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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第一章 【異世界転移】
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第十六話 『盗賊と奴隷』

「そこを右です! そのまま真っ直ぐ行ってください!」


「判った!」


 大体走って三分ぐらい経った。途中、木が邪魔してスピードが落ちるが難なく進めている。子供一人抱えて全速力で走っているが、あまり息切れはしていない。確実に日本に帰ったら超人判定されることだろう。


 俺の体力の方は大丈夫だ。問題は向こうに居るという少女の姉とエルフの女性。そして御者の三人のことだ。男は判らないが、姉とエルフの方は女性の為、直ぐには殺されないだろう。女は奴隷として売れるし、その前に盗賊達の慰み者にされるからだ。だが、もし犯されてしまったら精神が壊れてしまう可能性もある。出来るだけ早く助けてやりたいが。


「もうすぐです! その林を抜けたら私が襲われた場所に着きます!」


 時間が無い。道的には遠回りした方がいいが、時間短縮のために険しい林の中を突っ切っていた。幸いにもこの少女は地理に知識があったのか、方向を見失っていない。十歳にもなっていないのに凄い頭脳だ。小学校なら学級委員長タイプだな。


 出口に近づくにつれて男の声と女の叫び声が聞こえてくる。……これはマズイな。


「よし、抜けるぞ!」


 林を抜けると、三十メートル程先に馬車が見える。その馬車の周りにはいかにも盗賊っぽい古びた装備をした男が三人。

 それとは別に女性にのし掛かっている男が一人。あの女性が少女の姉か!?


「お姉ちゃんッ!」


 少女の悲痛の叫びが上がる。その事に盗賊達はこちらを向いた。

 気付かれたか。兎に角、先ずは女性を助けないと。


「テメェは誰だ! 止まれ!」


「殺すぞこらぁ!」


「…………『岩石弾ロックバレット』!」


 岩の塊がのし掛かっている男の手前に突き刺さる。男は自分に当たると思ったんだろう。声を上げながら女性から飛び退いた。――コイツら、大したことないかも。


「テメェ! 何しやがる!」


「黙れよ。――『火鞭ファイアウィップ』!」


 現れた火の鞭を横薙ぎにし、盗賊達を下がらせる。そのお陰で馬車と女性の側には盗賊達は居ない。

 俺達は女性に近付く。女性は胸元がはだけているだけでそれ以外には何もされていないみたいだ。抵抗した後があり、腕から少し血が出ているが、俺の使える初級回復魔法でなんとかなるだろう。


「大丈夫、お姉ちゃん!?」


「エミル!? どうして戻ってきたの!」


 少女の名前はエミルというらしい。感動の再会と言いたい所だが、エミル姉は妹を再び危険に晒すことに涙を流す。この姉妹は泣くのがクセにでもなっているのか?


「お姉ちゃんの為だよ! お姉ちゃんを助けるために助けを呼んできたんだから」


「助けって……この人?」


 エミル姉は怪訝な顔をして俺を見る。まあ、こんな若いのに盗賊に勝てるかどうか疑問なんだろう。一応会釈をしておいたが、そんな態度なら敬語はしないぞ。


「まあ、話は後にするぞ。向こうは今にも襲い掛かってきそうだし」


 盗賊達は既に各々が武器を抜いている。確実に頭に血が昇っているな。


「…………ごめんなさい。貴方しか頼れる人が居ません。どうか私達を助けてください……!」


 エミル姉は巻き込んでしまった責任感からか涙を堪え、そして懇願した。

 元々助けるつもりだったし、その願いは受け入れよう。エミル姉に向かって優しく微笑み安心させる。


「無視すんじゃねぇよ、ガキ! テメェは楽には殺さねぇ!」


「泣き叫ぶまでいたぶって、奴隷として売り飛ばしてやる!」


 なんだコイツら。前の三人組と同じ思考かよ。


「あぁ、五月蝿い。何でお前らは相手から行かせようとするんだよ。そんなに戦いたければそっちから来い」


 挑発しつつ刀を抜く。誰も気付いてはいないが、風魔法の『風障壁ウインドシェル』で姉妹と馬車を覆う。これで襲われても少しなら耐えられるだろう。


「俺の楽しみを邪魔しやがって……! 覚悟しやがれッ!」


 エミル姉にのし掛かっていた男が俺に単身で襲い掛かってきた。剣を振り上げるが、あまり慣れている様子はない。それほどスキルの熟練度は高くないみたいだ。


 俺はここで下がらない。ここで待ち構えない。ここで気圧されれば、相手のペースになってしまう。寧ろこの事を利用しろ。無理矢理にでも俺のペースに持っていくんだ!


「ッ!? なんで向かってくるんだ!」


 俺は姿勢を低くして男に向かっていく。アランさんが言うには上級冒険者で下がる者は居ないらしい。ここで相手に心の余裕を持たせてはいけない。どちらも同じ状況下の中で戦う。その睨み合いに負けているようじゃ強くはなれない。


