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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第一章 【異世界転移】
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第一話 『不思議な世界と』

では、どうぞ!



「ここは……どこだ?」


 俺――神崎空かんざきそらの目の前にはなんとも不思議な光景が広がっていた。

 唖然としている俺を見下ろすようにそびえ立っている青々とした森。それを彩るように様々な果実をつける樹木。

 そして俺の背後には一面に広がる荒野。その先には建造物の影がひとつも見当たらない。


「いったい、なにが起こったんだよ……」


 あまりの現実味のなさに、つい自分の頬を摘まんで引っ張る。結構おもいっきり引っ張ったため、思わず悲鳴が人気のない森に響く。

 補足する必要はないと思うが、これは歓喜による絶叫じゃない。別にそんな喜ぶ属性とかない俺にとっては普通に痛かった。畜生。

 ヒリヒリする頬を押さえつつ、改めて現在の自分の状況について確認する。


「さっきまでいた教室から、自然溢れるどこかに移動……いや、転移か?」


 ゲームの中だったりして。いや、でもアレはゲーム中に何かが起こるとゲームの世界に行ってしまうのがテンプレだった筈だ。誰かに拉致られたとしても流石に近所の奴が気付くだろう。


 頭の中でグルグルと回る仮説の数々。どれを選んだとしてもそれは現実味の無いことだが、今のこの状況自体が現実味が無いため、それもおかしくはない。


 その結果に出した答えは――


「……ここは異世界?」


 頭を打ったのか。誰かが聞いたらそう思うかもしれないが、こんな光景を説明できるなら異世界としか考えられない。

 言っておくが、俺は異世界に対して憧れを持っているからそういうことにしたいとか、そんなくだらないことじゃない。断じて違うぞ?

 いや、期待しているということも否定はしないが。

 俺は嘆息して、この世界に来る前の事を思い出していた。




◇ ◇ ◇




 俺の家庭は極々普通の一般家庭だ。自営業もしておらず、親父は中小企業のサラリーマンだし、母さんはパートをして両親は共働きをしている。


 そんな両親の下で産まれた俺も、極々普通の高校二年生だ。

 勉強は中の上、顔は悲しいことに平均程で、運動が少し出来るぐらいだろう。

 運動が出来るといっても、小中と剣道をやっていた。それくらいは当然の事と言える。

 高校に入ってからは話題だったVRMMOを毎日のようにプレイして堕落した生活を送っているせいか、少し体力は落ちているが。


 その日は梅雨に入りかけの火曜日。俺は、いや俺達は放課後、教室に残っていた。俺を含めて五人。いつもつるんでるメンバーで、急に降ってきた雨が止むのを待つためだった。


「――それでね、神崎君。この前新しいクエストを受けたんだけどね、PK集団と遭遇したんだけど」


「言わなくても判ってるよ。どうせ一人残らず返り討ちにしたんだろ?」


 さっきから俺に話し掛けているのは愛羽夏姫あいばなつき。髪をポニーテールした可愛いらしい少女だ。クラスの中でも特に容姿が良く、誰にでも優しい事から男女ともに人気が高い。因みに中学からの同級生だ。


 彼女の話題は俺と彼女が現在ハマっているVRゲームの話だ。

 VRゲームは今から三年前、2079年に日本で初めて開発され、発売初日から売り切れ続出で前例にない大ヒットとなった。俺と彼女は世界初のVRゲームとなった『Real World Online 』、通称『RWO』を発売当初から愛用している。愛羽はこう見えてかなりの廃ゲーマーだ。『RWO』のギルド戦で笑いながら敵を屠る姿から、プレイヤーから【殺戮姫さつりくき】と呼ばれている。


「勝手に決め付けないでよ。……間違ってはないけど。でも、神崎君でも返り討ちに出来たでしょ?」


「……まあ、な」


 愛羽が言うように、俺もPK集団を倒せたと思う。実は俺も廃ゲーマーと自負しており、独自のステータス構成でギルド戦でも活躍している。有名な【殺戮姫】とはPvPで勝率四割と頑張ってはいるが、勝ち越す気配は今のところない。


「ははっ。また愛羽さんと神崎はゲームの話しかい?」


 爽やかに話しかけてきたのは雨宮大地あめみやだいち。雨宮は爽やかな短髪で性格も良く、イケメンで友達は多い。

 しかも二年生ながらサッカー部のストライカーをしたり、クラス委員をしていたりする。典型的なリア充とは雨宮のような奴を指すのだろう。


「夏姫も本当に飽きないわね。ゲームの話を毎日のようにして」


「そういうところが夏姫ちゃんの可愛いところじゃん? まぁ、神崎は見た目通りだがな」


 俺達三人に話し掛けてきたのは、小鳥遊鈴たかなしりん鮫島将吾さめじましょうごだ。

 小鳥遊鈴は黒髪のセミロングで高飛車な性格だ。だけど友達思いのところもあってか友人は多い。愛羽が美少女とするならば、彼女は美少女と美女の間くらいだろう。そして愛羽と同じく俺の中学の同級生でもある。


 対して鮫島将吾は髪を染めていて女好きだ。顔は良いが、女子をファーストネームで呼び馴れ馴れしい。今は愛羽と小鳥遊を気に入っていて、愛羽と良く話す俺を目の敵にしている。理不尽だろう。


