第二話:一階散策
誤字脱字があれば、教えてくれると嬉しいです。
今の状況を確認すると、喫煙所から出て、出入口の前に戻って来たところだ。
まず、俺が居るこの場所が中心だと考えると、喫煙所は南西に位置する場所にある。明かりを手に入れてようやくわかったのだが、扉の目の前に二階に上がる階段がある。つまり、北の方向に階段がある。
喫煙所の隣にも扉があるみたいだし、次はあの扉に入ってみよう。
東側にも扉がいくつか有るみたいだし、後で調べてみてみるのも悪くない。
俺はもう一度、西側の扉の方に戻り、喫煙所の隣の扉を調べる。
ドアノブを回すとガチャリと甲高い音を発しながらゆっくりと扉が開く。
「此処は食堂みたいだな。でも、ホコリが酷い......」
これまた長年使われていなかったらしく、テーブルはホコリ塗れだ。
此処に目ぼしい物はない。移動しよう。
奥の方に見える扉に向かい、ドアノブを回す。
「開いた」
ギギギギと金属が擦れ合う音を響かせながら扉は開いた。
此処は通路のようだな。
目の前に扉が一つあるな、鍵は......
ドアノブをゆっくりと回すと、他の扉と同じようにカギは掛かっておらず、気味の悪い音を鳴らしながらゆっくりと開く。
「......右と左に扉が一つづつ」
右の扉から酒の臭いがする。もしかすると酒が置いてあるのかも知れない。
左手に持っている灰皿を確認する。
マッチの量が大分減っていて、マッチを継ぎ足してもあと数十分もしたら燃え尽きてしまうだろう。
そうだ、アルコール度数の高い酒なら火炎瓶のようなものを作って光源に出来るかも知れない。
酒の臭いがする扉を開け、中を確認する。
「こりゃ、酒臭いわけだ」
地面に割れた酒瓶が床に散乱している。
ここで盛大に酒盛りでもしたのだろうか?
奥の方の棚に大量の酒が並べられているのが見える。
棚の方に向かい、アルコール度数の高い酒を探す。
外国語で書かれているボトルしかないが、数字でアルコール度数がすべて書かれている。
「これが一番度数が高いな」
96とラベルに書かれた酒を手に取り、栓を抜く。
うへぇ~臭いだけでも酔ってしまいそうだ。でも、これなら着火出来そうだ。
カウンターに置かれてある布巾を瓶の中に詰め込み、布に十分な量の酒を染み込ませる。
「よし、着火」
灰皿の中で燃え盛っている火を使い、火炎瓶に着火する。
思っていたより炎は強くないが、ロウソク程度の火がユラユラと揺れている。
これなら、数時間はもってくれるだろう。
カウンターに灰皿を置き、アルコール度数の低い酒で火を消す。火事が起こったらいけないしな。
「光源は確保した。隣の扉を調べるか」
火炎瓶の火を頼りに部屋から出る。
でも、あの棚に並べられていた酒、全部高級そうだった。引っ越す時に何故持って行かなかったのだろうか?
もし、この館が無人だとすると、昔は人が住んでいて、引っ越して無人になった。こういう考え方が一般的だろう。でも、これだけ豪勢な館だ、引っ越す際に高級な物は持って行くだろう。
だとすると、この館は別荘という考えも出来る。夏の長期休暇の時とかに遊びに来るみたいな。
いや、でも、ホコリが酷過ぎる。今は九月の一日だ、夏に遊んだ別荘だとしても汚すぎる。それに、これだけ豪勢な家を建てる人間だ、定期的に家政婦を雇って掃除してもらうだろう。それに、バーの散らかり具合、アレも妙だ。まるで、何かと争ったように、ある一定の場所にはガラス片が落ちていなかった。それも、成人男性の大きさくらいのスペースが......
「考えれば考えるほど意味が分からなくなる」
バーの隣の扉の前に立ち、鍵が掛かっているかどうかを確認する。
やはり、他の扉と同じように鍵は掛かっていない。出入口といい、他の扉といい、やはり空き家なのだろうか? もし、別荘なら鍵を掛けているだろうし......
そう思いながらも扉をゆっくりと開け、中に何があるかを確認する。
「倉庫のようだ。絵画、模擬刀、金庫、これまた金になりそうなものばかりだ」
皮肉口調で言葉を吐き捨て、使えそうなものを探す。
骨董品ばかりで使えそうなものは一切無い。他の場所に移動するか......
「ん? もう一つ扉があるな」
倉庫の奥の方に扉がもう一つ見える。確認してみるか。
無造作に置かれた骨董品を傷つけないように歩き、扉の前に辿り着く。
ドアノブを回すとやはり鍵は掛かっておらず、すんなりと開いた。
「この中は......ん!?」
部屋に入った瞬間に花火の火薬のような臭いが漂う。
これは......銃?
壁に飾られているリボルバー式の拳銃。シングルアクションアーミーだ!?
今から百数十年前には存在していたリボルバー式の拳銃。.45ロングコルト弾を用いて、主に早打ちの競技なんかで使われている名銃だ。
回りを見渡すと色々な銃が壁に飾られてある! 自動拳銃、リボルバー、リベレーターまで置いてやがる。でも、ライフルみたいな長物は何一つ置いていないようだな?
壁に飾られてある銃を眺めているとシングルアクションアーミーの飾られている壁の真下の木箱の上に一丁のリボルバー式の拳銃が置かれてある事に気が付く。
「S&W・M629クラシック。ご丁寧にホルスターと弾薬、ナイフまで置いてある」
S&W・M629クラシックは1955年に発売されたS&W・M29を近代化させたバージョンで、素材を鋼鉄からステンレス鋼に変え、耐久性を大幅に上げている。この銃の最大の魅力は、コルト・ガバメントなどで使用されている.45ACP三発分相当の破壊力を有する.44マグナム弾を発射できる事だ。
モデルガンは持っているが、まさか本物に出会えるなんて......
