7.呼んでない方のご訪問《前編》
「うわぁ……。凄い、凄い似合ってます、桜梨様」
「ふふ、ありがと! テルにそう言ってもらえて嬉しいわ」
くるりと桜梨様が回ると、ふわりと白の生地が舞う。
今日、まちに待ったのか待っていなかったのかよく分からない桜梨様と黒斗様の結婚式。
私は桜梨様に呼ばれ、悪いと思いつつも黒斗様より先に桜梨様のウェディングドレス姿を見せていただいた。まぁ、どうせ黒斗様を先に見るのは桜梨様じゃなくて龍炎様なのだろうけれど。
桜梨様はとても綺麗な純白のウェディングドレスを着られている。頭にはふんわりしたヴェールがかかり、銀色のティアラが乗せられている。
やはり美人は何を着てもキラキラ輝いている。これはヤバイ。会場に来ている何人の男性が失神することか。これはもしかするとフェック様が鼻血を出すところでも見れるんじゃなだろうか。……それは格好悪い。
「私の世界ではブーケ・トスというものがあるんだけど、こっちにはないのね」
「ブーケ・トス?」
「えぇ。花嫁がブーケ……花を投げるの。それを取った次の女の人が今度は花嫁になると言われているのよ」
「へぇ……。凄いですね。そんなことをやるのですか」
それは見てみたい。見たことがないものは誰でも見たいと思いませんか?
「まぁ式には入れておいたからやるけどね。テルも頑張って取ってね」
「え? 実際にやるんですか?」
「勿論よ。誰が取るのか楽しみだわ」
ニッコリと桜梨様が微笑む。やはりこういうときはかなり綺麗だと思う。けど黒斗様がいるとなぁ……。
それにしても見たいと思っていたものがすぐに見れると分かるとは。ブーケを取りたいとは思わないけれど、誰が取るかを見るのは楽しみだ。
「言い遅れたけれど、テルもドレス似合ってるわ。そういう服を旅の途中きたことあったっけ?」
「いえ、ないと思います。私はこういう姿が苦手なので……」
着飾るとか本当に無理。だって似合わない。私は庶民用の服を着ていたほうがすごい似合ってると思う。
桜梨様と黒斗様は勿論、ヒュウリ様やフェック様や龍炎様もこういった姿は本当に様になっている。キラキラ光っているというか。何かもう眩しいです。
「もう黒斗様や龍炎様も来られるでしょうか」
「そうね。そろそろだと思うわ」
絶対に黒斗様のタキシード姿もさぞ綺麗なんだろうなぁ。ヒュウリ様が鼻血……うわぁ、本当に実現しそうで怖くなってきた。
いや、そもそも結婚式場で何人が鼻血をだすだろう。何人が失神なさるだろう。今日はいつものキラキラメンバーがフルで揃っているというのに。私は慣れたけれど。あれ、無事に式は進むんだろうか。
するとコンコン、とドアがノックされた。
「桜梨、入っても大丈夫かな?」
「勿論! あぁ、でもちょっと待って! 心の準備をさせて!」
「そうだね。僕もちょっと心の準備をするよ。今いくと失神してしまいそうだ」
何 だ コ イ ツ ら。
まだバカップルっぷりを見せ付けるつもりか。馬鹿なのか、馬鹿なんだろうか。
ドアの向こうから「ハァ……」という溜息が聞こえた。やはり龍炎様は黒斗様の傍にいるらしい。今なら龍炎様がどんな顔をしているのか分かってしまう。
何ていうか……やっぱりいなかった方がよかったかも。黒斗様が来る前に逃げたほうがよかったかもしれない。
そして暫くしてドアが開いた。
瞬間、私は思わず「わー……」と声をあげてしまった。いや、オーラが。オーラがやばいんです。
「黒斗!」
「桜梨!」
そして勇者様と魔王様は抱き合った。やっぱ逃げたほうがいいかもしれない。
予想通り、黒斗様はすごくタキシードが似合っていらっしゃる。本気でオーラやばい。キラキラしている。そして2人一緒になったら眩しい。様になりすぎだ。
龍炎様を見ると魔族の中では普段着らしい、いつもと違う黒い着物を着ていらっしゃった。やっぱり眩しすぎる。
