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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第一章 【異世界転移】
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第十四話 『勇者英雄譚』

日刊ランキング300位以内に入りました。

ありがとうございます!

 これはとある英雄の話である。




 数百年前、【レスタール王国】は勇者召喚を行った。

 その頃世界は荒れ果て、命が喪われない日は無かったほどである。

 空からは魔族が現れ、毎日のように人を殺していく。その光景はまさに地獄だった。

 たった数日で、街が数十単位で滅びたともされている。


 そんな世界の危機を阻止するために、世界中の研究者が作り上げた魔術。それが勇者召喚である。

 

 【レスタール王国】はその代表として勇者召喚を行った。否、行えるのはその国だけであった。

 召喚魔術には高位の光魔法を有する者が必要だ。そして最も適性が高いとされ、【聖女】と呼ばれる者が【レスタール王国】の幼い王女であった。

 彼女は国民にも人望があり、勿論勇者召喚も期待されていた。



 そして現れたのは年端もいかない少年だったと言う。



 彼は勇者としての力は有るだろうと思われたが、悪い意味で期待を裏切った。



 彼を知る人物は様々な事を言っていた。



 曰く、彼は誰よりも泣き虫だった。

 曰く、彼は同世代の子よりも才能が無かった。

 曰く、彼は周りの人から蔑まれていた。


 

 誰も彼を認めない。

 幼い少年に期待などされないから。


 だが、彼は一人では無かった。


 同じく勇者召喚で失敗したとされる王女も皆から蔑まれていた。


 王女は悪くない。


 だが、数年の月日を掛けて召喚した者が只の役立たずである事が、世界中に蔑まれる原因となった。

 彼女の楽しみは、唯一話しかけてくれる勇者の異世界の話だった。


 故に彼は彼女のために力をつけた。

 誰よりも努力し、誰よりも熱心に剣を振るった。

 そして、いつしか彼の周りには多くの人が集まった。


 彼の昔を知る人物は、皆揃えて評価を変えていく。



 曰く、誰よりも優しかったと言う。

 曰く、命の尊さを知る者だったと言う。

 曰く、逆境であろうとも立ち向かう勇敢な者であったと言う。

 曰く、どれだけ身体が傷付いても、確実に敵を葬り去っていたと言う。



 彼は強くなった。

 役立たずと言われた幼少期を無かったことにするかのように、数年の月日で彼は世界で一番の力を付けた。


 その後彼は王国を旅立ち、世界中を旅することになった。

 世界には理不尽な暴力が渦巻いている。争いはその頃は沈静化していたが、いつ再開するかは判らない。

 だから、彼は勇者として旅立ったのだ。


 その旅には美しい【聖女】の王女が同行していた。

 王女は光魔法の適性の高さにより、同行することを許されたのだ。。

 その王女は、今も昔も勇者の唯一無二のパートナーであった。



 彼は魔族の巣窟だとされる【空中迷宮】を攻略していった。何度血を流したのか判らない。だが、彼は平和の為に剣を握った。

 彼は数年で迷宮を攻略し尽くし、魔族を殆ど倒して世界を平和に導いたとされる。


 そして別れの日が近づく。

 勇者である彼と王女である彼女。

 愛し合っていたが、彼には元の世界に残した家族がいる。だから残れない。



 彼が世界を去るとき、王女は涙ながらに見送った。




 歴代最強にして最高の勇者。


 名は――――『ヒイラギ』


 

 その英雄ともされる功績と王女との結ばれない恋。


 それ故に、彼は今尚語り継がれている。







「ふぅ……成る程ね」


 俺は今、街の【ラフリア魔導図書館】に訪れていた。

 魔導図書館というだけあって、魔法についての指南書や魔法の詠唱などが書かれた本が多数存在している。

 この世界の文字は日本でいう平仮名と片仮名の様なものだけなので、比較的理解がしやすい。実際には文字を声に出して読んで【言語理解】で変換しないといけないのが面倒くさいが。


 今日は魔法の勉強や歴史について調べに来たが、『勇者英雄譚』というタイトルに惹かれてついつい没頭してしまった。

 この世界には俺の他にも過去に召喚された人間がいる。

 そうは言っても、全員召喚魔法を行った王宮で召喚されていたようで、荒野に召喚されたのは俺だけじゃないか?

