ウサギは寂しいと××?
よく「ウサギは寂しいと死ぬ」と言うが、それは本当なのだろうか?
「ねーねーカナタ、これなぁに?」
「……」
「ねえってばー」
少なくとも僕の身近にいるウサギは、とてもそうは見えない。
ぴくぴくと大きな耳を動かしながら纏わりついてくるそいつは、さっきから無視し続けているのにめげることなく僕の周りをうろついている。
「――ええいっ、うるさいなお前はっ!」
「ひぅっ?!」
僕の大声に驚いたのか、そいつはびくりと大きく身体を震わせて、大きな瞳で恐る恐るこちらを見上げてくる。それがとびきり可愛いものだから、実はわざとやってんじゃないだろうかと思ってしまう位だ。僕が悪い訳でもないのに妙な罪悪感すら感じてしまうのだから、性質が悪い。
見ると、紅い瞳から大粒の涙が今にも溢れんとしている。
「……っ」
思わず手を伸ばしかけて、何とか思い止まる。こいつは小悪魔的なところがあるから、ここで甘やかしたら相手の思うツボだ。湧き上がる衝動をぐっと抑え込んで、はぁ、と小さく溜息を吐く。
愛玩ペットとして「人型ウサギ」が開発されて、早十年。初めはその見目から敬遠されてはいたものの、実際飼ってみるとその愛くるしさから人気が爆発。躾によっては人間の子供程度には言葉も通じるようになる為、老若男女問わず人気のペットとなった。
うちにいるこのウサギ――ミナトも、その愛玩ウサギの一種である。
「カナター?」
くり、と不思議そうに小首を傾げるそのウサギは、見た目は五、六歳の少年のように見える。が、一つ普通の少年と違う所といえば、頭についている大きな耳だろう。
ふわふわで手触りが良いそれは、髪より柔らかい毛質で出来ている。思わずそれにそっと触れると、ミナトは気持ちよさそうに目を細めた。
「んー……なでなで、気持ちいいー」
犬だったら尻尾を振り、猫だったらゴロゴロと喉を鳴らしている頃合いか。けれども残念ながらコイツはウサギだから、そう言った分かりやすい兆候はない。
まあ最も、普通のペットとは違って普通に喋るから、それに対しては特に困らないのだが。
(……ってあれっ? これって結局、甘やかしてる……?)
なでなでと頭を撫でながら、ふと気付く。が、まあもういいか、と、一人苦笑した。