「やっぱり似合ってるわ、黒斗。これ以上 私が好きになっちゃったらどうするの」
「それならもっと好きになってくれて構わないよ。それより桜梨こそとても似合っているじゃないか。女神が地上に舞い降りたようだ」
「それなら黒斗だって……」
とりあえずこれ以上の会話は聞かないことにしておこう。正直に言うとばかばかしく思えてしまう。
2人から目を逸らすと龍炎様と丁度 目があった。そのまま龍炎様はこちらに近づいてくる。ちょ、ホントに眩しいんですけど貴方達。
「とりあえず……黒斗様が来る前に俺が部屋に行ったら剣でやっただろう傷が複数あった。片付けたが。もう戦いは始まっているらしい」
「戦い? ……あぁ、フェック様ですか。あの人も懲りないものですね……。
因みにいうと桜梨様の部屋には座ったら服がボロボロになる魔術式が仕込まれてしました。解除させていただきましたが。あれは完全にヒュウリ様でしょうね。解除にも時間がかかって……」
早速はじまっている龍炎様いわくの戦い。早速 手は打ってきているらしい。
もう怖い。この結婚式が無事に行われるとは思わない。帰りたい。凄く帰りたい。私は明日 生きているだろうか……。
「誓いの言葉前に仕掛けて来るでしょうね。私の予想ですが」
「……それは俺も考えている。とりあえず俺は式場の確認をしてくる。小賢しい魔術式があったら困るしな」
「あ、それなら私が参りましょうか? ヒュウリ様の魔術式の解除法ならいくつか知っていますし」
それにこの場から逃げたいです。と言わなかった私はえらいと思う。だってまだあのバカップルはイチャイチャしてるんですから。
でもヒュウリ様の魔術式に慣れているのは本当です。まぁ、一緒にパーティーメンバーにいたのですから、少しだけ本人に教えていただいています。あと見たりとか。
「あぁ、頼む。もう時間も僅かだしな」
「分かりました。そこで全く話を聞いていないだあろう桜梨様にもお伝えください。それでは私は一足先に式場へと行って参ります」
龍炎様にお辞儀をして部屋を去る。逃げられてよかった。
もしかしたら何処もかしこも罠だらけかもしれない。絶引っかからないよう頑張ろう。
暫くすると本会場についた。
きっと中に準備に追われている方々がいるんだろうなぁ。桜梨様、何か凄いことするとか言ってたし。大変なんだろうなぁ。
意味もなく小さくノックしてしまった。何でしたんだろう。
それにしても今 思ったけど、中で準備している方は大丈夫だろうか。引っかかったりしていないだろうか。何か不安になってきた。
「失礼しまーす……」
すると私の予想と反して、会場には誰もいなかった。
足を踏み入れ、辺りを見渡すも誰もいない。別に目立った外傷もない。……準備はもう終わったのだろうか。
もしかして既にヒュウリ様とフェック様の罠にかかった後!? そ、それはやばいです。どうしよう。
「だ、誰かいませんか?」
……誰もいない。え、どうしよう。何もなかったらなかったでいいんだけど。でも何かあったら本当にどうしよう。
そしてもう一歩 足を踏み出した瞬間、私が見ていた風景が一気に変わった。……あれ?
(私は知らない、何も知らない)
(ある者が「式に参列する者を誘拐した」などと手紙を送っていたことを)
ちょっと1話完結は無理だったんで分けます。
安心してください。あんま大した事にはならないです。シリアスになるなんて、そんなことは……。
ていうかいつの間にか7話までいっててビックリです。案外続いてることに本当に驚いた。それとお気に入り登録してくださった方々、ありがとうございます。頑張ります。
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