9.呼んでない方のご訪問《後編》
気付いたら目の前にいた茜さんが踏まれていた。
「茜さんンンン!?」
「――オイこらチビ。何 黒斗様の大事な式をぶっ潰してくれてやがる。今すぐ地獄に堕としてやろうか?」
踏んでいる方を見ると鬼のような形相をした龍炎様がいらっしゃった。ちょ、ちょ、殺気駄々漏れ! 怖いんですけど!
見ると他の魔族に掴みかかっているのは桜梨様とフェック様とヒュウリ様。え、ちょ、何やってるんですか。
「ちょっと! 大事な式の日になんてことしてくれるのよ!」
「潰してくれてアリガトよ。けどストレス発散に殴らせろ」
「結婚式潰すのはいいけどねぇ、テルアを攫うってどういうことよ!?」
何か怒ってることがバラバラなんですけど。ていうかフェック様は無茶苦茶なんですけど!!
一体 何しにきたんだ、この人たち! 助けに来たの!? 文句言いにきたの!? 問答無用で殴りこみにきたの!? 一体どれだ!?
ていうか黒斗様はニコニコしてないで止めてくださいよ!!
「やぁ、茜。久しぶり」
「久しぶりだな、黒斗。つーかいい加減 足退けやがれ龍炎!!」
ブォン、と鈍い音がしたかと思うと茜さんの手には馬鹿でかい黒い剣。おそらく龍炎様に斬りかかったのだろうが、避けられたんだろう。
うわぁ、あの武器は初めて見た! ……じゃなくて!
「な、何やってるんですか!」
「制裁だ。コイツにはそれ相当な罰を受けさせなければならない」
「だからっていきなり踏むか!? 久々の感動の再会もくそもねぇぞ!?」
「何で俺が貴様なんぞと感動の再会しなければならない。できればお前のアホ面など二度と見たくなかった」
「オイ、殺してやろうかマジで。流石の俺もさっきので堪忍袋の緒がきれたからな」
何で戦闘モードになってるの!? ていうかさっきの話し合いの意味は何だったんだ!? 争いあってどうする!
茜さんは剣をギュッと握り、龍炎様は手から魔法で炎を出す始末。
慌てて茜さんと龍炎様の間に入ろうとすると、先に黒斗様が入った。
「龍炎も茜も落ち着いて」
「しかし黒斗様……」
「落ち着く。とりあえず茜、今回の件について、説明してもらおうか」
おぉ、何かまともな黒斗様を見た気がする。初めて真面目な黒斗様を見た気がする。
すると渋々といった感じで龍炎様は炎を消し、茜さんは舌打ちしながら剣をしまった。魔王権力 半端ない……! …………いつもこんな感じだったらいいのに。楽だし。
とりあえず何故か暴走している桜梨様たちを止めて、話を聞く体勢を作る。本当に勇者パーティーなのか、この人たち。まだ魔族たちの方が大人しいんですけど!
すると私に話したことと全く同じことを茜さんは黒斗様達に話した。何か色々はさんできて煩かった。
話が終わって、1番に口を開いたのは龍炎様。
「貴様はそれだけのために黒斗様の大事な式を潰したという訳か。殺すぞ」
「ざけんなよ! お前も黒斗も知らん顔で放っておくからこうなってんだろうが! 俺1人で仕切ってんだぞ!?」
「1人……?」
茜さんの言葉に龍炎様が怪訝な顔をする。黒斗様を見ると同じような顔をなされていた。
そして首を傾げながら黒斗様は茜さんに問う。
「他は? あと2人……」
「アイツらもやりたい放題で逃げやがったんだよ! んで俺1人だけ纏めなくちゃならねぇんだ! お前らほんと人任せだなオイ!」
うわぁ、やっぱりこの人いい人だ。……間違えた、いい魔族だ。
にしてもこれは茜さんに同情する。すっごい可哀想だ。そして何か仲良くできそうだ。やった。
「とりあえず式を取りやめにしろ。じゃねぇと俺はもうどうにもできねーぞ。
あと黒斗、1つ言っておく。お前マジで仕切んねぇと下克上が後々おこる。魔族全員でな。もしお前がその魔族全員に勝ったとしても、負けたとしても、人間か魔族、どっちかが滅びるだろうな」
「…………。」
「こういう結果を招いたのは監督不届き、黒斗、テメェの責任だ。最終的にはテメェが動かなきゃどうにもなんねぇんだよ」
すると茜さんの首元に刀が添えられた。勿論 刀を持っているのは龍炎様だ。
「……それ以上、黒斗様を愚弄することは許さん」
「愚弄? ふざけんなよ、これは忠告だ。平和ボケしてる魔王様にな」
龍炎様は殺気立っている。これは本当にまずいかもしれない。けど、私にはどうすることもできない。
唯一止められるであろう黒斗様は難しい顔をしている。茜さんの言っていることがほとんど的中しているからだろう。
「お、落ち着いてくださいお2人とも。ここで争いあっても仕方ないことでしょう」
困る。ここで戦われると非常に困る。急いで止めた。
龍炎様はイライラしているようで凄い顔つきで刀をひく。それとは逆に茜さんは落ち着いているようだった。
とりあえず此処は黒斗様に何とかしてもらうしか……なんて思ってたらあの方が口を開いた。
「とりあえず今日の結婚式は引き伸ばしにしたから大丈夫よ?」
……だからその後の話をしてるんですよ、桜梨様。
「それに魔族の反対とかそんなの大丈夫」
え、何が? 何が大丈夫?
