第二十二話 『決着と昇格』
最近辛い。テストに試合に修学旅行。書く時間が取れないっ!
書き続けたいな。一日中……。
それではどうぞ!
ポーションを飲んでも身体が全快するわけではない。実際に俺の肋は二,三本折れているだろう。左腕も痛みが残り、しっかりと柄を握れない。
だが、今は甘えることの出来ない状況だ。イリスの魔法が出来るまで俺がオーガを相手する。
「グォオオッ! グォオオオオオッ!」
「五月蝿い五月蝿い。まったく……お前の相手をするこっちの身にもなれっての」
口では戯けるも、頭の中ではどう戦うか。どのように策を成功させるかが高速で回っていた。イリスの魔力も限界に近く、俺の体力もそろそろ尽きる頃だ。
――この戦いで仕留めなければ確実に死ぬ。
肌に当たる風、土の匂い。そして何よりも心臓の激しいぐらいの鼓動が、この世界は現実だと告げている。
そして目の前には異形の鬼。ここだけは現実とは思えない光景に思わず笑ってしまう。
「グガァアアアアアアッ!」
「『火の息吹』!」
襲ってきたオーガの攻撃を避ける。【回避Ⅲ】は伊達じゃない。
そのオーガに俺のオリジナル中級魔法、『火の息吹』を食らわす。この魔法は『豪炎』を火力ではなく範囲を重視し、拡散型にした炎だ。
その熱気はオーガの肌をジリジリと焼くが、やはりダメージはない。
「ガァアアッ!」
オーガはまだ残る熱気を掻き消すように棍棒を横薙ぎする。かなりの速さで突進してくるが、回避だけに集中するなら難しくはない。躱しざまに『火球』をぶつけた。
「まだだ…………」
オーガの棍棒が頭上から降り下ろされる。直ぐに刀を持ち、『二重奏“弧月”』で一太刀目は棍棒を『受け流し』し、二太刀目でオーガの懐を斬る。傷はついていないが行動に空白が出来る。
「『三連・火球』!」
三発の火の玉がオーガに直撃する。やはり傷は無いようだがダメージはあるようで膝を着いた。
俺はこの隙を見逃さない。自慢の敏捷を使い加速する。その勢いのまま右腕の関節を叩いた。
「どうだ!?」
「グオォォォッ!」
俺の攻撃で右腕が動かないと悟ったのか俺に向かって左腕で殴ろうとする。
それを躱すと今度は左足で俺を蹴りつけてきた。
「マズイッ! ――『火球』ッ!」
咄嗟に『火球』を足に放ち、その勢いで生まれた少しの時間で横跳びし転がりながら回避する。
そして直ぐ様距離を取った。
「……もうそろそろ良いかな? 後は……」
俺は『RWO』の技、『四刃乱舞“回帰”』 を放った。
『四刃乱舞“回帰”』は俺がゲーム時代最も使っていた技だ。相手に二太刀浴びせ、走り過ぎざまに背中へ更に二太刀浴びせる。これは動きながらでも使える技のため、汎用性に優れていて俺の得意技。
これはDEXの補正がなくとも扱える自信がある。
躱しながら接近する。俺の最初の二太刀はオーガの肩口、そして喉の喉頭隆起を叩いた。ここは人体の急所であり、肩口はともかく喉はしっかりと命中したようだ。オーガが一瞬動かなくなる。
その隙に『返し』である二太刀をオーガの両足のアキレス腱に与える。切れてはいないだろうが、少しの間足が動かないはずだ。
「『落穴』! 『岩地縛』!」
先程イリスが行った魔法のコンボを参考にしてオーガを縛った。これで準備は万端だ。
インベントリから調理用で所持していた小麦粉を取りだし、それをオーガに浴びせた。オーガの赤黒い皮膚がたちまち白くなっていく。
そして微風程度の風魔法をオーガに吹き掛け、少し離れる。
「さあ、これで終わりだ。――『粉塵爆発』!」
俺が放った『火球』がオーガに近付いた瞬間爆発が起こった。規模は大きくはないが凄まじい熱気と爆風が俺を襲う。
これがオーガの皮膚を剥ぐ為の作戦。粉塵爆発は乾燥した状態と粉と粉との間に酸素が充分に有ることがポイントだ。さっきの火属性と風魔法はそれを成功するための下準備。そして『火球』が着火源だ。
「ガァアッ………ガァアアッ!」
オーガは身体にダメージを負いつつも虚勢を張って俺を威嚇する。
だが、皮膚は剥がれ、あちこちから出血しているオーガの威嚇なんて効くわけがない。兎も角、これで俺の役目は終わった。
――後は頼んだぞ、イリス。
「ソラ様、行きます! ――『疾鉄槍』!」
イリスが放った槍は、硬さを強化し続けた為に鉄そのものに変化していた。それはまるで灰色の線となってオーガの左胸を貫いた。
「ガァアアアアアア……………――ッ!」
その痛みからか、オーガは断末魔の叫びを上げる。俺を睨み付け、血を吐きながらゆっくりと背中から倒れた。
一瞬の静寂。徐々に倒したという実感が湧いてきて足の力が抜けた。膝を地面に着いて深い深い息を吐く。
そしてその静寂を打ち消す鈴の音のような声がひとつ。
「ソラ様ぁぁぁああッ!」
顔を涙でグシャグシャにしたみっともない姿でイリスは俺をきつく抱き締める。少し苦しい。
胸元になにやら柔らかい感触が……。あぁ、俺、今幸せだ……。
そんなイリスの髪を優しく撫でる。何度も味わった死への恐怖。こうやって抱き締めるだけで心さえも温かくなる気がする。
「お疲れさま。良くやったな、イリス」
「いえ……! ソラ様のあの爆発のお陰ですよ!」
