きない限り、実際は荷物の護衛だけで済むみたいですね」
「そんな楽な仕事で良いんですか?」
依頼主が魔物を倒してくれるのなら俺達冒険者は只の荷物番だ。報酬を貰う権利もないだろう。寧ろその事でトラブルになっては困る。
「冒険者の仕事はランクの割に簡単な依頼や困難な依頼があります。それは全て冒険者に適用されることですので、責任を持って依頼に取り組んでくだされば大丈夫ですよ」
ティオさんがスラスラと説明する。初めてティオさんが役立つ受付嬢だと思ったよ……。口には出さないが。
それならば問題はないか。自分なりに真面目に取り組めば良いだけだし、それに相手はCランクの人格者だ。厄介なことにはならないだろう。
一応隣で昨日買ってあげたエルフのペンダントを弄んでいるイリスに確認を取る。
「イリスはどうだ? 護衛依頼を受けると今日は隣街で宿泊することになるが、報酬は結構良いから俺は受けようと思うんだが」
「あっ、はい。私は大丈夫ですよ。そういう依頼を経験するのも悪くはないと思います」
もう少し反論意見も出していいんだが……。まあイリスには奴隷としての価値観が抜けていないからな、徐々に直していけばいいだろう。
兎に角、これで決まりだな。
「その依頼受けることにします」
「判りました。西門で待っているそうなので、昼頃に合流してください」
「ありがとうございます。それじゃイリス、行こう」
「はい、判りました!」
もうすぐ昼だし、昼食を食べてから西門に向かうとしよう。
そう思い、俺達はギルドを後にした。
さて、受けると決まったからには自分のステータスの確認だ。オーガを討伐してから確認していなかったしレベルは結構上がっているだろう。
先ずは俺からだ。
ソラ・カンザキ
Age:17
種族:人間族
クラス:見習い魔法剣士
Lv:14→17
STR:144→156
VIT:93 →105
AGI:174→186
INT:129→141
MDF:93 →105
DEX:135→147
【ユニークスキル】 《国士無双》
【固有スキル】
・言語理解
【スキル】
・剣術Ⅱ・体術Ⅱ・投擲Ⅱ・索敵Ⅱ・解析Ⅰ・回避Ⅲ・料理Ⅰ・身体強化Ⅰ・魔力操作Ⅰ・火魔法Ⅱ・水魔法Ⅰ・風魔法Ⅰ・土魔法Ⅱ
【装備】
・鋼鉄の太刀・鉄の小剣・灰狼の外套・鉄の籠手・革の靴
【称号】
・異世界より来たりし者
・ボーナスポイント【15】
最近停滞気味だったレベルが3つも上がっている。これは嬉しい。ボーナスポイントも豊富にあるし、早速振り分けておこう。
結果的にSTRに3ポイント。AGIに7ポイント。INTに3ポイント。DEXに2ポイント振り分けた。
スキルの方は新しく【魔力操作】が増えていた。毎日のイメージトレーニングや特訓が役に立ったようだ。これは教えてくれたイリスに感謝だな。
「イリス、スキル欄に【魔力操作】が増えていた。イリスのお陰だよ。ありがとう」
「いえ、私は少しアドバイスをしていただけですから……。おめでとうございます!」
謙虚過ぎる良い娘だ。感謝はしているんだから素直に受け取ってくれればいいのに……。
他には【土魔法】の熟練度が上がってⅡレベルになった。オーガ戦では土魔法をかなり使っていたし、当然と言えば当然か。
さて、俺のステータスの確認は終わったし、次はイリスのステータスだ。
「イリス、お前のステータスも見せてくれ」
「判りました。――ステータス!」
イリスから渡されたステータスプレートを見る。
イリス
Age:16
種族:半長耳族
クラス:魔術師〈奴隷〉
Lv:7→12
STR:32 →46
VIT:32 →46
AGI:38 →58
INT:110→154
MDF:32 →46
DEX:56 →85
【スキル】
・弓術Ⅱ・早撃ちⅠ・魔力操作Ⅰ・火魔法Ⅱ・水魔法Ⅱ・風魔法Ⅱ・土魔法Ⅱ・氷魔法Ⅰ
【装備】
・隷属の首輪・ミスリルのローブ・紫紺の魔導杖・魔鋭弓・皮の靴・エルフのペンダント 『魔力増強』
【称号】
・エルフの血を継ぐ者
・ボーナスポイント【0】
イリスは5レベル上がっていた。スキルの熟練度は上がってはいないが、INTがレベルにしては異常に高い。魔術師としてやはりエルフはスペックが高いみたいだな。
ボーナスポイントは……既に振り分けておいたみたいだな。
「サンキューな、イリス。さて、飯でも食いに行くか」
「私はあのショウユを使った料理が食べたいです!」
「ああ、焼鳥か。それじゃ行くとするか」
俺達は約束の昼頃になるまで屋台を回ることにした。
◇
約束の昼頃。
西門に行くと一台の馬車が止まっていた。
「あれでしょうか?」
「西門の馬車って言ったらあれしか見当たらないしな。多分そうだろ」
この近くにも一応魔物はいるはずだが、この馬車の近くには全くいない。恐らくその依頼主ってのが魔物を倒しまくっていたのだろう。この地域の魔物は『ハリー草原』よりも強いらしいから、流石はCランク冒険者ってところか。
近付いてみると俺達に気付いたのか中から人が出てきた。
その人は中々若い。大体二十代中盤辺りだろう。くすんだ金髪が特徴的だ。服は革鎧だが、使い込みしっかりと整備をしているのか艶が出てきている。革鎧に隠れてはいるが、引き締まった筋肉が服越しからでもよく解った。
「えっと、貴方がキールさんですか?」
「ああ、そうだ。今日はよく来てくれたな、感謝する。話は聞いているぞ。カタナ使いのソラ・カンザキ。そこにいるのはギルドで人気のハーフエルフのイリスだな」
