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【空中迷宮】の魔法剣士  作者: 千羽 銀
第一章 【異世界転移】
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第九話 『憂いの日』

あまり納得のいくような書き方では有りませんが、これ以上にちゃんと書けないので投稿させて貰います。

それではどうぞ!

 俺はヴィリムのオッサンの紹介にあった宿屋に向かう前にとある商店を訪れていた。そこはいわゆる雑貨屋。

 必要なものは何も武器や防具だけじゃない。ダリウスさんに教えて貰ったポーションは冒険者には必須アイテムだし、何より大事なのは下着や服だ。

 流石に学生服のままでいるのは駄目だろう。グレーフウルフとの戦闘で服はボロボロになっているせいか何とも見すぼらしい。

 兎に角、要るものはそれだけだろう。


「まさか再会するのがこんなにも早くなるとは思わなかったよ……」


「まあ、良いじゃないですか。遅かれ早かれいずれはそうなっていたんですから」


 肩を落として苦笑しているのはダリウスさんだ。何でも帰ってきてから早々に奥さんに叱られたそうだ。確かに自分の夫が命を落とすような事態にあったのなら心配するのは当然だろう。それは一つの愛とも言える。


「そういえば妻が君にお礼を言いたいといっていたから今度会ってあげてよ。今は出掛けているから無理だけどね」


「そうなんですか。必ず挨拶しておきますね」


 ダリウスさんの営んでいる【エルノ商店】は中々有名な店だそうだ。品揃えも良く、店主が信用出来ることから雑貨屋としてはこの街でも一,二を争うとのことだ。因みにこれは通行人情報ね。


「それで、欲しいのは何だい?」


「まずは普段着として使う服が欲しいです。上下二着と後は下着を二枚ですかね」


「分かったよ。予算はどのくらいだい?」


「さっきヴィリムさんの店で冒険者装備を一式買ったので大銀貨一枚程で抑えておきたいです。後はもう一枚でポーションを買っておきたいんですが、残ったお金を服に回してもらっても構いません」


 大銀貨一枚といったら一万ゴルだ。日本なら安いものなら大体の服は買えるだろうが、この世界での布の価値が分からないし、ポーションの代金も知らないから大銀貨二枚で足りるか分からない。


「服なら大丈夫。上下二着で銀貨八枚。下着は二枚で銀貨二枚だよ。大きさは自分で合わせてね」


 服は半袖半ズボンと長袖長ズボンの一着ずつ選んだ。早速学生服を脱いで長袖長ズボンの方に着替えた。

 素材としては綿に近いだろう。麻とかは慣れないから良かった。ズボンは紐で留めるタイプで、腰の横で結んで留めた。この世界ではゴムという概念が無いからかもしれない。


「ありがとうございます。気に入りました」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。ポーションはどのくらい欲しいんだい?」


「まずはポーションの物価が知りたいんですが、どのくらい何ですか?」


 流石に大銀貨一枚を越えると今日の宿代が無くなってしまう。もう野宿は懲り懲りだ。


「そうだね、普通のポーションなら大銀貨六枚かな。上級ポーションだと金貨五枚はいるよ。最上級ポーションは流石に出回ってないかな。後は解毒薬も必須だけど、買わないの?」


 うわっ。ポーションってそんなにかかるのか……。ゲームだったらお手軽価格なんだけど、やっぱり違うということか。


「というかポーションじゃ毒は治せないんですか?」


「治せないよ。ポーションは傷を治すことに特化している魔法薬だから、解毒なんて余計なものがあると効果が薄れてしまうんだ」


 確かに昔流行った大人気狩猟ゲームでは回復薬と解毒薬は別々だったし、『RWO』でも解毒薬という概念はあったしな。出来ればどちらの効果が付いていて欲しかったな。


「解毒薬は銀貨一枚だよ。後は魔力を回復することが出来るマナポーションが金貨八枚かな」


「高っ!」


「仕方ないよ。マナポーションの素材は【空中迷宮】にあるから入手困難なんだ」


 魔力が自動回復するのを待つこの世界で、無条件に魔力を回復出来る手段は希少だ。

 だけど高いから買えないな。ブルジョアしか無理だって。俺の全財産は大銀貨一枚使ったらもう一万ゴルも無いんだから!


