第十二話 『報告と紅』
それではどうぞ!
ソラ・カンザキ
Age:17
種族:人間族
クラス:見習い魔法剣士
Lv:3→4
STR:37→41
VIT:27→31
AGI:48→52
INT:32→36
MDF:27→31
DEX:34→38
【ユニークスキル】 《国士無双》
【固有スキル】
・言語理解
【スキル】
・剣術Ⅰ・投擲Ⅱ・索敵Ⅰ・解析Ⅰ・回避Ⅰ
【装備】
・鋼鉄の太刀・鉄の小剣・灰狼の外套・鉄の籠手・革の靴
【称号】
・異世界より来たりし者
・ボーナスポイント【5】
ステータスを見るとレベルが1つ上がっている。この前のグレーフウルフ戦でレベルが1上がったから、レベルアップはまだ先だとは思っていたんだが。ホーンズボア一体の実力はグレーフウルフよりも強いということかな? 確かに倒すのは少し手こずったしな。
ていうかこの外套、『灰狼の外套』って名前なんだな。フード付きで格好悪いのに名前は無駄に格好良い。意味は『グレーフウルフの外套』だろうけど。
そして新たに手にいれたスキル【回避】。これはホーンズボア戦で回避しまくっていたから当然と言えば当然か。《国士無双》の効果が効いていると理解して良いだろう。
【回避】は俺のような敏捷特化型には必要不可欠なスキルだ。どんなに攻め込めても、紙同然の防御じゃ簡単にやられてしまう。この世界に有るとしたら欲しかったスキルだったから、得をしたな。
ボーナスポイントは、この先必要となるであろうDEXに1ポイント振った。AGIは3ポイント、少ない値のINTに1ポイント割り振った。
「じゃあ、帰るか。……しっかし、この猪は重いなぁ」
ホーンズボアの脚を持って引き摺りながら呟く。最初の一体と最後の肉を食った一体をインベントリに入れたら満タンになってしまった。
やっぱり猪だからか重いようで、残りの一体は直接持って歩くことになる。この際毛皮はボロくなっても仕方がない。肉さえ無事ならこれも高く売れることだろう。
この肉塊をずっと持ち続けるのは大変だ。この間にも流れた血で他の動物や魔物が近付いているだろう。急がないといけない。
この後、ハイエナが五匹程襲ってきたが返り討ちににした。
どうやって? 土魔法で作った落とし穴に落としたんだよ。
◇
ギルドまでの道のりをホーンズボアに引き摺って歩いていたら、そりゃあ通行人達の視線を受けるだろう。流れ出た血液は水魔法で洗い流しているからそれで勘弁してほしい。
ギルドの扉を開けて、ホーンズボアの死体と共に入る。それだけで周りから視線が送られてくる。まあ、仕方がないったら仕方がないのだけども。
引き摺りながら受付まで歩いていくと、大半が顔を背けた。確かに面倒事は避けたいだろうけど、露骨にその反応は辛いから止めて!
仕方がないから顔を背けているティオさんの方で受け付けてもらおう。
「な、なんでこっちに来るんですか!?」
「なんでって、それはティオさんが俺の専属受付嬢だからじゃないですか」
「そんなの了承していませんよ!」
それはそうだ。俺の中だけの専属だからな。なんか言葉だけだとエロいのは何故だろう?
「それにその魔物は……」
「はい。ホーンズボアの死体です」
「ちょっと! 床が汚れるのでインベントリに入れといて下さいよ!」
「ごめん。悪いけど出来ないんだ」
その言葉にキョトンとしているティオさんの前に、インベントリからホーンズボアの死体を二体出した。
それを見てティオさんは目を見開く。
「えっ!? これ全部カンザキさんが!?」
「そうですよ。今からギルドの床を洗うので、その間にこれを確認してください。全部売却するつもりなので、その分の追加報酬を貰えますか?」
「わ、解りました!」
ティオさんが他のギルド職員と一緒に買取窓口でホーンズボアの査定をしてもらっている間に、水魔法で血を洗い流して雑巾で拭く。
周りの冒険者は奇異や蔑んだ目で俺を見てくる。奇異の視線はホーンズボアを登録初日に三体も倒した興味からか、蔑みの視線は単純に哀れに雑巾で床を拭いているからだろう。
そんな事に溜め息を吐いていると、後ろから声を掛けられた。
「おい、坊主」
「ん?」
振り向くと厳つい顔をした四十代程の男。その男を見て、周りの冒険者達は騒ぎ出す。一体どうしたんだ?
よく見るとこの男の顔は何処かで見た気がする。何処だったっけ……? う~ん……あっ、思い出した! 昨日宿で声を掛けてきた冒険者の男だ。
「昨日の……」
「やっぱり昨日の坊主だったか! フード被ってたから分からなかったぜ!」
ガハハッと笑いながら肩をバシバシ叩いてくる。痛い痛い! ヴィリムのオッサンといい、この世界の厳ついオッサンはこれが挨拶の代わりなのか?