 俺の行動に気圧されたのか男の動きが鈍った。それを見逃さない。

 更に加速し相手のタイミングをずらした。そのまま男の懐に飛び込み、剣を持っている方の手首を峰で打つ。

 男は痛みに思わず剣を溢れ落とす。その一瞬の隙で相手の腕を掴み背負い投げをして地面に叩きつけた。


「ぐわぁっ!」


「――『蔓緊縛リーフバインド』! 『岩地縛アースバインド』!」


 倒れた男をすかさず草で縛り、ついでに周りの土でも動きを封じた。一人目。


「クソッ! 全員で奴を潰せ!」


 残りの三人も武器を構えて走り出すが、その内の二人を魔法で牽制し一対一の形をとる。やはり戦いに慣れてなく、動きもぎこちない。スキルの熟練度が低いのだろう。

 俺は刀で競り合い、フェイントを加えつつ相手に打撃を与える。男は少しずつ意識が俺の腕と刀に集中していき、足元が疎かになっている。

 フェイントを増やして完全に意識を上半身に集中させた後、相手の足を引っ掻けて転ばせる。その状態のまま魔法でその男も縛りつけた。


「またやられたッ! クソォオオオオ!」


「……そんな馬鹿正直に突っ込んできてどうすんだよ。――『岩石弾ロックバレット』」


 一人の盗賊が馬鹿の一つ覚えに突っ込んできたから、真正面から『岩石弾ロックバレット』を撃ち込んでやった。初級の魔法だがかなりの威力があるし、結構効くだろ。吹っ飛んだ盗賊はどうやら気絶したみたいだ。


「さて、ラスト一人――ってアレ? もう一人は何処行った?」


「……さっきの男が走り出した時に林に向かって逃げ出しました。今から追っても難しいかと」


 エミル姉が妹を抱き締めながらそう言う。気付いていたなら教えてくれれば良いのに。別に今からでも逃げた男を捕まえることは出来るだろうが、エミル達から離れるわけにはいかない。何か報復があると怖いが……。


「まあいいや。怪我はないかって、そういやエミル姉は怪我してたっけ? ちょっと傷見せてみろ」


「えっ?」


 エミル姉の返事も聞かずに腕を掴んで傷を見る。刃物で切られたようだが浅い。思った通りだ。


「穢れ無き清き水。その流れを持って傷を癒せ!

 ――『水癒ヒール』!」


 水属性の初級回復魔法だ。つい三日前に覚えたばかりだが、こういった浅い傷には役に立つ。

 俺の掌から青白い光が発生する。それを傷に翳すと出血が止まり、傷も少し癒えた。

 この前『ハリー草原』で手に入れたアロエとそっくりの『アーロア』を潰したものを傷に塗りつけ、清潔な布で巻いた。


「これで血は出ないはずだ。今日一日はその布を取るんじゃないぞ」


「は、はい。助けて頂いてありがとうございます……!」


「お兄ちゃん、ありがとう!」


「いや、いいさ。俺もエルフに会える事は最高の報酬だし。ま、それよりもさ……」


 俺は一旦姉妹から離れ馬車に向かって歩き出す。馬車の中を覗くとフードを被った女性。彼女がエルフなのかな?

 それとは別に肥えた髭面のオッサン。…………こいつは……。


「た、助けていただいてありがとうございます……! このお礼は私の店でッ……!?」


「……黙れよオッサン」


 媚を売ろうとするオッサンの頬をギリギリと掴む。これでも常人の筋力からは逸脱している。 その万力のような握力にオッサンは声にならない悲鳴を上げるが俺は力を緩めない。更に力を強くし、睨み付ける。

 ――俺はこの場に来てからずっと疑問に思っていた。


「なんでお前は襲われていない? 御者をやっているものが真っ先に狙われるのが普通だ。なのにお前は傷一つなく、馬車の中に避難していた。お前はなんだ?」


「いや……、私にもよく判らないのです……!」


 必死に愛想笑いをするオッサンを一瞥し、縛っている盗賊の一人の所に行く。


「な、なんだ……?」


「今からお前を拷問する。本気だ。お前らがこいつを襲わなかった理由を喋れ」


 出来るだけドスの利いた声で威圧する。刀を男の手首に添えて少しだけ切った。その事に本気だと思ったのか顔を判りやすく青褪めた。

 本当は拷問する気なんて無いが、オッサンの態度から親しい間柄ではないと見える。これなら少し脅すだけで充分だ。


「わ、判った! 話す! 話すから……!」


「おい、お前! 約束が違うぞ!?」


「うるせぇッ! テメェだって俺達とは無関係を装ったじゃねぇか!」


 狼狽えだしたオッサンの言葉に男は怒鳴り散らかした。そしてオッサンを示し、


「あの男は奴隷商人だ。俺達はあの商人と契約している。アイツが只の商人に成り済まして人を乗せ、俺達がその馬車を襲い奴隷として売り飛ばす。その繰り返しだ」


「…………奴隷、商人」


「なぁ、良いだろ? 話したじゃないか。許してくれよ、頼グガッ……!」


 刀の柄で頭を殴り、昏倒させた。許せるわけがない。エミル姉はお前らの勝手な行動で怪我をした。エミルは泣いたんだ……!

 俺は奴隷商人の側に行き、睨み付ける。


「悪かった! もうしない! だから…………!」


「だから……! 許せるかよッ!」


 奴隷商人の肥えた腹に渾身の力で抉るように殴る。奴隷商人は吐瀉物を吐き出し、白目を剥いて倒れた。

 この世界に来てから、俺は少し暴力的になった気がする。

 頭に血が昇り、心臓の鼓動が聞こえる。怒りが治まらない。

 エミル達は声が出ないようだったから微笑み、馬車の中を覗く。

 そこには身体を震わして怯えているエルフの少女。



 俺だって奴隷商人と盗賊が繋がっているなんて半信半疑だった。

 だけど馬車の中でアレを見たとき、それは確信に変わった。


 馬車に居たエルフの少女。彼女には首輪がついていた。それは忌々しい物。日本では有り得ない物。

 そう、彼女は――





 ――――彼女は、奴隷だった。





次話の更新は明日の18時になります。

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