「成程……、理解しました。ポーションが無理なら、その解毒薬を二つください。後は解体用の短剣と清潔な布、止血剤をください」


 冒険者としては必須のアイテムを買った後、少し雑談をしていた。雑談が長かったのか、外はもう日が暮れていた。名残惜しいが帰るとしよう。


「またお願いします、ダリウスさん。今日はありがとうございました」


「うん。それじゃあ、また。明日から頑張ってね」







 俺はその足でヴィリムのオッサンに紹介された宿屋に訪れていた。

 名前は『宿り木の満腹亭』。何とも興味をそそられる名前である。

 宿屋に入ると受付はいなかったが、やけに騒がしい部屋からエプロンのような服を着た恰幅の良い三十代程に見える女性がやって来た。


「いらっしゃい! アンタ、腰に剣を差しているってことは冒険者かい? まあ、そんなことより宿泊かい? それとも食事かい?」


「はい。今日から冒険者になったカンザキです。因みに宿泊ですよ」


「そうかい、頑張ってくれさね。宿泊は一泊銀貨三枚だよ。これは朝食と夕食込みの値段だから、宿泊だけの場合は銀貨二枚だよ」


 ふむ。料理は得意な方だから自炊してもいいけど、生憎調理道具を買うような金は無いしな、飯アリでいいか。


「食事込みの三泊分でお願いします」


「はいよ。アタシはこの店の女将のドリーだよ、よろしく。カンザキの部屋は302号室だから、はい。この鍵で二階に行っておくれ。部屋は階段の突き当たりを右に進めばあると思うよ」


 銀貨を九枚払い、今度こそ一文無しになった俺はドリーさんに渡された鍵を持って二階に上がろうとするが、ふと風呂について思った。


「分かりました。ありがとうございます。あの、風呂とかってありますか?」


「風呂? あんなのは貴族のお偉いさん達が使う物さ。なんだい? カンザキは貴族の子息なのかい?」


 そう言ったドリーさんから不穏な剣呑な雰囲気を感じる。貴族のことが嫌いなのだろうか。


「い、いえ。俺がいた故郷では風呂が一般だったんですよ。だからこの国でもあるかなと思ったんです」


 嘘は言っていない。嘘は。


「へぇ、そんな所もあるんだねぇ。まあ、カンザキはどう考えても貴族って面じゃ無いしね」


「ハハハ……」


 ほっとけよっ!


「風呂は無いが、後で水の入った桶を布付きで部屋に持っていくからそれで身体を拭きな」


「分かりました。ありがとうございます」


「もうすぐ夕飯だから部屋に行ったら直ぐに食堂に来な。アタシがとびっきり美味いもん食べさせてやるからさ」


「楽しみにしてますよ」



 二階に上がり、言われた通りの道を進むと302号室と書かれた部屋に着いた。

 中はベッドと机と椅子だけというなんとも簡素な部屋だったが、その分清潔にしているのかゴミの一つも落ちていない。この宿は当たりだったようだ。


 荷物など殆ど無いので、武器をインベントリに仕舞って食堂へ向かった。食堂には他の宿泊客であろう商人や冒険者が食事をとっている。

 商人も冒険者も相席をしながら騒がしいぐらいに賑やかに会話をしていた。


「騒がしいかい?」


 声を掛けられ、そちらへ向くとドリーさんが料理を持っていた。


「いえ、確かに騒がしいですが悪くはないです」


 ドリーさんは微笑んで席へ促す。あっ、その料理俺のじゃないんですね……。

 残念に思っていると、座ってから五分も掛からずに料理が運ばれてきた。

 料理は黒パンと香ばしく焼いた肉と野菜の炒めもの。そして野菜スープだ。これは凄くお得なんじゃないか?


 黒パンは固くて顔を顰めながら、ちぎったりスープに浸けて食べたが、肉と野菜の炒めものはとても美味しかった。玉ねぎのような野菜がとても合う。スープも深い味わいで、気付けば夢中で飲んでいた。


「どうだい? 美味いだろう?」


「はい! 凄く美味しいです!」


 その言葉を聞いて満足したのか、ドリーさんは接客作業に移っていった。


 暫く料理を堪能していると、後ろから肩を叩かれた。振り向くとさっきまで料理を食べていた冒険者の一人のようだ。


「坊主、見ねぇ顔だな。もしかして冒険者の新人か?」


「は、はい。さっきギルドで登録したばかりです」


 厳つい顔をしているため、少し動揺してしまう。何となく恐い。

 頑張れ俺。コミュ症を発揮してどうする! ゲームだと思え! ……無理か。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、男は大声で食堂全体に向かって叫ぶ。


