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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第一章 【異世界転移】
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第十一話 『一狩り行こうぜ』

それではどうぞ!

 『ハリー草原』は街の東門から先にある草原だ。そこは然程危険でもなく、薬草や食用となる植物が豊富であるため店をやっている者に人気が高い。

 危険は低いからか、店主自ら素材を採取する人が多い。その中には戦闘力の皆無な者も含まれるため、そこに生息している魔物の討伐依頼が頻繁に届いている。魔物はそこまで強い個体はいないため、初心者向けの依頼として誰もが一度は通る道だそうだ。


 『ハリー草原』に着いてから大体五キロ程歩いただろう。ホーンズボアにはまだ遭遇していないが、野生の動物達は多く生息していた。特に鹿のような地球で旨いという話をよく聞く動物が多く、何度襲おうとしたか分からない。自重。

 結構進んだからか、余り手入れされていない植物が生い茂っている道を進む。【索敵】を発動するが、反応はない。


「居ねぇなぁ……」


 ティオさんによると、ホーンズボアはこの草むらに隠れているらしく、人間が草むらで葉音をたてている間に少しずつ近づき、充分な距離まで近づいたら自慢の突進で人間を襲うそうだ。

 その為に【索敵】を長時間発動し続けているのだが、まだ範囲には入っていない。


 さらに先に進むと、何やら赤い実をつけている植物を発見した。形状は細長く、どこか見覚えのあるように感じる。


「これってもしかして……」


 その赤い実を千切って匂いを嗅いでみる。少し刺激臭があり、やっぱり地球で見たことがあるはずだ。

 これが本当にアレなのか分からない。流石に食べるわけにはいかないしな。いや、【解析】があったか。他の異世界召喚ものでは凄い使われるのになんて不便なんだ。理由は相手のステータスを詳しく知ることが出来ないからなんだけど。


「兎に角使ってみますか。【解析】」



【トガラシ】

・辛味の強い実。食用としては余り使われていないが、とある地域では香辛料として使われる事がある。



「やっぱり唐辛子かっ! まさかこの世界にも唐辛子が存在するなんて……」


 唐辛子が使われている料理は頻繁に食べていた。その事から、自分でもエビチリや担々麺等の料理も作ったりしていた。

 この世界にも日本のような調味料が存在しているか分からないが、もしあるならこのトガラシを使って料理をしてみたい。というか俺が食べたいだけなんだけど。


 よく見るとトガラシは食用として使われていないためか、多く生えていた。

 嬉々として採取していると、これまた『ハーベ』といわれる地球で使われていたハーブそっくりの植物を見つけた。【解析】によるとこれはポーション等の香り付けに使われている様で、これも食用としては使われていないみたいだ。


「それにしても名前に捻りがないな。異世界っぽい食べ物ってまだジュグしか知らないんだけど」


 そう悪態は付くが、勿論採取は忘れない。金が入ったら早速調理道具を買って料理しよう。もしかしたらこれで作った料理で売れるかもしれない。これは所謂『内政チート』ってやつですよ。


