第十八話 『イリスの過去と魔法』
いつの間にか100000PVを突破しました。ありがとうございます!
まだまだ課題も多いですが頑張りますね。
どうぞ!
セーラからあの後、奴隷との契約についての説明を充分に受けた。
奴隷としての誓約は、三つあり、
1.主の命令には絶対服従。背いた場合には首輪が締まり苦しめる。
2.奴隷は主を傷付ける事は出来ない。傷付けようとする意志があれば首輪が締まり苦しめる。
3.奴隷は主の所有物だから自殺はすることが出来ない。但し、主が不運にも亡くなった場合、首輪が締まり死ぬ。
これ以外は特に無いが、この誓約は主が認めれば無かった事にも出来るらしい。
まあ、今さっき契約したばかりだしまだ信頼関係は築けていないから、現状はこの契約内容のままで過ごすことにするが。
――閑話休題。
俺とイリスは騎士院から出てきた。セーラからは盗賊の報償金として大銀貨八枚貰った。あんな弱い相手を倒して金なんか貰っても良いのかちょっと気が引けるが、冒険者という職業柄金は必要だ。有り難く貰っておいた。
そう言えばオークの討伐報告を完了していないが、今日は止めておこう。疲れたし、イリスの事も考えないといけない。
「……ん?」
袖を引かれる感覚。イリスが俺の袖を引っ張っていた。
普通に言葉で言えばいいのに。
「ソラ様。これから何処に行くつもりなんですか?」
二人になったからか少し緊張が解けてきたみたいだ。流暢に話すことが出来ている。
「そうだな……。服はセーラから何着か貰ったからな、武器屋でイリスの防具とかを買おうか。悪いけど明日から一緒に冒険者として戦って貰うけど良いか?」
「は、はい。頑張ります……!」
イリスはグッと拳を作って意気込みを告げる。余り気負い過ぎない方が良いと思うが。
今思ったが、武器屋に行くとしてもイリスがどんなステータス,スキルを持っているか知る必要があるだろう。一般的にエルフは魔法の代わりに精霊を使役する【精霊術】が使えるらしいから心強い。
「イリスは【精霊術】をどれくらい使えるんだ?」
「えっ! いや、その…………」
俺がそう言った途端、さっきまでの張り切りようから打って変わって気落ちしていく。俺はその変わりように戸惑った。
刀を腰に差したフードを被っている外套の男と、少し汚れが目立つ服を着たフードを被っている少女の見た目は、通行人からしたらかなり怪しく見えていることだろう。しかも女性が泣きそうになっている近くで慌てている男がありという構図だ。注目を浴びても仕方ない。
そのばつの悪そうな俺の顔を見たからか、イリスも慌て出した。
「い、いえ! ソラ様がどうというわけではなくて……。……申し訳有りません。私は【精霊術】が使えないのです」
「……使えない?」
「はい。きっとハーフエルフという血が原因なのでしょう。私が奴隷となったのも、里の皆が【精霊術】を使えない私を追放して、その後行く宛もなく彷徨っていた所を奴隷商人に捕まってしまったからです……」
そう言ったイリスの顔はとても泣きそうな顔をしていた。悲しい過去を思い出したのかもしれない。きっとこれまで辛かったのだろう。悪いことを聞いてしまった。
「そうは言っても両親は優しかったですよ。私は何故か魔法が使えたので、【精霊術】の代わりに人間族である父が魔法を教えてくれましたし。今回の事も両親は関与してないと思います」
「そうか、辛かったんだな。……悪かった」
「何故ソラ様が謝るのですか? 私は奴隷です。ですので謝る必要は有りませんよ。寧ろ私は【精霊術】が使えないので申し訳ないのは私の方です……」
イリスは乾いた声で笑う。……その笑い声で気づいた。
彼女は不安なんだ。行く宛もない。あのままだったらきっと酷い主人に買われていただろう。いや、寧ろハーフエルフということで売れず、捨てられていたかもしれない。
――だから、今の主人である俺に縋っているのだ。
「言ったろ、俺はお前を奴隷として扱うつもりはないって」
「えっ。で、ですが……!」
「出来ないことなんてやらせようとは思わない。お前は俺と同じだ。人間は人間だし、ハーフエルフはハーフエルフ。違う種族だが、同じ人だ。お前は出来ないことの代わりに出来ることをやっている」
【精霊術】の代わりに魔法を特訓していた。その努力は消えない。その事実があるから。
「だから、そんなに抱え込もうとするな。これは『命令』だぞ?」
これで『命令』するのは最初で最後だ。俺達は仲間だ。主と奴隷という関係は今ここで無かった事にする。
「は、はい! ありがとうございます……ソラ様……!」
遂に涙が溢れ落ち、嗚咽をするイリス。只、イリスの俺を見る目がやけにキラキラしていて何だか恥ずかしくて目を逸らす。
きっと俺の頬は赤くなっているだろう。そして益々周りの人の目線が厳しくなってきた。フードを被った赤くなっている男とフードを被った泣いている少女。シュールだ。
「まあ、取り敢えずイリスのもステータスを見せてくれ。これから背中を預けるもの同士になるんだから」
「判りました、ソラ様!」
イリスは涙を拭きつつ、「ステータス」と唱えて俺にステータスプレートを渡す。
イリス
Age:16
種族:半長耳族
クラス:魔術師〈奴隷〉
Lv:7
STR:32
VIT:32
AGI:38
INT:110
MDF:32
DEX:56
【スキル】
・弓術Ⅱ・早撃ちⅠ・魔力操作Ⅰ・火魔法Ⅱ・水魔法Ⅱ・風魔法Ⅱ・土魔法Ⅱ・氷魔法Ⅰ
【装備】
・隷属の首輪・布の服・皮の靴
【称号】
・エルフの血を継ぐ者
・ボーナスポイント【0】
「何で魔法がスキル欄に書いてあるんだ?」
俺の方には書いていない。なのにイリスのステータスには書いてあるがどういうことだ?