「今から私のことを知ってもらえばいいんじゃない♪」
駄目だ、この人かなり、ていうか筋金入りの馬鹿だ。
「何いってんだ、勇者! テメェがよく思われてない理由が何だか知ってんのか!?」
「あら、それは異世界の人間だからでしょう? これから思いを正してくれればいいわ」
「違ぇわ! つーか無理だっつってんだよ! お前らが旅してる途中で何人の魔族 倒してきたと思ってやがる! 同族 殺されて黙ってねぇんだよ! だから反対されてんだろうが! 敵と結婚してどうするって!」
「大丈夫、大丈夫。私のことを知っていけばその反対もなくなるはずよ」
「その反対がなくなんねぇから困ってんだろ!? ていうか何でコイツこんな自信満々!?」
「それは私だからよ」
「だれか助けてくれ! 会話が成立してねぇ気がすんだけど!!」
……何か、凄く茜さんが可哀想だ。本当に可哀想だ。だってさっき茜さんを睨んでた龍炎様でさえ哀れんだ目で見てるもの。
ていうか桜梨様は我が道を行き過ぎてる気がする。自分を贔屓しすぎだ。
「……そうだね」
あれ、何か嫌な予感がしてきた。
「桜梨の言うとおりだ。今から桜梨の認識を改めてもらえばいいじゃないか」
予 感 的 中 し た ー !!
馬鹿だ、この人も馬鹿だ! やっぱりバカップルだこの人たち!
他の方々の反応を見ると茜さんは頬をひきつらせ、龍炎様は目を逸らしている。フェック様は黒斗様を変なものを見るような目で見て、ヒュウリ様も桜梨様をフェック様と同じように見ている。
「桜梨、名案だ! そうと決まれば今度から2人で頑張らなければ!」
「そうよ! とりあえず週1のペースで話していけばいいんじゃないかしら?」
「バカか、お前ら!! んなんで収まったら苦労しねぇわ!!」
ようやく茜さんがつっこんだ。凄い、私は呆然として何もいえなかったのに。
茜さんも予期せぬ事態と提案に凄い焦っている。まぁ確かにこんなんで収まるのなら茜さんの苦労はなんだったんだ、って話だ。
「てーかもっと怒りが高まるわ! 勇者、テメェは変なことすんじゃねぇ!!」
「あら、やってみなくちゃ分からないわよ。安心して、自信はあるわ」
「何の自信!?」
……無理だ、これは本当に実行する気満々だ。何言ってもだめだ。
そして何故かバカップルワールドに入ってしまった桜梨様と黒斗様。正直に言おう、面倒くさい。何でこんなに面倒くさいんだ、この人たち。
とにかく呆然としている茜さんの肩をポン、と叩いた。
「諦めましょう」
そのときの茜さんの顔を、きっと私は一生 忘れない。
そしてその騒動から一週間後――
「……死ぬ」
「……お疲れ様です」
まだまだ怒りが収まらない魔族たちを必死になって止める茜さんが時々 家に来るようになった。
何ていうか、常識人がいてくれて私としてはとても嬉しかったりする。
(それから本当に活動しているバカップルさん)
(後始末に追われている茜さんは今日もげっそりしてます)
1人追加! 茜サンはテルーアと同じ苦労人です。
それと更新ペースが更にゆっくりになることと思います。この話は続きものだったので…。どうかご承知ください。
それと「隠し部屋」の方へ世界観設定を追加しました。
茜サンが何ちゃらの1人とかいってましたが、気になる方は見に行ってみてください。別に見なくても支障はありません。