第十五話 『二週間の成果』
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「ブモォッ! ブモォオオオオ!」
「鼻息が荒いんだよ、豚が!」
オークに追われている俺はそう吐き捨てる。ギルドの依頼として受けているんだから仕方がないが。
オークはギルドではEランクの依頼として扱われる。それだからグレーフウルフやホーンズボアよりも強い。実際、オークの振る棍棒が俺の頭上を通過した。危ない!
俺がギルドに登録してから二週間が経った。その二週間はギルドの依頼やアランさんとの模擬戦をして過ごしていた。
アランさんは化け物と言っても良いだろう。俺の太刀を大剣で受け流し、そのまま蹴りで俺を五メートル近く吹き飛ばす。魔法で体勢を崩しても、俺の刀が当たることはなかった。只、組み手をしたお陰なのか【体術】スキルを習得し、熟練度もⅡレベルまで上がった。
剣術もⅡレベルまで上がって、確実に強くはなっている。
その結果、俺はEランク冒険者に昇格した。
俺はギルド内では元々評価が高く、何でもセーラが俺の事を他の知り合いである女性冒険者に話していたらしい。
あの日絡んできた冒険者であるウォル達は仮にもEランク冒険者だ。それを撃退したFランクの冒険者、それが今回の昇格にも繋がっているみたいだ。
そして俺はオーク討伐に来たわけだが、
「うわっ、危ねぇッ! この豚鼻息荒すぎて気持ち悪い! なんか寒気がする……。俺の尻とか狙っていないだろうな?」
オークは凶暴だ。男は捕食し、女は自分達の繁殖道具として死ぬまで犯す。その事から女性冒険者には人気が無く、男の俺が受けたわけだが……コイツはもしかして男も犯すんじゃないか? 嫌だぞ、童貞も捨ててないのに初めてが臭いオークって。
「ハァハァ……! もう直ぐだ!」
俺はさっきまでいた荒野エリアから草原エリアに差し掛かる。オークと戦うには圧倒的に膂力不足だ。なら、地を利用して戦うしかない。
「よし来た! ――『蔓緊縛』!」
草原の草木がオークの足に纏わりつく。だが、全速力で走っているオークを縛ることが出来ない。
ま、想定済みだけどな。
草木のせいでスピードが落ちたオークの方に向き返り、刀を抜いて走り出す。
相対する俺とオークだが、俺はジャンプし高く上がた。咄嗟の事で反応出来なかったであろうオークは俺を目線では追うが、棍棒を振ることは無い。
「ラァッ!」
この二週間で嫌でも付いた背筋や腹筋を使い、回転をしながらオークの右腕を斬り飛ばす。脂肪が多いためか、斬るのに然程抵抗はない。が、斬れ痕からは噴水のように血が噴き出した。
「ブモォオッ!」
オークは棍棒を持っていた方の右腕が撥ね飛ばされ、その分の重量が消えた為にバランスを崩して転倒する。
俺は予想以上に上手く刀を扱えたことに感嘆の声を上げた。これも【剣術Ⅱ】と【体術Ⅱ】のお陰だろう。体術で理想的な身体の動きに近付け、剣術でブレの無い振りをする。これだけで切れ味は大幅に上がる。強くなっているのが実感できる瞬間だった。
「ブモッ! ブモォオオオオ!」
「うるせぇな」
立ち上がろうとするオークの頭に刀を降り下ろし、息の根を止めた。斬った瞬間に血が頬に付いたが問題はない。
外套の袖で拭いながら、オークの討伐部位である右の牙を叩き割る。これで依頼は達成だ。
オークの肉は見た目によらず結構旨い。少しクセのある豚肉という表現が分かりやすいだろう。別に今食ってもいいが、身体が大きいオークを解体している間に血の臭いを嗅いで魔物が集まってくるから厄介だ。解体はギルドに任せるとしよう。運ぶのはレベルが上がったお陰でインベントリには余裕があるから、別にオーク一体ぐらいどうでもなるだろう。
ソラ・カンザキ
Age:17
種族:人間族
クラス:見習い魔法剣士
Lv:4→14
STR:41→144
VIT:31→93
AGI:62→174
INT:41→129
MDF:31→93
DEX:44→135
【ユニークスキル】 《国士無双》
【固有スキル】
・言語理解
【スキル】
・剣術Ⅱ・体術Ⅱ・投擲Ⅱ・索敵Ⅱ・解析Ⅰ・回避Ⅲ・料理Ⅰ・身体強化Ⅰ
【装備】
・鋼鉄の太刀・鉄の小剣・灰狼の外套・鉄の籠手・革の靴
【称号】
・異世界より来たりし者
・ボーナスポイント【0】
この二週間でステータスは敏捷以外三倍以上にになっている。相変わらす耐久力は紙並だが。
特に変化があったのは【回避Ⅲ】だ。ここまで高くなるとは思わなかった。組み手やさっきのような戦闘でも、俺は敏捷性を重視した戦法で戦っている。その結果、必然的に回避は増えていくわけでスキルの熟練度が大幅に上がった。
実は俺のスキルの熟練度はDランクの上位冒険者に匹敵するものらしい。だからステータス上では負けていても、スキルによる『技術』で充分に戦える。やはり俺のユニークスキルは結構なチートのようだ。まあ、ステータスもこのレベルにしてはかなり高い。【ボーナスポイント】が効いているのだろう。
【身体強化】は1レベル毎に、INTとDEX以外のステータスを10上げることが出来る。これも俺の強さの一因となっている。
「さてと、そろそろ行くかな。他の魔物に襲われたら面倒だしな」
俺は刀を振り、風圧で血を飛ばす。後はボロ布で残った血を拭い、鞘に納める。流石に走り回って疲れた。さっさとギルドに向かうとしよう。
――カサッ
「なんだ!?」
歩き出した途端、右の草むらから葉音が鳴る。風というわけではない。さっきのタイミングで風なんて吹いていないのだから。
ということは、生物の可能性が高い。草の頭が大きくてよく判らないが、あまり隠れるのは上手くないのだろう。よくあるのなら兎とかかな?