 頬を緩ませながら採取を続けていると後ろの方から葉音が聴こえ、背筋に悪寒が走る。


 迷わず横に飛び退くと、さっきまでいた所に何やら青みがかった灰色の物体が通り過ぎた。かなりのスピードだったため、アレに当たったらひと溜まりもなかっただろう。


 直ぐに起き上がり、刀を抜く。さっきの物体に恐る恐る近づいた。


「…………Oh……」


 物体の正体は約三十センチ程の角を生やした猪。その毛皮は猪にあるまじき青色とも灰色ともとれる色をしていた。

 角が生えている猪ということは、コイツが目的のホーンズボアなのだろう。

 危なかった……。咄嗟に避けなかったら大怪我してただろうな。野性の勘って恐ろしい。いや、これもスキルなのかな。


 そんなことを考えている間に方向転換して、ホーンズボアはまた突っ込んできた。

 実際に正面から相対すると恐ろしいほどの速さと先端についている凶器。

 横に転がって避けることしか出来ない。


「うわっ! なんてスピードだよ……。直線的にしか進めないけど、明らかにグレーフウルフよりも速いな」


 『RWO』の技ではこういう素早い敵に対する技があるが、それを再現するにはAGIもDEXも足りない。それにスキルの熟練度もだ。


「ブゴォォオオオオオ!」


「くそっ、邪魔くせぇっ!」


 毛皮を浅く切り裂き、横に回避する。直ぐに身体を起こしホーンズボアの方を向くと、既に此方に向けて突進してくる。さっきよりも攻撃の切り換えが早い。

 腰にある小剣を抜いて投擲するが、速いためか当たらない。

 俺は舌打ちをしつつ、また横に避けた。


「埒が明かねぇな……。一旦動きを止めるしかないか」


 無詠唱で『水球ウォーターボール』を発動させる。これは『火球ファイアボール』の水魔法バージョンだ。動物には火魔法がよく効くとは思うが、ここは草むら。火事になる可能性があるから断念する。

 『水球ウォーターボール』はホーンズボアに向かっていくが、やはり避けられる。突進を回避し、また『水球ウォーターボール』を発動させる。今度は三つ作った。


「『三連・水球ウォーターボール・トリプル』!」


 『水球ウォーターボール』が三つ連続でホーンズボアに向かう。かろうじて二つの球は避けたようだが、残りの一つが直撃し吹き飛ばされた。

 その先にあるのは、先程外した『水球ウォーターボール』のせいでぬかるんだ土。そこに勢いよく落下したからか、ホーンズボアの毛皮が泥にまみれた。


「今だ! 土に生えこむ草の葉よ。その根を用いて相手を縛れ!

 ――『蔓緊縛リーフバインド』!」


 俺が唱えた瞬間、泥によって動きが止まっていたホーンズボアを周りにある茎や蔓が縛り上げる。その縛りが強いのか、ホーンズボアは苦痛の声を上げる。


「ブオッ、ブゴォォ…………!」


「ようやく止まったか……。この魔法使えるか解らなくてぶっつけ本番だったんだが、上手くいって良かった」


 この魔法は土魔法の中級に位置する。効果は周りにある植物を活性化させ、自由自在にその蔓や茎を動かして対象を縛り付ける。

 ダリウスさんはこの魔法を使うことは出来なかったが、詠唱だけ教えてくれてたから少し練習していたんだ。成功は今までしたことは無かったが、どうやら俺は本番に強いタイプみたいだ。やったね!


「さて、これで依頼完了だ」


 ホーンズボアの方へ向かう。逃げ出そうと暴れるが、蔓がキツイのか緩むことも出来ない。

 なんて強力な魔法なんだよ。対象の動きを出来るだけ止めることが条件だけど、こんな魔物だったら一発で捕縛出来る。その分魔力は持ってかれるけど。


「じゃ、これで終わりな」


「ブゴッ……! ゴッ……」


 俺の剣が刺さりホーンズボアは絶命する。やはり何度やっても殺すのは慣れない。刺した時に感じる肉を掻き分ける感じがどうしても気持ち悪い。『RWO』では敵を斬るときの感覚はスライムを斬っているような感触だから、現実はゲームとは違うということを改めて理解した。


