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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第一章 【異世界転移】
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第十三話 『紅い少女の救援』

それではどうぞ!

「なっ!?」


 俺に振るわれる筈の斧は俺には届かず、紅い髪を揺らし薔薇の紋様の付いた白い鎧を着た美しい少女の盾により阻まれていた。

 ウォルは自分の斧が防がれたことに衝撃を受けたようだ。確かにウォルは筋力特化型だろう。それを防ぐほどの少女の実力に驚いた。


「そなたら……三人で一人に寄ってたかって襲うなんて、恥ずかしいとは思わないのか!」


 紅い少女は声を荒げた。その事に三人は気圧されたようだが、それに返すようにウォルが少女を睨み付ける。


「何を言ってるんだ? 俺達は先輩として後輩に戦闘指導をしていただけだ」


「これが指導? それが本当なら、随分と冒険者は腐っているようだな。それ以上の指導は認められない。君たちがまだ指導し足りないと言うならば、私がご教示願おう」


 少女はインベントリと見られる袋から長槍――いや、両端に刃がある珍しい形状をした槍を取り出した。

 あの形状の槍は俺の世界の英国でも使われていたという話を聞いたことがある。只、長槍のように突くだけではなく色々な動作を加える事が出来るため、その分扱いが難しい筈だ。

 それを少女は構えからして相当扱ってきたと見える。きっとスキルの熟練度も高いのだろう。


「ご教示ね……。【白薔薇騎士団】の落ちこぼれであるアンタが俺達に勝てると思っているのか? 話には聞いてるぜ。騎士としても中途半端な【鋼鉄の乙女】さんよぉ!」


「あぁ、間違いない! 紅い髪の盾使いだ!」


「何でも戦場では一人だけ盾を使って魔物と戦っていたんだって? 他の騎士共が戦っている中、自分の身を護る臆病者だろう?」


 三人が次々と好き勝手に言い、下品な笑い声を上げる。

 紅い少女の方を咄嗟に見るが、表情は変わってないように見える。だが、槍を持つ手にはギリリッと力が込められているのが解った。


 あの娘が落ちこぼれ? 何処かの騎士団に所属しているみたいだけど、スキルの熟練度が高く見える彼女よりも他の団員の方が強いってことか? 

 いや、実力は何もスキルが高いからって決まるわけじゃないだろう。


「……まだ掛かってこないのか? その臆病者と戦うのが怖いのか。なら、お前達は私よりも臆病者だな」


 冷たく低い声で三人組に言い放つ。その声は良く響き、耳の奥に妙に残った。それを聞いたからだろう、三人は解りやすく激昂した。


「テメェ……女だからって容赦はしねぇぞ! こっちは三人だ。お前なんて簡単に潰せるんだからな!」


「五月蝿い。さっさと掛かってこい」


 間髪いれずに少女は言い、槍を片手で持ち、構える。逆の手には小盾を持ちながら。その様子から見て、かなりの膂力があるのだろう。

 その構えを見て、剣士の二人が少女に斬りかかる。


「おらっ!」


「くらいやがれ!」


 振るわれた剣を少女は槍の刃先で受け流し、もう一つの剣はそのまま槍を回して柄で剣の側面を叩いて軌道を逸らす。

 それだけで二人の攻撃を防いだ。直ぐに体勢を整えて襲い掛かるが、刃が彼女に届くことはない。


「なん、で……! 当たらねぇ、んだ!」


「こっち、は……二人がかり、なんだぞッ!」


「剣筋も悪いし、体幹も弱い。それ以前にがむしゃらに剣を振るってるだけなのだから、当たるわけがない。ましてや自分の力に過信している時点で、そなたらは私には勝てない」


 それは事実だろう。余りにも実力差が有りすぎる。俺みたいに魔法を使わなくても、武術だけであそこまで強くなれる。


 俺も、強くなれるのだろうか?


「調子に乗るなよ! やれ!」


「おう! 土よ岩よ! 形を変え、相手を固め縛れ!

 ――『岩地縛アースバインド』!」


 剣士の一人が魔法を唱えた瞬間、地面が少女の足を埋めるように縛った。

 魔法も使えたのかあの剣士……!


「ギャハハハハッ! 油断するからそうなるんだよ! 俺は昔、魔法使いを目指してたからな。土魔法だけなら中級まで使えるんだよ! ま、中級はその魔法しか使えないんだがな!」


「知ってるか? その魔法は女を襲うのにすっげえ使えるんだ! 男なんかは泣くまで滅多打ちするんだよ。生意気な新人が泣いて許しを乞う姿は滑稽だぜ?」


「くっ、ゲスがッ!」


 笑い声を上げる二人に、彼女は憎々しげに睨み付ける。性根から腐りきっていやがった……!

 そんな彼女を見ていたウォルが気味の悪い笑みを浮かべながら斧を構え、近付いてくる。


「お前は器量が良いから俺達の奴隷として使ってやっても良いんだが、俺は飼い犬に咬まれるつもりは無いからな。お前はここで痛い目見て貰うぜ」


 そう言って斧を振りかぶる。斧の威力はかなり高い。盾や鎧でも、魔法で足を縛られている状態じゃ踏ん張れずに食らって無事ではすまないだろう。

 彼女は俺を庇ってくれた。

 次は俺の番じゃないのか!