爆発とは『粉塵爆発』のことだろう。あれは粉との間の酸素だけが不安だったから、あの状況で成功出来たのは幸いだった。
「俺だけじゃないさ。お前もいたから倒せた。この戦いは俺達二人の勝利だよ。……違うか?」
「い、いえ。違いません。……私とソラ様の勝利…………。ふふっ……!」
イリスは小さく笑い、そして身体を俺に預けた。
――そうだ。これは俺達二人の勝利。俺一人じゃ無理だった。何故忘れていたのだろう。ゲームでも仲間の助けは必要だった。
自分の力に過信し、溺れる。それはイリスのお陰で踏み留まれた。俺は一人じゃ何も出来ない。弱い人間。でも、仲間と一緒なら……。
俺は腕の中にある確かな存在を見つめる。俺はこの世界に生きている。認めてもらっている。
その事に気付き、小さな笑みを浮かべると俺はイリスを抱き締め返した。
――俺が、護る。
「ソラ様…………?」
「悪い。……少しの間、こうさせてくれ」
「…………はい、勿論です」
俺はこの温もりに満足するまで、イリスを抱き締めていた。
◇
「ど、どうしたんですか!? カンザキさん、傷だらけじゃないですか!」
俺達はギルドに戻ってきていた。オーガは俺のインベントリに入っているが、あまりの重さのため中身を全部イリスの方に移して無理矢理入れ込んだ。
それとサンドワームの査定に来たのだが、オーガにやられて血だらけになった俺の外套を見てティオさんが叫んだ。
「大丈夫ですよ。ちょっと厄介な魔物と戦ったんで怪我はしましたが傷は殆ど塞がっています」
「大丈夫じゃないですよ! というかサンドワームを倒しに行ったんじゃないんですか? どんな魔物と遭遇したんですか!」
ティオさんの声がキーンと俺の耳に響いた。助けを求めようとイリスを見ると、「頑張ってください」という顔をして見捨てられた。酷い。
俺はまぁまぁとティオさんを宥めつつ、インベントリからオーガの死体を『買取窓口』に出した。
「これは、オーガ!? 大丈夫だったんですか!?」
「いや、だから大丈夫ですって」
「ソラ様の実力を考えればこんなのは当然ですよ。とても凛々しい戦いぶりだったんですから!」
イリスが俺を褒めちぎるが、俺の記憶では刀を振るったが傷をつけれず、挙げ句の果てに死にかけてイリスに助けられ、最後だけ爆発させて皮膚を剥いだことしか残っていないんだけど。
インベントリから更にサンドワームの触角を取り出した。
「これもお願いします」
「は、はい。暫くお待ちください……」
ティオさんは戸惑いながらも奥に消えて査定をしに行った。
途中から冒険者達の視線が強くなってきた。俺はフードを深く被り直してティオさんが帰ってくるのを無心で待った。……だって絡まれたくないじゃん。イリスの俺へのべた褒めが恥ずかしいじゃん!
待つこと大体二十分。結構待ったな。ティオさんが奥から帰ってきた。
「お待たせしました。先ずはサンドワームが七体討伐なので大銀貨三枚と銀貨が五枚となります。そして肝心のオーガですが……皮等を合わせて金貨三枚となります。お確かめください」
合計で三十三万ちょいか。あんな死ぬような思いをしてそれぐらいとは、ちょっと泣きたくなる。まあ、オーガはDランクだし、そう考えると結構貰えているんだが。
「それにしても、なんでオーガと戦う事になったんですか? カンザキさんはEランクなのに……」
「その事を話そうと思ってました。俺達は誰かにオーガを擦り付けられ、殺されそうになったんです」
「えぇっ!? だ、誰がそんなこと……!」
いや、それを知らないから報告だけしようと思って言ったんだが。この人って話聞かないところあるよね。
なんとか事情を説明して、その人間の情報が入ったら報告して貰うことを頼んだ。
「判りました。その時は報告させてもらいます。それで、そろそろ本題を」
「本題……?」
さっきのが本題じゃなかったのか?
「おめでとうございます! カンザキさんは実績が認められてDランクに昇格となります!」
ティオさんがそう言って拍手しだすと周りのギルド職員達、そして他の冒険者達もそれに続いた。
つまり……俺はオーガを倒した事が実績となったのか。正直いきなりすぎて自覚が湧かない。
「おめでとうございます! ソラ様!」
「あ、ああ。ありがとう……」
イリスは自分の事のように喜んでくれている。俺って良い仲間を持ったんだな。
「いえ、イリスさん。貴女もEランク冒険者に昇格ですよ」
イリスもEランクに昇格。登録して三日目でなんてかなり早いだろう。まあ、オーガと戦ったのならそれぐらい当然か。
イリスはティオさんの急な言葉にきょとんとするが、段々理解していき涙目になる。
「や、やりました! ソラ様!」
「おめでとう、イリス!」
さっきの俺よりも明らかに大きい拍手。「イリスちゃんおめでとう!」「凄い!」という言葉。おい、こら。俺の時と違うじゃねぇか!
兎も角、これで【空中迷宮】への資格を手に入れた。俺はそんなことを思っていた。
――これからどんなことが起こるかも知らずに。
そろそろストックが無くなってきましたし、もうすぐ修学旅行なので明日でまた休止します。申し訳無いですが、修学旅行が終われば出来るだけ毎日更新を目指します。
明日は18時に更新となります。