3.剣士様のご訪問
ガゴンッ
「……フェック様、ドアを蹴って入るのはやめていただけますか」
「あ゛ぁ?」
「どこの柄の悪い賊ですか…」
これでドアが傷ついたらどうしてくれるんでしょう。弁償してくれるんでしょうか。
フェック様はそのまま何も仰らず、勝手に椅子にドカッと座られました。これも見慣れた光景です。そして次にフェック様の口から出てくる言葉が――
「紅茶」
「……はい」
命令。というか飲み物の要求です。分かりきったことです、悲しいことに。
とりあえず紅茶をだして、向かい側の椅子に座る。フェック様は無言で紅茶を飲まれた。何やら醸し出されているオーラがヤバイです。
「あの、フェック様。どうかいたしまし――」
「どうもこうも……結婚、ってどういうことだ」
怒りのこもったお声。……そういえば、そんな話がありましたね。私はどうでもよくても、フェック様はそうでもないのでしたね。忘れていました。
だからこんなにも不機嫌。納得がいきました。だからといって私の家に来るのはやめてほしいのですけれど。今すぐご自宅に帰ってストレスの発散をしてきてください。私の家では勘弁です。
「それで、フェック様はどうなさるのですか?」
「邪魔する」
「………………。」
貴方、いつか桜梨様に本気で嫌われますよ。
そう言いたいところですが、纏うオーラが恐ろしすぎる。そんなに桜梨様が好きなのですか……。でも結婚までくると、普通 諦めません?
「それはどのように?」
「決まってんだろ。黒斗の野郎の暗殺だ」
「……あのですね、貴方いつか嫌われますよ」
「じゃあどうしろっつうんだよ」
だから諦めてくださいよ。
そんなことを言ってしまえば私はフェック様に殺されてしまうのかも……。いや、そうなったら対抗すべきですよね。勝てるかな。って違う、違う。
さてどうしましょうか。できれば戦うのは避けたいです。家が壊れたら私は泣きますからね。完全に泣いちゃいますからね。きっと大号泣ですよ。その場合は弁償させます、必ず。
「まぁ……ここは2人を大人しく見守ることにしましょう」
「遠回しに諦めろっつってるよな?」
何故バレたのでしょうか。とても遠回しに言ったつもりでしたのに……。
「でも梨桜様は完全に結婚する気満々でしたし……。それに、黒斗様を殺害するといってもあの方は魔王ですよ? 龍炎様もついていらっしゃいますし、不可能だと思うのですが」
「…………。」
私の意見が正論だったからか、フェック様は黙ってしまった。
きっとフェック様の力では黒斗様には勝てない。それは黒斗様の魔力が強力すぎるから。黒斗様が本気を出せば、私もフェック様も瞬殺されてしまうだろう。桜梨様だけは別ですが。
龍炎様も黒斗様の側近。黒斗様ほどではないが、魔力は強いだろう。彼と戦ったことがないので分からないが、私が彼と戦って勝てるかどうかは分からない。いや、おそらく負けるだろう。
そんな2人を相手にするとなると、フェック様が勝てるわけがない。
「……チッ」
「潔く諦めたらどうですか。桜梨様の幸せを祈って」
「ハッ、アイツが桜梨を幸せにできるなんて思わねーな。あんな胡散臭い奴」
「きちんと見てから言ってください。貴方はしっかりとお二人を見たことがありますか? 貴方が見たくなくて目を背けているのは知っているんですよ」
「…………。」
これ以上は言わない。だってこれでフェック様が怒って暴れられると困るので。
恐る恐るフェック様の顔を見ると、思いきり不機嫌顔。……ヤバイですよね。もしかして言い過ぎました?
「あのーフェック様ー……?」
「…………。」
「その……」
「……俺は諦めねぇぞ」
「え゛」
「何がなんでも邪魔してやる……!」
ど う し て そ う な っ た ?
ここは納得してくれるみたいな感じじゃありませんでした? え、何がいけなかったんですか? 誰か教えてください。
私、いったいどうやった言葉かけをしたらよかったんですか?
「オイ」
「はいっ!?」
「今からでも俺は邪魔しにいってくる。じゃあな」
「はっ? ちょ、ちょっと待ってください! お二人は――」
私がいう前に、もうフェック様は出ていかれた。早すぎる。
恐らく桜梨様と黒斗様の家に行かれたのでしょうけど、今日お二人は注文していたウェディングドレスを見に行ったはずだ。つまり、不在。フェック様は無駄足となる。
あぁ、また不在と知ったら不機嫌になるのだろうな……。だから止めようとしたのに。
終わったことを振り返っても仕方ないので、私はティーセットを片付けることにした。
(諦めが悪い剣士様)
(せっかちすぎるのは直した方がいいかと)