「えぇと、どうしたんですか?」
「実は今日の朝な、ドリーの奴がお前を見かけたら色々と手伝ってやれって言われたもんでな?」
「ドリーさんが?」
なんでもドリーさんは俺を気に入ったみたいで俺の事を心配してくれてたそうだ。この男はドリーさんと旧い仲で直接言われたらしい。あのオバサンは俺のオカンか。
「だが、心配しなくても良かったみたいだな。初日でホーンズボアを狩ってくるなんて、将来有望だな」
「いえ、そんなことは……」
「謙遜するところがドリーが気に入った理由なのかもな! 俺はアラン。こう見えてもBランクの冒険者だから、困った事が有ったら俺の所に来い。先輩として相談に乗ってやるからな。それに戦い方も教えてやるよ」
Bランク!? 上から三番目の上級冒険者じゃないか! 成る程な、だからこのオッサンが現れたときに周りがざわついたわけだ。
「ありがとうございます。俺はカンザキです。これからよろしくお願いしますね」
「おう、よろしくな! その内酒でも飲み交わそうぜ!」
笑いながらアランさんはギルドから出ていった。最初から最後まで騒がしい人だったな。良い人なんだろうけど、正直疲れる。
アランさんが去ってから直ぐにティオさんに呼ばれた。どうやら死体の査定が終わったようだ。
「お待たせしました! 先ずは討伐された魔物が三体なので銀貨三枚です。それと討伐された魔物の内一体は状態が良いので大銀貨二枚。肉が減っている個体は銀貨八枚。毛皮がボロボロの個体は肉が多く残っているので大銀貨一枚と銀貨が二枚です。それらを合計すると、今回の報酬は大銀貨が三枚と銀貨が十三枚となります。確かめてください」
報酬を受け取って確かめる。うん、ちゃんと全部あるな。やっぱり討伐依頼は金が直ぐに貯まるみたいだ。でも、普通猪なんて地球ではもう少し高く売れるとは思うんだけどな。この世界と地球との価値観は違うってことか。
「はい、確かに全部あります」
「そうですか。他にも依頼を受けますか?」
「いえ、今日はやめておきます。ホーンズボアと戦って疲れたので」
俺が疲れたように苦笑すると、ティオさんは残念そうな顔をした。俺が帰るからかと期待したが、立ち直ってアランさんとどうやって知り合ったのかしつこく聞いてきた。
Bランク冒険者は有名人の様なもので、皆気になったりするみたいだ。残念。取り敢えず暇な時に話すという約束を取り付けられて解放された。一番疲れるのはティオさんかも。
ギルドから出ると陽が落ちかけていた。予想以上に依頼に時間が掛かったみたいだ。
腹から音がなる。宿に戻って丼ぶりをかきこみたいな。この世界にも丼ぶり何てあるのか? 無いのなら今度米を探して作るとしよう。
「まあ、その前に」
人気のない路地裏まで歩いて後ろに振り向く。
そこには如何にも悪人面をした男の三人組。【索敵】で確認していたから附けられている事は解っていた。
よく見るとこの三人はギルドの時に俺を蔑んで見ていたな。初心者から金を巻き上げようとする腐った冒険者ってところか。
「おい、お前。初心者なんだろ?」
「アランなんかに教わるよりも俺達が冒険者としての掟やらを教えてやるよ。組み手なんかも今からやろうぜ」
「まあ、授業料はお前の有り金全部で良いからよ!」
男達は下卑た笑い声を上げる。やっぱりテンプレ通り俺の金が目的だったか。確かに初心者が少なくない金を手にいれたら狙うのはこいつらにとっては当たり前なのだろう。と言っても四万ぐらいしか無いんだけど。
「悪いけどアンタらに教わる気はない。俺なんかに構う前に依頼を受けてきたらどうだ? 俺が依頼を受けた時から居たってことは、今日は何も受けてないんだろ?」
こいつらなんかに敬語なんて使う必要がない。敬意なんてものはこれっぽっちも無いからな。
「て、てめぇ! ふざけやがってッ!」
「いい気になるなよクソガキがッ! 俺達はお前より上のEランクだぞ!」
「泣いたって許してやらねぇからな!」
こめかみに青筋を浮かべ、それぞれが武器を構え出す。目には敵意が篭っており、今にも襲いかかりそうだ。
出てきやすいように路地裏に入ったけど、それが裏目に出たな。腐ってもEランク。三人もいると撃退は難しそうだ。
こうなったらもう遅い。仕方なく刀を抜くと、前にいる大柄な男が斧を振りかぶった。
「オラァッ!」
水平に振られる斧をしゃがんで回避する。力を込めすぎたせいか、斧を戻す動作が遅く懐が隙だらけだ。
俺は太刀を峰で振り下ろした。金を殆ど酒に換えてきたのだろう。大した装備では無いため、衝撃は殆ど伝わった筈だ。
「ぐおっ!」
「ウォル!? てめぇ!」
ウォルと呼ばれた男が攻撃を受け、激昂した男が剣を振る。俺はそれを右往左往にステップしながら躱した。
「なっ!? 速ッ!」
すかさずもう一人も参戦して剣を振るうが当たらない。俺はステップをしながら躱しつつ、相手に峰で攻撃を加えていく。
これは『RWO』で俺が編み出した剣舞だ。継続的にステップをし、相手の攻撃に反応しやすくする。
例えば野球。野球は守備の際、バッターがボールを打つ瞬間にリアクションステップをし、いち早く打球に反応出来るようにする技法がある。これはその剣術版。
俺はこれを【疾風剣舞】と呼んでいる。我ながら中二くさいが。きっと【回避】スキルの効果も有るのだろう。スキルが有るのと無いのでは全然違う。
「よくもやってくれたなッ、殺してやる!」
「くっ!」
ウォルが起き上がり、三人で攻撃を加えてくる。流石に三人は抑えきれず、所々刀で打ち合うことになった。
斧の攻撃は食らってはマズイ。躱しつつけるが同時に側面から取り巻きの二人が剣を振るった。その剣を籠手と刀で押さえたため、両手が塞がった。マズイ!
「死ねやぁああああああッ!」
斧が振るわれ、咄嗟に避けようとするが斧の方が速い。
ウォルは愉悦の笑みを浮かべ、俺は斬られると目を瞑ろうとする。だが、実際にそれは行われなかった。
俺は見たのだ。
――――美しい、紅いベールを。
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