 取り敢えずホーンズボアの角を刀で叩き折る。小剣や剥ぎ取り用の短剣でも折る事は出来るが、どちらも刀よりは丈夫じゃないため、必然的に刀で折ることになった。

 折った瞬間に角から血が吹き出し、ホーンズボアが一瞬動いたせいで悲鳴を上げたのは内緒だ。

 角をインベントリに入れ、それとは別にホーンズボアの死体を収納する。

 死体はギルドに持っていけば解体して買い取ってくれる。ホーンズボアは肉が旨いらしく、きっと高く買い取ってもらえるだろう。


「それじゃあ、帰るかな。今から探すのも面倒くさいし、そう簡単に見つからないだろ――」


 後ろから葉音が聴こえる。また背筋に悪寒が! なんかこれデシャブ。

 また横に回避すると、見覚えのある動物が一体。


「さっきのはフラグだったかな……」


 チャッチャチャ~ン! ホーンズボアが現れた。


 倒した分だけ報酬は貰えるしさっきとの戦闘でコツを掴んだとはいえ、面倒だ。

 さっきの『水球ウォーターボール』で土がぬかるんでるのにこんなところでまた回避したら洗濯をしないといけなくなる。俺、主婦属性があったんだな。


「ステイステイ……。一旦落ち着けよ。そうだそのまま――うおっ!」


 俺の愛犬ポチ(架空)を宥めるようにしながら後ろに下がりだすと、突進をしてきた。照れ屋さんめ。

 それを回避した瞬間、「ベチャッ」という不快な効果音。何が起きたのか解らずに身体を起こして見渡すと、外套には茶色い何かが。


「うわっ、クッサッ! 最悪だぞこれ! 泥が掛かって洗濯回避不可じゃねぇか。てか、クサッ!」


 泥には土の他にも魔物の糞とかが入っているからだろう。臭いが強烈だ。


「ブゴォ! ブゴォォオ!」


「くそぉ……。挑発してんのか豚が!」


 怒鳴り付けるが動じない。まあ、魔物に言葉を理解しろっていうのは無茶だ。


「ブゴォォオ!」


「もう見切ってるってのっ!」


 さっきのように大幅に避けるのではなく、軽い横跳びで回避する。

 ホーンズボアは俺という目標を失い、俺の後ろを通過した。

 俺はというと着地と共に地面を蹴り、そのままホーンズボアに向かって走っていく。刀は弩弓のように引き絞って脳天を狙う。


「くらえっ! 『六花“貫”』!」


 この技は『RWO』の剣技スキルだ。走りながら勢いを付け、剣に体重を乗っけて相手を貫く。一撃の威力としては『RWO』の剣技の中でも上位に位置するだろう。

 『“破芯”五月雨』のような連続斬りの類いは、まだ実戦では使い物にならない。だが、こういう一撃だけの技ならステータスやスキルで補うことが出来るだろう。それでも体重を余り乗せれていないのだけども。

 因みにこの技の由来はゲームで使うと六つの花弁のエフェクトがつくからなんだが、この世界では関係ないな。


 その放たれた突きはホーンズボアの頭を僅かに逸れ、頬を掠めただけだった。


「なっ!?」


「ブロォオオ!」


 斬れた痛みからかホーンズボアは雄叫びを上げ、俺に向かって突きを放つように突進をする。

 技の失敗により体重を全て乗せて直ぐには動けない俺を狙った突きを何とか左腕の籠手で受け止める。


「ぐぁあッ!」


 近いため、そこまで威力が無かったはずの突きは俺の左腕を痺れさせる程の衝撃を与える。その反動で俺はぬかるんだ土に転がった。


「痛ってぇ、畜生……! ……剣先がぶれたのか? ゲームみたいにシステムアシストがないからな。やっぱりゲームの技は練習してから使った方が良いかもな」


 さらに汚れた外套をみて顔をしかめる。元々毛皮だったのだから臭いが落ちにくいかもしれない。

 左腕の籠手は地味に凹んでいて、早速役に立ったことをヴィリムのオッサンに知らせておこうか。


「ブルゥッ! ブロゥッ!」


 肝心のホーンズボアは俺に掛かってこいやと言わんばかりの威嚇で俺を睨み付ける。

 さっきの突きで怒らしてしまったようだ。敵意が滲み出ている。


「もういいや……。外套は後で水魔法で洗うとして、先ずはお前はをぶっ潰すとしますかね!」


 今回は最初から『蔓緊縛リーフバインド』を発動させ、動きを止める。さっきの一体みたいに泥に脚を捕られてないから縛れなかったがこれでいい。

 避けようとしたお陰でホーンズボアはよろめいた。そりゃそうだ。足場が悪い場所で細かく動こうとしたら自然とバランスを崩してしまう。常識だろ?


 そんなチャンスを俺が見逃す訳もなく、刀を抜いた。







 そこからは復讐という名の蹂躙が始まり、男の笑い声が響いたという。――まあ、俺なんだが。



 さらにその後、もう一体が現れ、その肉をハーベやトガラシで食べた。もう少し手間をかけたかったが、ハーベやトガラシのお陰で臭みがなく、美味かった。

 今度、ダリウスさんにご馳走することにしよう。

次話の更新は明日の18時となります。

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