 他の文献にも目を通したが、一度の魔法で召喚された人数が少ない程素質が有ると思われているらしい。

 実際、唯一歴代で一人だけだった『ヒイラギ』は最強の勇者だと言われているし、その次に強いと言われていた勇者は二人組だったようだ。

 

 勇者の初代は『ヒイラギ』。二代目は二人組で、三代目は四人組。四代目は五人組で、五代目は三人組だったらしい。

 そして今現在だが、勇者として召喚されたのは愛羽達の四人組だろう。もしかしたら俺も五人目の勇者かも知れないが、称号にもなにも書いてないから判らない。

 他の勇者達は、それぞれが色々な理由で召喚されていて、『魔龍退治』や『国同士の戦争』など様々だ。


「只、『ヒイラギ』以外の勇者が地球に帰った事は書かれていないがどういうことだ? 全員が好き好んでこの世界に居座ったってことか?」


 『勇者英雄譚』には歴代の勇者達の話も記されてはいるが、其々が生涯国に仕えただの、愛するものと結ばれただの、帰還の事は何一つ記されてはいない。

 そんなことがあり得るのか? 計十四人の人間達が全員帰ろうとしないなんて。

 他にもおかしいことはある。【レスタール王国】の存在は、昔『ヒイラギ』に救われた者達が証明しているみたいだが、その王国の明確な跡地が判らない。

 普通ならそんな英雄と聖女を出した国の事を残しているはずだが、昔話でしかその存在が判らないのだ。


「【レスタール王国】の事さえ判れば日本に帰る方法を知る可能性が高くなるのに……!」


 無いものをねだっても仕方がない。その事は謎だが、独自に探すしか方法は無いだろう。


 俺は眉間を押さえて凝りを取りながら席を立つ。流石に疲れた。高校の時やダリウスさんの勉強会でもこんなにはやらない。

 立った足で『勇者英雄譚』を本棚に仕舞おうとするが、


 ――カシャ


「ん? なんだ?」


 乾いた音が鳴り、何かが奥の方で本に引っ掛かった。

 疑問に思い本を抜いて本棚の奥を覗くと、


「これは……紙か?」


 随分と古びた紙が丸まって奥に見える。両隣の本を抜いて手を突っ込んでその紙を引っ張り出す。

 溜まっていたのか埃が舞い上がり、思わずむせる。若干半泣きになりながら紙を広げると文字が書いてあった。


 ――嘘だろ?


 思考が停止する。有り得ない。この世界にあるはずがない。

 なら、これは何なんだ? 今、俺の目の前に有るものは。


 俺が見たもの。そして驚愕したもの。

 それはこの世界には存在しないはずの――




 ――――日本語だった。








 ――この世界に召喚された人間の事を思い、これを残した。



 もう俺は若くない。俺が召喚されてから六十年は経っただろうな。

 これを読んでいるって事は、お前も召喚者なんだろう。つまり、お前も日本に帰る方法を探している筈だ。


 お前がどんな理由で喚ばれたのかは知らないが、ハッキリと言おう。


 ――そんなものは無い。


 これは俺が六十年を費やして理解した事だ。

 お前は召喚した国の奴等に騙されているかもしれない。奴等は召喚することは出来ても、還す方法は知らないんだ。


 俺はそれを十年間騙され続けていた。

 この世界で出会った大切な人が支えてくれなかったら自殺していたかも知らないがな。



 だが、諦めないでくれ。もしかしたら帰る方法が有るかもしれない。



 この世界にある【空中迷宮】を攻略しろ。それが手がかりだ。

 俺も若い頃に一つだけ攻略したが、その最深部で告げられた。

 誰かは判らない。俺も天の御告げ程度にしか思っていなかったからな。


 とにかく、その何かが残したのは、

 『最後の迷宮に行け。そこにがいる。帰りたければ彼女に頼め』ってな。


 真偽の事は判らない。俺も疑っていて一つしか攻略してないからな。

 だが、無駄に探すよりこの手がかりに縋った方がマシだ。



 それじゃあ頑張ってくれ。俺の仇って程のもんじゃないが頼んだぜ。



         ――――五代目勇者・トオヤマ








「五代目……勇者」


 俺のかつての勇者が残したメッセージ。これが書かれて居るのが事実なら、歴代の勇者が帰らなかった理由は帰る方法が無かったからなのか……。

 それはあまりにも残酷だ。国のために戦い、そして自分達は元の世界には帰れない。

 その可能性がある事は判っていたが、有ることを信じた――否、願っていた。


 帰れない。その事が頭を埋め尽くす。


「いや……遺してくれたじゃないか。【空中迷宮】を攻略する……!」


 元々冒険気分で向かうつもりだった場所だ。それが確定事項になっただけ。

 『彼女』というのが誰かは判らないが、何かを知っている。それだけで充分だ。



「先ずはこの国にある【空中迷宮】だ。そこから始まる」

今回は【空中迷宮】の攻略理由の為に書かせてもらいました。

正直文が下手ですが……。


もうすぐ十七話にハーフエルフさんが登場します。楽しみにしてください。気に入ればですけど。


次話は明日の18時に更新となります。

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