6.夜中のご訪問
明日はあのバカップルの結婚式だし、早く寝よう。
そう思ってお風呂に入って、髪を乾かして、日記をつけて、歯を磨いて、明日に備えてすべき準備をして、さぁ寝よう。
そこまではよかった。よかったはずなんです。
「…………あの、龍炎様。今の時刻を分かっていらしゃって?」
「あぁ。あと少しで日付がかわるだろうな」
「……んで、何で貴方様はそんな時間に家を訪ねてくるのですかっ!?」
思わず大きな声をあげてしまう。それも仕方ないことなのです。
龍炎様のいうとおり、あと少しで日付がかわる。そんな時間にチャイムが鳴ってドアを開けてみればいつもと変わらぬ龍炎様。意味が分からない。
流石に今回の龍炎様の行動には何の同意も抱けない。
「……何の用なんですか、こんな時間に」
「あぁ。明日のことだ」
全員 口を開けばそのことか! もううんざりしてきてるんですけど!
しかしずっと玄関に立たせておくのも申し訳なくおもい、龍炎様をリビングへと連れて行く。
時間が時間なので今回は紅茶は遠慮させていただいた。何も出さずに椅子に座る。龍炎様も流れるような動作で座る。慣れられてるんですね。喜べばいいんですか。悲しめばいいんですか。
とりあえず私は引っかかっていることを本題の前に言わせていただくことにした。
「あのですね、龍炎様。例えただの知り合いであってもこんな時間に女性の家に訪ねてきちゃ駄目です。失礼ですよ」
「大丈夫だ。おそらくお前のことだから寝ていないだろうと推測してきた。結論、寝てないだろ?」
「そういう意味じゃなくて……」
分かってくださいよ。男性と女性がこんな時間に会うべきではないでしょう。
いや、龍炎様にそんな疚しい気持ちがあるなんて思ってません。思っていないけど、これは流石に注意しておかなければ。
しかしいくら言っても龍炎様は理解しなかったので諦めた。
「それで……明日のことというのは?」
「クソ剣士と魔術師から何か聞いてないか」
「フェック様とヒュウリ様ですか……? 邪魔するとかどうとかは聞いていますけど」
「具体的に」
「言っていませんよ」
すると龍炎様はチッと舌打ちをなされた。舌打ちしたいのはこっちです。
何でこんな夜中に(思われてないかもしれないけど)女の子の家に堂々と入ってくるんですか。魔族はこれが普通なんですか、これが常識なんですか。
……私の中で何かが荒れているので深呼吸をして落ち着いた。
「何故そのようなことを?」
「俺は全く嬉しくない明日だが、黒斗様にとってはとても大事な1日になるんだ。アイツらに邪魔をされては困る」
凄い忠誠心ですね。でも勘弁してほしいんですけど。
確かに私も無事 結婚式はしてほしいですよ? 協力してさしあげたいのは山々なのですよ? だって自分がそうだったらきちんとした結婚式をしたいですもん。……相手がいないですけど。
でも、でもですよ。相手があの2人というのが厄介すぎる。私じゃ無理だ。無理、うん、無理。
「今からでも殺しにいってやろうか……」
「勘弁してください、龍炎様。そんなことしたら明日の結婚式が本気で潰れかねません」
というか貴方が問題をおこしてどうするんですか。貴方まで結婚式を潰したいんですか。
……でも今日の乱闘を見ると明日は相当 悲惨なものになると考えたほうがいいだろう。あのお二方が大人しくしないことは今日を通してよく分かった。
「まぁ、でも……お二方も批判を浴びるようなことはなさらないでしょう。自分の家に泥を塗ることになるでしょうし。とりあえず何か仕掛けてあるとは考えたほうがいいとは思いますけど、真っ向勝負にでるとは思いませんよ」
「家……そんなものを気にするものなのか?」
「当たり前でしょう。あまり派手なことをやりすぎると大きく取り上げられてニュースになりますし、家に泥を塗ったら家族ともども外を歩くことすら困難になります。
それに勇者様と魔王様の結婚式ですよ? 大きく取り上げられて色んな方がいらっしゃるでしょうから、あまり派手なことはできません。流石にあの2人もそれは分かっていらっしゃると思いますよ」
「面倒だな、人間は。お前はそういうのを気にするのか?」
「生憎、私の親類は前の大きな自然災害で全員亡くなっているので気にするも何もないんですよ」
もし私が派手なことをして泥塗ろうが、それが跳ね返ってくるのは全て自分にだ。他に誰もいないのだから。
すると龍炎様は眉を顰めてこちらを見た。
「お前……唐突に重い話をしてくるな」
「え……家族のことですか? 別に大丈夫ですよ。いつまでも引きずるような人間じゃないので。お気になさらず」
「……はぁ」
あれ、何故か溜息をつかれてしまった。何か問題な発言でもしました?
すると急に龍炎様が片手をこっちに向かわせてきた。え、何かついてます? それとも何か怒っていて叩かれる!?
分からないけど嫌な予感しかしないので目を瞑ると、頭に何か乗った。
「…………あれ?」
「大丈夫とかいう奴がそんな顔をするか」
……私、一体どんな顔してたんだ。
あれ、ていうか今の状況なんなんだ? どうなってんの?
エート……龍炎様の片手が私の方に向かってきて、それで私の頭の上に乗って、その手が左右に動いて……。
撫 で ら れ て る ?
何で、何でこうなっているんだ。何があった。龍炎様、何があったんですか。
ていうかこういうの慣れてないんですけど! 人に頭を撫でたれたりとかあんまされたことないからどういった反応すればいいから分からないんですけど!
ちょ、誰か助けて。ホントに、本気で、どうすればいいか分からない。
「無理に笑うな。不細工になるぞ」
「ちょ、な、何ですか、その言い草は!? 女の子に向かってそういうことを言うのは失礼です!」
「そうか、悪かったな」
「悪いと思っていないでしょう!?」
その後もどうしていいか分からずそのまま龍炎様に頭を撫でられ、何か言っても適当にあしらわれる。
最後にこんな風に撫でられたのはいつだったっけ。もう、思い出せない。
「と、とりあえず用が済んだのなら帰ってください! 明日 起きられなくなっちゃいます!」
「煩い、怒鳴るな。近所迷惑だ」
「夜中に押しかけてくる人に1番言われたくなかったんですけど!」
とりあえずやっとの思いで龍炎様は帰ってくれた。ホント、何だったんだ。
暫く頭の上に手をやって、椅子に座って呆けた。
(意味の分からない行動はやめてください)
(心臓にすごい悪いんです)
不意打ちで甘い雰囲気のほんのちょっとシリアスムードな話が入ってくることだってたまにある。
しかし!その次の話でギャグに戻ってたり戻ってなかったり!
でもきっと戻る。