 何故こんな五人が集まったかというと、色々と訳がある。

 最初は俺と愛羽だけだった。愛羽はゲーム内で俺と知り合い、そこから良く話すようになった関係である。その後愛羽と仲が良かった小鳥遊が集まり、雨宮はクラス委員として俺に話し掛けてきてそのまま定着。鮫島は強引に友達面して今現在。

 つまり邪魔者は鮫島だ。いや、というか愛羽以外俺には関係ないんだが。


「そんなこと言わないでよ、鈴ちゃん! 鈴ちゃんもやってみたら解るって!」


「まあ、その内ね」


 あ、やる気ねぇなこいつ。

 投げなりな言葉にそう確信する。


「将吾は帰らないのか?」


「そんなこと言うなよ、大地。俺は夏姫ちゃんと鈴ちゃんが神崎に何かされるのを止めるためにいるのさ」


 さりげなく俺を危険視してナルシストっぷり全開。明らかにお前の方が危険人物だと訴えてやりたい。そして雨宮が苦笑をして言っているを理解していない時点で愚図だと思う。いや、ただ鈍いだけかも知れないが。


 ふいに窓を見ると雨は止んでいるとは言えないが、小雨になっていて帰れそうになっていた。


「悪いけど俺は帰るわ。雨も止んできたし」


 帰る準備をしながらそう言う。口々と別れの挨拶を言ってくるが、鮫島は違うな。何で感謝の言葉なのか理解に苦しむ……まぁ、察してはいるのだが。



 そんなときだ。



「うわっ、なんだこれ!?」


「床がっ!」


「何、この紋章!?」


 急に床が光り出す。教室の床を埋め尽くす白色の光。光は円状になっていて、俺達はその上に立ち竦む。


「魔法陣……?」


 見た目は漫画とかでしか見たことはないが、魔方陣だ。テンプレ的にはこの後――


「皆掴まって!」


 俺と同じことを考えたであろう愛羽が声を上げる。訳もわからず俺以外の三人が愛羽に掴まった。

 俺はどうしたかというと、掴めるわけがなかった。鮫島が机を俺の邪魔になるように蹴りだしてるんだから。寧ろこの状況での集中力は評価に値する。


「神崎君!」


 そんな愛羽の声を最後に、俺の視界は光に埋め尽くされた。

 






 これがここまでの経緯だ。

 意識を失った俺は気づいたら異世界だ。どないしろっちゅうねん。

 ていうか鮫島に怒りがふつふつと沸いてきた。こんな時まで俺に嫌がらせをするなんて。愛羽達は俺と一緒の状況なら何処かに居るんだろう。俺だけボッチ。

 まあ、他の奴が居るかどうかは確認することは出来ないが、その内会うことも有るだろう。帰る方法は分からないが、テンプレだと誰かが俺を召喚したわけだから、確証はないがそんな人も探さないとな。

 テンプレに事が進むとは完全には信じてないが、そう思わないと正直行動は出来ない。今は動くしかないから。


 帰る方法はあとから考えるとして、まずは拠点が必要だ。

 食べ物もないから、どこかの村を探して拠点にした方が良いだろう。何事も衣・食・住だ。鞄の中に体操服があったが、鞄は転移されてないし服の替えはない。


「とは言ったものの、どこに村があるんだ?」


 周りを見渡しても前には深そうな森。後ろにはどこまででも続いていそうな荒野が広がっている。

 なにこの完璧な布陣? 俺を貶める気満々じゃん。


 移動は絶対だ。ずっとこのままでいるわけにもいかないし。

 どちらかをいうと、荒野よりも森を歩いていった方がいいだろう。森には食べられそうな果実や水があるから、荒野よりかまだマシだ。

 生い茂っている木々のどこから入ろうかと周りを見渡すが、端が見えないほどの大きな森だ。ここからだと道っぽいところは見当たらない。


 仕方なく歩き出す。面倒くさく怠かったが、十分くらい捜索していると、現れる待望の道。明らかに誰かが通った痕跡のあった。


「この道はもしかしてどこかの町に通じているのか?」


 道があるということは、そこには人が通る。人が通る道の先には町があると考えるのが普通だ。

 俺の経験(某RPG)からしても、道の先には町がある。

 それはその某RPGでも、他のゲームでも、当然と言える知識だ。俺ってゲームしか知識ないのな。


 嘆息しながら深い森の中を歩こうとする。どれくらいの規模かは知らないが、その内馬車とかも通るだろう。そう思っていた時。


「――ピキャァァアアアア!」


「……………………」


 鳴き声が聞こえた。猫みたいな『ニャッ』でもなく、鶏みたいな『コケコッコー』でもなく、ましてや牛とかの『モォー』でもない。

 近いとするならば、声帯を潰しきったような女性の声だ。ホラー映画かよ。超怖い。


「鬼が出るか、蛇が出るか……。行ってみるしかないな」


 出来ることなら声帯を潰しきった女性は出ないでくれ。心底そう願いつつ、先が見えない森の中を不安と少しの期待を胸に入り雑じった心情で足を踏み入れた。




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