「おい、お前ら! 新しい後輩が出来たぞ! 祝ってやれ!」


「おぉ! マジか! いつでも相談に乗ってやるからな!」


「欲しいものがあったらうちの店に来てくれ! サービスしてやるから!」


「おめでとう!」


 男に同調して食堂にいた人は全員俺の事を祝ってくれる。いい人なんだろうけど、なんだこれ。

 さっきまで一人で飯を食っていた俺の席には冒険者達が集まり、俺のグラスに酒を注いだりしている。俺は未成年なんですけど……。

 気付けば、皆が俺の方を見ている。確かに話題は俺のことだったんだが、やけに静かになっていた。


「ほら、皆アンタの言葉を待ってるよ」


「そ、そうなんですか……?」


 ドリーさんに言われたが、何を言っていいのか分からない。というか俺は目立ちたくはないんだけど。ドリーさんは何でもいいと言ってくれたから、その通りにしよう。


「えぇと……。か、乾杯?」


「「「乾杯!」」」


 全員一斉にグラスを掲げ、そのまま宴会へともつれ込んだ。

 全員酒や料理を注文している。酒や料理の御代わりは追加料金がいるんだが、冒険者というのはあんな金の使い方をするのか? というか、もう俺の話題が無くなっているし。

 俺? 俺は飯を食い終わったから直ぐに部屋に戻りましたが、何か?







「ふぅ…………」


 ベットに転がり込んで息を吐く。風呂の代わりに貰った桶に入っている水を火魔法で暖めたお陰で身体がポカポカする。その火照った身体が夜風に当たって眠気を誘ってきた。

 下の階から騒がしい音がすることから、宴会はまだ続いているみたいだ。桶を返しに行った時は酔い潰れている人は殆どいなかったから、まだまだ続くと見て間違いないだろう。そのうちドリーさんが追い出すとは思うけど。


「明日から冒険者か……。改めて思うと感慨深いものがあるな」


 この世界は子供の頃に感じた憧れそのものだ。なのに、明日を思うと少し怖い。ゲームとは違う。攻撃を食らえば痛いし、重傷を負えば死んでしまう。


「愛羽達は大丈夫かな? まあ、人格者の雨宮がいるし、機転の利く小鳥遊もいる。戦闘になっても愛羽が何とかするだろうな。チャラ男は知らんが」


 俺とは別に飛ばされたであろう友人達を思う。彼女達と過ごしていた日々は、何故か懐かしく感じた。


 そういえば今頃日本ではどうなっているんだろう? 俺や愛羽達が失踪したんだ。きっとニュースになっているだろうし親父達も心配しているだろう。


「親父や母さんは案外大丈夫だろうけど、雪乃が心配だな……」


 この場には居ない妹のこと。俺にベッタリの妹はこの事に耐えれるだろうか。

 いや、耐えられないなら俺が必ず戻れば良いだけだ。

 ――絶対に日本に帰る。


「――――アレ?」


 ふと、気づく。俺の顔を濡らすように垂れるもの。

 ……あぁ、そうか。

 雪乃の事を言っていられない。俺も淋しいのだ。


 思えば独りなんて何時振りだろうか? 家には可愛い妹が居て、学校には馬鹿みたいな友人が居る。

 最近、家族と居るのが辛かった。俺が居ない方が親父達は『家族』として成り立っているんじゃないかって。

 ……判ってる。俺だけがそう思っているんだって。


 でも、仕方ない。俺だって高校入学の前日の夜に、親父達に真実を聞いてしまったら……。



 ――俺が、捨て子だって知ってしまったら……!



 なのに、今は『家族』の元へ戻りたいと本気で思う。

 雪乃の為じゃない。親父達の為じゃない。


 ――只、自分の為だけに。

 

「あぁ、ダメだッ、ちょっと……ッ」


 ……今日はもう寝よう。



 明日になったら、いつもの俺に戻るから。

 だから、今だけは…………――

どうでしたか? 実はソラは捨て子だったのです!


元々この設定はするつもりで、私のこの作品の進み具合によってはこの事がキーになる予定です。

まあ、気分屋なので変わるかもしれないのでご注意を。


次話は明日の18時に更新します。

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