8.呼んでない方のご訪問《中編》
「けどなァ、案外アイツら人間の中に混じりこんでたりするからな……」
「それは初耳なんですけど。え、それって私たち大丈夫なんですか?」
あれ、何やってるんだろう。
ちょっと振り返ろう。どうしてこうなったんだろうか。
ヒュウリ様とフェック様が何かしらの魔術式を仕込んでるかもしれないから、って理由で会場に行った。そして中で準備してる人がもう魔術式にかかっちゃったかな、って思って扉を開けたらだれもいなくて。で、一歩 踏み出したら何故か知らない場所にいて。
そして混乱している私に1番にかけられた言葉が
「俺は茜! 上級魔族、四黒滅将の1人だ!」
と、何か子供っぽい人に言われた。……え、魔族?
それで魔族って聞いた瞬間に私がとった行動が、
「えい」
「うわっちゃぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!??」
槍を投げることだった。しかし避けられた。ていうか何だ、さっきの奇声。
「何しやがんだ!? あと少しで死んでたよ、俺死んでたからね!?」
「結局のところ死んでないからいいじゃないですか。で、魔族が何の用ですか。30文字以内で答えなきゃ本気で槍で串刺しにしますよ」
「わかった! 言うから!だからその槍をしまえ!」
とりあえず訳を聞かなければ始まらないので槍を仕舞う。しかし油断大敵というのでその上級魔族さんに見えないよう、針を持つことにした。
すると渋々と言ったようにその魔族は答えた。
「俺は勇者と黒斗の結婚式を取りやめにしたいんだよ」
「うわぁ、冗談だったのに本当に30文字ぴったりで答えてくださいありがとうございます。では今度は50文字以内でその理由を、」
「できるか!! どんだけ要求してんだよ!? せめて答えろだけなら分かるけど何で文字数指定してくんだよ!?」
「……仕方ありません。では文字数指定はなしにしましょう」
「何でお前はそんな偉そうなんだよ!?」
何となくです。いや、だって私以外にこうやってまともにツッコんでいる人っていないから……。
っと、いけない。違う、違う。何やってるんだろう、私。
とりあえず辺りを見渡してみる。どこかの建物みたいだけど古い建物みたいでところどころにヒビが入っている。
この場にいるのは私とさっきからツッコミまくっている人たちだけでなく、魔族っぽい人が何人かいる。それと人間が4、5人……おそらく会場にいた人たちだ。きっと私と同じような経緯で此処に来てしまったんだろう。
「とりあえず説明するとだな……」
「あ、短めにお願いします」
「だから何でお前は一々 要求してくるわけ!?
……コホン。で、まず俺は黒斗がいなくなった今、魔族の管理及び規制をしているんだ。また勝手に暴れだして暴徒を起こさないように」
あれ、この人いい人かも。頑張ってくれてるいい人かも。
「血の気の多い奴らはいつもどーり問題をおこしてくれてやがるんだが、別にそれはどうでもいいんだ。シバけばなんとでもなるからな。
何でか知らねぇが、誰かが勇者と黒斗が結婚するって話を言いやがって大変なことになってんだ」
「大変なこと?」
「もともと魔族の中で勇者を良く思ってる奴なんざいないに等しいんだよ。なのに我らが筆頭、黒斗が勇者と結婚するなんざ言ったら批判がすげぇことになるに決まってんだろ」
「まぁ、そりゃあそうですよね……」
人間の方々はそんなことはなかったけどね。黒斗様の人柄があるからだろうか。
しかし魔族はやりたい放題できなくした勇者――桜梨様を相当恨んでいるはずだろう。その勇者と自分達の主が結婚するなんて認めるはずがない。
「だから取りやめにしてェんだ。これ以上 抑えんのはこっちとしてもきついんだよ。もしも結婚式なんぞしたら魔族どもがまた暴れだす」
「つまり私たちを人質としたのは結婚式を取りやめにするのが目的という訳ですか?」