この人がキールさん。少し態度はでかい気がしないでもないが、冒険者といったらこのぐらいが普通か。いや、言い回しがセーラみたいなだけかも知れないけど。
というか俺って結構知られているんだな。それにしても良かった……フード被りのソラ・カンザキって言われなくて。
「早速だが馬車に乗ってくれ。御者はオレがやる」
「あの……本当に魔物を討伐しないでも良いんでしょうか? 依頼の齟齬があってはいけませんので、教えてください」
イリスが疑問に思っていたことをキールさんに話す。確かにティオさんの話を信じるより本人に確認を取った方が合理的ではあるな。
「ああ、そうだが少し違う。別に強制はしないが馬車を停めるつもりはない。やるなら遠距離からの攻撃をしてくれ。ハーフエルフのお前のように弓を使ったりしてな」
「……判りました。ありがとうございます」
イリスはハーフエルフという言葉に反応したが、直ぐに引き下がった。やはり自分の種族が今でも気になるのだろう。
その事に気付かないふりをして、俺達は馬車の中に乗り込んだ。
「なんだこれ……」
馬車の中にあったのはシーツを被せられた何か。シーツが包まっているようになっているからよく分からないが、大小様々だ。
「なんでしょうか……微かに魔力が感じられますが」
「判るのか?」
「エルフの血筋は魔力に敏感ですから、多少のことなら感じることが出来ます」
てことは何かの魔道具か。魔道具はかなり高価な筈だが、この馬車の中だけで一体幾らになるんだろう。これはヘタすると弁償する可能性があるな……気を付けよう。
「それじゃあ出発するぞ」
「判りました!」
そして馬車は目的地を目指して出発した。
◇
馬車の目の前にはゴブリンがこちらに向かって走ってくる。というか野性としての本能的に動くものにつられて襲い掛かってきただけか。
俺達は馬車の中からそれを眺めている。戦おうとはしない。これまでの戦闘からそれが無駄だと理解しているからだ。
「フッ!」
――ジャラジャラッ!
御者をしているキールさんが短剣をゴブリンに向けて投げた。その短剣に連結している鎖が音を立てながらゴブリンの胸に突き刺さった。
「ガァアアアアッ!」
ゴブリンが絶叫を上げるがキールさんは投げた短剣とは逆に連結していた短剣を引っ張り、ゴブリンを分銅のように扱って薙ぐようにして通路から退けた。
キールさんの武器は鎖鎌の短剣バージョンだ。きっと扱いも難しいだろうが、その短剣を完全に使いこなしている。かなりスキルの熟練度は高いのだろう。それに高ステータスも合わさり、これでCランクとは正直信じられないな……。
そして何事もないかのようにゴブリンが居た場所を通り過ぎた。
「何度も見ても凄いな……」
「高いDEX値もあるでしょうが、スキルに【自動照準】があるんでしょう。私には真似が出来ないですね」
ハーフエルフとして人間族よりも遥かに高い動体視力を持っているイリスとしては、自分より命中率が高い事に嫉妬しているのだろう。まだ低レベルなのだから仕方がないとは思うが。
馬車を走らせてから時間が経ち、既に夕方になっている。その間ずっとこの光景を見せられているのだ。
自分もDランクになって少しは強くなっているとは思っていたが、やはりもっと高いランクの人間は強い。少し自信を無くす。
暫くイリスと談笑していると、急に馬車が速度を落とし、やがて止まった。
「どうして止まったのでしょうか?」
「いや、俺に言われても判らないが……。キールさん! どうかしたんですか?」
呼び掛けてみるが、返事は無い。
「……降りてみよう」
二人して馬車から降りると、キールさんも馬車から降りて立っている。そして、何故かこっちを向かない。どうしたんだ?
「キールさ――」
「カンザキ! イリス! 囲まれている!」
キールさんが叫んでようやく気づいた。周りを見渡すと武装した人間が七,八人俺達を取り囲んでいる。
い、いつの間にここに!? キールさんが気付かなかったって事はかなりの実力者だろう……。
俺は刀を鯉口から抜いた。今でも襲い掛かってきそうな敵対心を感じられる。
そして、一人の男が『火球』を俺に向けて放ってきた。それを跳び上がりながら回避する。
もしかしてコイツらが盗賊団の一味か? それなら俺達を襲う意味も判る。只の盗賊かもしれないが……。というか、何故俺達の行動がバレたんだ?
ギルドの連中がバラしたのか? それだったら大問題になるだろう。だが、盗賊達の気性の荒さから脅されたということも考えられる。
そう考えている間に、また魔術師の男が魔法を俺に放ってくる。
「くっ! キールさん! イリス! どうす――」
「きゃっ! ソラ様ッ――」
「――! イリス!? どうした!?」
さっきまでイリスが居たところに振り向くと、イリスは呻き声を上げながら口を押さえられている。
押さえ付けているのは――
「キールさん!? 何故イリスを……!」
キールさんは俺を冷たい目で一瞥する。
その目には明らかに嘲笑の感情が隠しきれていない。その目がとても不快に感じた。
「さあ……カンザキ――」
キールさん――いや、キールは不敵な笑みを浮かべた。その事に思わず背筋が寒くなる。
「――闘り合おうか……!」
少しストーリーに変化を入れてみました。これからの展開を気に入ってもらえると幸いです。
できるだけ明日更新できるように頑張ります!