「何故って、魔法もスキルの一部じゃないですか」
「そうなのか!?」
それは知らなかった。魔法は魔法。スキルはスキルで分けられていると思っていた。
もしかして《国士無双》の効果はスキルの熟練度に効果があるから、魔法にもその補正があるのか? それだとしたら相当チートだ……。
でも、俺の方に書いていない理由が判らない。
「スキルが書いていないのなら、魔法が出るように念じてみてください。魔法だけは自分でプレートに書かないように出来るので」
言われた通りに念じてみる。
ソラ・カンザキ
Age:17
種族:人間族
クラス:見習い魔法剣士
Lv:14
STR:144
VIT:93
AGI:174
INT:129
MDF:93
DEX:135
【ユニークスキル】 《国士無双》
【固有スキル】
・言語理解
【スキル】・剣術Ⅱ・体術Ⅱ・投擲Ⅱ・索敵Ⅱ・解析Ⅰ・回避Ⅲ・料理Ⅰ・身体強化Ⅰ・火魔法Ⅱ・水魔法Ⅰ・風魔法Ⅰ・土魔法Ⅰ
【装備】
・鋼鉄の太刀・鉄の小剣・灰狼の外套・鉄の籠手・革の靴
【称号】
・異世界より来たりし者
・ボーナスポイント【0】
「本当に出た!」
俺の声に反応して、イリスは小さく笑う。
「あまり魔法に触れてきていなかった人は自覚をしない限りステータスが出ないと父が言っていたので、合っていたみたいで良かったです」
火魔法がⅡ。それ以外の魔法はⅠレベルだ。これってどういう意味なんだ?
「イリス。魔法のレベルについて知っているか?」
「勿論です。魔法は他のスキルとは違いⅤレベルまでが上限です。一般的にⅠレベルが初級。そこから順に中級,上級,精霊級,神聖級に上がっていきます」
ということは俺は火魔法のみ中級が使えて、それ以外は初級か。確かに火魔法なら中級までは使える。それ以外も使えることは使えるんだが、魔法としては不安定だ。
あれ? ということは、
「イリスは四種類も中級魔法を使えるのか!? それに氷魔法も使えるし……」
INTに関してはかなり高い。きっと俺と同レベルになったとき、確実に俺よりも高くなるだろう。【弓術】もあるし、前衛の俺にとっては最高の後衛だ。
「ソラ様の役に立てるのなら、嬉しいです。私もソラ様を護れるように頑張りますね」
「ああ、期待してる。……さっきから気になっていんだが、【称号】と【魔力操作】の能力は何なんだ?」
【称号】は興味本意だが、【魔力操作】は名称からして使えそうなスキルだ。もし習得出来るなら是非とも教えてもらいたい。
「【称号】は私のINTに補正がつきます。ですので通常よりも高くなっているんですよ。【魔力操作】はそうですね……、他属性同士を合成する『混合魔法』が使えるようになります」
つまり風や水等の魔法を合成できる。使い方によっては初級魔法の合成で更に上の威力が望めるってことか。
「このスキルも上限はⅤまでです。このスキルはそのレベルに応じた魔法同士しか合成出来ませんので注意してください」
「……悪いが、そのスキルの指南をしてくれ。もっと力をつけておきたいんだ」
俺はもう一人じゃない。護るべき仲間が居る。だから、もっと力がいる。
「ふふっ、任してください! ソラ様のお力になれるなら!」
その時のイリスの笑顔はとても可憐で、さっきまでの陰りが全く無かった。
次話の更新は明日の18時になります。