「待てよ!」


 俺は刀を構え、少女を庇うようにウォルに相対する。


「おっ、まだ逃げてなかったのか。俺と戦うつもりなら殺すぞ。さっきは油断したが、今度は負けねぇ。お前も俺の怒りを買っているんだからな」


「お、おい。そなたはさっさと逃げろ! 私の事は放っといて良いから!」


 彼女は俺を心配して声を掛けてくれるが無視だ。逃げるわけにはいかない。これは俺の喧嘩だ。なら、最後まで責任を持つべきだろう。


「安心してくれよ。俺はこの喧嘩から逃げるつもりはねぇから。それに……俺を殺せると思ってるのか、先輩?」


「ハッ! 挑発したって無駄だ。俺だって仮にも冒険者だからな。そういう駆け引きは何回も経験してるんだよ」


 成る程……。他の二人と違って馬鹿じゃないんだな。甘く見ていればやられるかも知れない。


「さて、その先輩に刃向かったのが運の尽きだぜ、後輩!」


 ウォルは斧を振り上げる。

 その一振りを確実に躱すことは出来ないだろう。いや、したくても出来ない。

 ウォルの持っている斧は所謂大斧というやつだ。斧の柄はかなり長いため、俺が躱せば延長線上にいる彼女に被害が及んでしまう。

 だから、避けることは選択肢から省く。


 俺の持つ刀を左腰に引き寄せ、居合い斬りの様な構えを取る。腰も限界まで捻り、力を溜めた。


 ――成功させる。絶対に!


「オラァァァァアアアアアアアアッ!」


 振り下ろされた斧を、その軌道から外れるように身体を傾ける。

 傾けられた俺の視線には斧の刃がない側面。それを捻った腰、引き寄せた刀を持つ腕、そして手首の筋肉を全て連動させるかのように使い、刀を叩き付ける。


「――らァッ!」


 ガギィンッという低い不協和音が斧と刀の間を鳴り響き、直後に俺の右足下に斧が振り下ろされる。

 斧は軌道を変え、俺の身体を切り裂く事は無かった。誰も俺が斧を防ぐとは思わなかったのだろう。

 これはPvPでは基本とされる『受け流しパリィ』という技だ。ゲームではよく扱った技だが、現実とは感覚が違う。正直不安だったが、なんとか成功して良かった。

 ウォルは唖然とした表情を浮かべる。斧は叩き付けたままで戻すことを忘れている。おいおい、戦っている最中なのに良いのかよ。


「ガフッ!」


 ウォルの隙だらけな顔面に拳を叩き込む。狙ったのは顎の付近。今の一撃で気絶しなくても、脳を揺らせば暫くは立てないだろう。


「ウォル!?」


「『岩石弾ロックバレット』!」


 なんちゃって魔法使いが声を上げて意識が逸れる。それだから反応出来なかったのだろう。俺の魔法は魔法使いの腹に突き刺さり、そのまま壁に激突した。……見た限り、気絶しているようだ。


「テメェッ! よくも!」


 残った剣士が俺に向かって剣を振るう。それを避けようとするが、その前に横から現れた槍が剣を防いだ。


「……私の事も忘れてもらっては困る。そなたも覚悟はできているのだろう?」


 術者が倒れたためか、少女にかけていた魔法が解けていた。動揺した剣士を彼女は槍の柄で昏倒させた。

 ――この時点で、三人の冒険者は完全に沈黙した。


「ふぅ……さっさと捕縛しておこうか」


 少女はインベントリから出した縄で三人を縛っていった。

 縛った男達をそこらへんに転がして、俺の方に向き変える。


「さっきはすまなかった。助けるつもりが逆に助けられてしまったな」


 彼女は俺に深々と頭を下げる。

 謝る必要なんてないのに。俺が助けられたのは事実なんだから……。


「……謝らないでください。助けてもらわなかったら俺はやられていましたよ。ありがとうございました」


 今度は俺が頭を下げた。

 それを見て、彼女は微笑みながら、


「いや、こちらこそだ。それに無理に敬語を使わなくても良い。さほど年は変わらないようだしな。私はセーラ・クリスティアだ。セーラと呼んで欲しい。よろしく頼む」


 少女――セーラはそう言って手を差し出した。

 セーラは名字持ちだ。言葉使いからして高貴な身分だろうとは思っていたが、貴族にしては優しい態度をしている。


「……ああ。俺はソラ・カンザキだ。俺の事もソラって呼んでくれ。こちらこそよろしく」


 俺は差し出された手を握った。


「私は【白薔薇騎士団】に所属している。今日みたいな事が有ったら訪ねてきてくれ」


「気になってはいたんだが、【白薔薇騎士団】ってのは何なんだ?」


「ん? 知らないのか。この街の秩序を守る高貴な騎士団だ。と言っても男は居らず、女だけで結成された騎士団だがな」


 つまりは日本でいう警察みたいなものか。それなら俺を助けてくれた事にも納得だ。


「さて、私はそろそろ騎士団に戻らないと行けない」


「そうか……。悪かったな」


「その話はもう終わった筈だぞ。気にしないでくれ」


 気にしないでくれって言われたら余計に気になるのが人間の性だな。俺だけかもしれんが。


「それではな、ソラ」


「ああ、またな」


 同世代の友人が出来た。絡まれて良いことだけじゃないが、これだけで今日は良い日になった。

 その友人であるセーラの背中を見ながらつくづくそう思う。




 ……三人の男を引き摺りながら歩く姿はシュールだけど。


どうでしたか? 遂に出てきたヒロイン候補?

私は彼女が一番好きなキャラでもあります。口調が難しいですが。


次話は明日の18時に更新となりますが、

更新についてで活動報告にでも載せようと思うので、よかったら読んどいてください。

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