一応刀を抜いて構える。ゆっくりと近付き、その原因を確かめようとする。
すると、草むらから盛大な音が鳴り、小さな影が現れた。
「――ま、待ってください!」
「…………子供?」
影の正体は十歳にも満たない幼い少女だった。今にも泣き出しそうな顔で両手を上に挙げている。抵抗の意思がないってポーズか?
よく見ると着ているスカートが泥にまみれて汚れている。泥もまだ新しいみたいだし、さっき付いたものみたいだ。この草原を走っていたのか?
それに幼すぎる点も不自然だ。この草原も魔物はいるし、こんな小さな少女は直ぐに殺されてしまうだろう。
「えっと……どうしたの? お母さんは? 街に戻りたいなら一緒に行って上げるけど」
そう疑問を持ちつつ、涙を瞳に溜めて俯いている少女に出来るだけ優しく話し掛ける。ちょっとスーパーの迷子に話し掛けた気分だ。
俺の言葉にゆっくりと顔を上げ、嗚咽を堪えている。その顔には、悲痛の色が現れていた。
「ぉねえ、ちゃんを……」
「え?」
少女が何かを呟いたが、あまりに小さい声で風により掻き消された。
何を呟いたのか判らなかったが、遂に少女の瞳から涙が溢れ落ちる。
「――お姉ちゃんを、助けて……ッ!」
◇
「落ち着いた?」
「…………はい」
少しの間――だが、一分程の短い時間で涙をぼろぼろと流す少女を宥めた。さっきの少女の鬼気迫る表情から余裕がないように感じた。普通ならもう少し時間を掛ける方が良いんだろうがその事が頭を過ぎり、最小限に済ませた。
「それで、助けてってどういうこと?」
「はい。……私とお姉ちゃんは馬車で隣街に出掛ける途中だったんですが、怖い男の人達が馬車を襲ってきて……! それで……お姉ちゃんが私を逃がしてくれて……!」
また思い出したのか、涙を溢す。怖い男達っていうのは恐らく盗賊達だろう。アランさんにも街の外には盗賊がいるから気を付けろって言われているし。
「それって今さっきのこと?」
「はい……。だから、だから早くしないと……! お姉ちゃんが……!」
「判った。安心してくれ。俺が必ずお姉さんを助けるから」
少女の目を見てしっかりと言いきる。危険はあるが、出来るだけ力になって上げたい。流石に無理だったら、可哀想だが諦めてもらうしかないけど。
「ほ、本当ですか……!?」
「ああ、本当だよ」
「ありがとうございます……!」
折角涙が引いていたのに、また大粒の涙が流れた。この子、酷い目にあってずっと気が張っていたんだろう。今回のは嬉し涙ってことが唯一の救いか。
「お姉さんの他にも乗っていた人は居た?」
「私たちの他には一人だけ女の人が居ました。確かエルフの方だとお姉ちゃんは言ってました。元気がないみたいで話してはいませんでしたけど」
「エルフ!? エルフがいるのか!?」
【スフィア】に来てから獣人には会ったことはあるけど、エルフとは会ったことがない。これは助けないといけないだろう……!
そんな俺を見て、少女は首を傾げる。
「えっと、エルフがどうかしたんですか?」
「いや、何でもないよ。てことはエルフの女性と御者、そして君のお姉さんを助ければいいのか」
その人数だと連れて逃げることは無理だ。なら、撃退するしかないな……。
「それじゃあ、行こう! 道案内は頼んだ!」
「はい! こっちです……!」
示した方向に走り出そうとするが、少女の走るスピードじゃ遅いだろう。
――仕方がないか。
「きゃっ、何ですか!?」
少女を荷物運びみたいに横脇に抱える。ステータスが上がったお陰でこれぐらいどうってことない。
「走るぞ。しっかり掴まっていろよ!」
「は、はいっ!」
返事を聞いて走り出す。かなりの速度が出ているため少女が悲鳴を上げるが無視だ。
――間に合えよっ!
次話は明日の18時に更新となります。