火炎瓶を木箱の上に置き、ホルスターを装着する。
ショルダーホルスターと言うホルスターで、脇に銃を入れる。
ホルスターを装着し、M629をホルスターの中に入れる。
「六インチバージョンだから重量が結構あるな......」
左脇にずっしりと重い。だが、これがとても心地が良い。
ナイフは足に付けるタイプらしく、鞘にベルトが二つ付いている。勿論、直ぐに左足に装着する。
ナイフは左手で使うタイプの人間なんだ。いわえるCQCをしやすくするために。
「気分は特殊部隊の兵士みたいだな~」
ホルスターからM629を抜き、壁に向かって照準を合わせる。
まるで、長年使い続けたように手によく馴染むグリップとサイト。
「夜が明けるまで借りておくか!」
自分が犯罪を犯している事はわかっているが、バレなければ問題ない。夜が明けるまで借りておこう。
興奮しているのが身をもって感じられる。実銃を持つ機会なんて、日本じゃ死んでも無いだろう。少し大胆なお遊びだ、借りさせてもらう!
M629に.44マグナム弾を一発一発装填し、全弾装填する。
「リロードに息吹きを感じる! マガジンチェンジじゃ、到底味わえない!!」
ホルスターの中にM629を戻し、予備の弾をポケットの中に数発入れる。
別にシリンダーに入っている六発で十分だのだが、弾は火薬とプライマーを抜いたら罪にはならない! 六発くらい失敬しても大丈夫だ!!
ウキウキしながら、倉庫を出ようとすると、廊下の方からギシギシと床が軋む音が聞こえる......
人が居るのか? いやいや、もし百歩譲ったとしても、この館はホコリ塗れ、歩いててわかったが足跡が濃く残る。注意深く床も見ていたからわかるが、俺が付けた以外の足跡は一切なかった。
なら、俺と同じように迷って......いや、それなら野犬の遠吠えが聞こえる筈。
「......もう少し弾をパクッて行くか」
弾薬箱の中からもう六発の.44マグナム弾を取り出し、ポケットの中に収納する。
物騒な奴じゃなければいいが、用心に越した事は無い。
足音を立てないようにゆっくりと進んできた道を戻る。
誰かが居ると言うだけで緊張感が数倍くらい増す。あの音はどう考えても人間、それか大型の動物のもの。だが、館の扉は締めたはず。四足歩行の動物が侵入する事は難しいだろう。なら、人間......
「まあ、一般人が扱える実質、世界最強の拳銃弾が弾けるM629と.44マグナム弾があるんだ。大丈夫だろう」
倉庫をでて、音がした方の通路に戻って来たが、俺の足跡以外の足跡は一切無い。
幻聴だったのだろうか? でも、あの音は確かに床が軋む音だった......
右手をM629のグリップに添え、警戒しながらまだ行っていない北の方向に向かう。
「階段と台に飾られている高級そうな壺があるな」
前方に階段、右側に台と壺。
多分、この階段は上に住んでいる人間が食堂に向かう為のものなのだろう。
二階に上がってもいいが、まだ、一階を回りつくしたわけじゃない。それに、軋む音は一階で聞こえたんだ、音の正体はまだ一階の何処かに居る事も考えられる。
そう断定して、そのまま出入口の方に戻る。
だけど、あの音は確かに聞こえた。今でも耳の奥に残っているんだ。でも、足跡は一切無い。まるで、重量を持った実態の無い何かが通り過ぎたような? でも、そんなものが存在して堪るか。この世界は物理学でどうにかなる世界で、重量を持った存在しないものなんてありえない。
でも、何で足跡がないんだ......ある程度の重さを持った生き物なら何らかの痕跡が絶対に残る筈。それなのに痕跡が残っていない。考えれば考えるほど頭が痛くなる。
「もう着いたのか、まあ、そんなに遠い距離じゃないしな」
何時の間にか出入口に戻って来た。
次は東側の奥の方にある扉、あそこを調べてみよう。
扉の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。これまたやはり鍵は掛かっておらず、すんなりと扉は開いた。
もしこれがホラーゲームだとしたら、絶対に二流だ。ホラーゲームは鍵を見つけるのが楽しいんだ。
そう思いながらも、扉をあけ、中に入る。
「大量の絵が飾られてあるな? それも、これまた高そうなものばかり......」
火炎瓶をかざしながら、絵を一枚一枚調べるが、目ぼしい物はない。
でも、殆どの絵が人物画だから、暗がりで調べていると不気味だ。
すべての絵を調べつくしたが、変わったものは一切無かった。
ここら辺には何もないようだな、下の方に部屋が有るみたいだし、そこを調べ終わったら二階に上がるか。
今いる場所から後ろの方向にある部屋に向かう。
「ここも鍵は開いているな」
部屋の中に入ると大量のドレスとタキシードなどが並べられている。
目ぼしい物はないな、戻るか。
一階の部屋は調べつくしたな、二階に移動してみるか。
だけど、あの軋む音は何だったんだ? 幻聴だとは思えない。
「二階にヒントがあればいいが......」
S&W・M629は作中で説明した通り、一般人が普通に扱える拳銃弾の中では一番最強の破壊力を持ち合わせた弾です。
正直、M500やデザートイーグルの弾は使いにくそうだし、デザートイーグルみたいな品の無い銃は主人公には使わせたくなかった。
それに、異世界で使うなら、リボルバー一択です。メンテナンスが楽だし、命中精度が自動拳銃より高い。