「いや、お前は予想外だったけどな。もうワープ魔術式を解除しようってところで丁度きて、こっちとしては驚いたけどね」
「煩いですね、ドジって言いたいんですか。馬鹿って言いたいんですか。殺しますよ」
「何で!?」
やっぱりこの人まともかもしれない。いい人かもしれない。
それにしても結婚式を取りやめかぁ……。そんなこと出来るんだろうか。けどそのせいで魔族に暴れられて他の方々に怪我をさせるわけにもいかないし…。
仮に魔族が襲ってきても勝つのは私たち人間だろう。勇者様と魔王様いるし。いや、この場合 黒斗様はどっちにつくんだろう? ……それはおいといて、そうだとしても死者はでてくるに決まっている。魔族だって少なくない。
「一応 手紙は魔術式解除直前に置いてきたぜ? しっかしそう簡単に取りやめにしてもらえるとも思わねぇし……。
ていうかそもそもこういうの纏めんのって黒斗の役目じゃねぇの? 何で俺任せになってんだ?」
やっぱりこの人いい人だ。……違う、よく考えたらいい魔族だ。
「名前……茜、でしたっけ?」
「おう。お前は確かテルーア・アヴィリスだろ? 勇者メンバーにいるから知ってる」
知られていないものだとばかり……。いや、だって私そんな目立たなかったはずだし。
にしても魔族でも黒斗様や龍炎様みたいにきちんと話ができる者がいるらしい。……いや、黒斗様は論外にしておこう。
「じゃあ茜様、」
「やめて。マジやめて。様付けやめて。なんかアレだから。何か拒否反応おこしそうだからァァァァアア!!」
「…………では妥協して茜……さん、でいいですか?」
「……できれば呼び捨てが良かったけどな。堅苦しいの苦手なんだよ」
「部下とかいないんですか? いたとしたらその方たちに何とお呼ばれされて?」
「兄貴」
「……無理ですね、茜さんでお願いします。私はテルかテルアでお願いします」
さすがに遠慮させていただいた。私には無理だ。
とりあえず話し合いで解決するのが1番だと思う。しかし暫くは桜梨様たちも来ないと思うので、私が目の前にいるこの中で1番偉いであろう茜さんと話しあう事にしよう。
「じゃあ茜さん、とりあえず今 貴方と私で話し合いを致しませんか?」
「話し合い?」
「はい。だって桜梨様と黒斗様の結婚式を取りやめにしたって、あの2人が別れるわけではないんですよ? でも茜さんは別れさせたいわけではないのでしょう?」
「あァ。とりあえず今の状況をどうにしかしてェ。じゃねぇとこっちが大変なんだよ。アイツら、今んトコは結婚ってェのを反対して暴れだそうとしてんだから、それを阻止すれば収まると思ってんだ」
「でもその後も恐らく困ることになるでしょう。本当は当事者がいてくれた方が助かるのですが、いないのなら仕方ありません。
少し私と話し合い……案の出し合いをしませんか?」
すると茜さんは腕を組んで目を伏せ、唸り始めた。そして少ししてから目を開けこちらを向き、ニッと笑った。
「よし、分かった。やるか」
そうして冒頭に戻る。
という訳で今は茜さんと会議中である。因みに人質だった人も怯えた風はなく、何故か他の魔族たちと会話している。やはり悪い魔族ばかりではないらしい。
「にしても中々 来やがらねェな」
「そうですね……。場所はきちんと書いたのでしょう?」
「そんなヘマ誰がするか。ていうか見捨てるとかいう選択はしてねぇよな……?」
何故か茜さんが不安そうに呟く。いや、何で貴方が不安そうなんですか。普通、不安そうにするのは人質になってる私たちでしょう。
でも何だか可哀想になってきたので話しかける。
「あの、茜さん、」
その瞬間 凄い爆音がして、私の言葉はかき消された。
(遅かったのは喧嘩してたからだったりして)
(そうだとしたら本当に酷いと思う)
何か長くなってしまって前編後編にならなかった……!
因みに茜サンが何か自分のことを何ちゃらの1人とか言ってましたがまた後日、説明しまーす。