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マジックミュージック4

作者: ねすと

うららかな昼下がり。


部屋に流れる『スピ〇ツ』の『空〇飛べるはず』を聴いていると、本当に空を飛べるような気がしてきた。


「というわけで、飛んできます」


「死ぬぞおまえ」



  ***



魔法使いが音子の首根っこを掴みながら音楽を止めると、ようやく音子は正気に戻った。


「まったく、変な曲は作らないで欲しいですね。私みたいな人はどうしたら良いのですか」



「名曲になんてことを……。というか、そもそもおまえみたいな奴を考えてないと思うからな、普通」


「いつの時代も、少数意見は切り捨てられる運命なのですね」


「多数決が一般だからな。……おい、リモコンなんて持って、なにするんだ」


音子はリモコンを操作して、曲を流す。流れたのは、


「音子、歌います。

『中〇みゆき』『時だ――』」


「歌わんでいい」



  ***



「ふむ、でもそうか……」


音子からリモコンを取り上げながら魔法使いは呟いた。


「飛ぶんじゃなくて、外に出るのはいいかもしれんな。

外は、ほら! こんなにいい天気だ!」


カーテンを開けば、眩しいばかりの青空が窓枠に切り取られる。


「日光に当たらないと駄目だぞ、体に悪い。それにお前の肌は白すぎだ」


「いいんです。このまま極限まで白くして、太陽光を全て反射してやるんです」


「ならんから。

えっと……なんか良い曲はないか? 散歩に行こうとか、そういう曲」


「『さ〇ぽ』ならあります」


「ああ、それがいいな。歩こう歩こうってやつだよな」


「はい。

あれを聴くといい具合に疲れて健康にいいんです」


「聴くだけでいいのか。流石だな」



  ***



「お前には胸が熱くなるときはないのか。こう……胸にたまって熱いものを解消するために外に走り出すとか」


「魔法使いさん」


やれやれ、と音子は呆れたように首を振る。


「私もかろうじて人間です。そういうときはありますよ」


「かろうじて?」



「ラーメンをすすったとき、ものすごい熱かったのですが無理やり飲み込んだときなんかそうです。

胃の中が熱いのですが、どうすることもできずにもがき苦しみます」


「そういうことじゃないんだがな。

で、そういうときは走りたくなるのか」


「クレームを付けに店まで走りたくなります」


「しかも出前かよ」



  ***


「音子〜、外に出ないと友達できんぞ〜」


「外に出なくてもパソコン一台で何人も」


「そういうんじゃなくてちゃんと生身の友達がいいんだよ〜」


音子の布団に寝そべり、バタバタと足を動かす。

なんとなくうざいので、掛け布団で埋めてやった。


すぐに顔を出したが。



「ですが、魔法使いさん。いきなり言われても困ります。私は内気で内向的で言いたいことが言えない、他人の意見は逆らうことをせずに全て聞いてしまう性格なのです。

もし友達ができてもちゃんと話せるかどうか……」


「まったく問題ないだろ。俺のときは大丈夫なんだから」


「…………」


「音子?」



「ですが、魔法使いさん。いきなり言われても困ります。私は内気で内向的で言いたいことが言えない、他人の意見は逆らうことをせずに全て聞いてしまう性格なのです。

もし『ちゃんと人間の』友達ができてもちゃんと話せるかどうか……」


「やり直し!?

というか俺は人間だ!」



  ***



「魔法使いさんは私を動いていない人だと思っていますが、これでも私は毎日運動しています」


「ほ―」


「聴く曲のサイクルに『さ〇ぽ』や

『爆〇スランプ』の『Ru〇〇er』

を組み込んでいます。もし挫けそうなときは

『ZA〇D』の『負〇ないで』

を聴いて完曲します」


「挫けそうな状況がまったく浮かんでこないんだが。

というかお前は同時に二曲聴くこともあるのか」


「現世の聖徳太子と呼んでください」


「じゃあ運動系の曲を何曲も重ねてみるか?」


「重ねればマイナスになります。最初から全力疾走は命に関わります」



  ***



「……どうでもいいこと訊いていか?」


「はい」


「音子はさ、小学校のときはちゃんと学校に行ってたんだよな」


「そうですね。行ってました」


「じゃあさ……。その、確か小学校のときは“なんとかがかり”って決めたんだと思うんだが……」


「そうですね。“としょがかり”でした」


「お?」


「生き物係りはまだ知りませんでしたからね」


「ああ……そう……」




  ***



「出前だけじゃ体に悪いな。よし! 俺が作ってやる!!」


「魔法使いさん作れるんですか?

ああ、作れますよね」


「どうした?」


「薬草やらカエルやらヘビやらを大鍋でグツグツと……」


「違うぞ。ちゃんとした料理だ。俺は一人暮らしだから、基本的な家事はできるぞ」


「そうですか。なら……お願いします」



よっしゃ、と腕を捲りながら魔法使いがキッチンに消えていく。


ガタガタとカチャカチャが混じったような音が数回したかと思ったら、すぐに魔法使いが顔を出してきた。


「あの―……。

キッチンに雪平鍋しかないんだが……。フライパンはなにやらサビかカビが生えてて使い物にならないし。

というか調味料がカチコチに固まって使い物にならないんだが」


「電子レンジがあるじゃないですか」


「それだけでどうしろと!?」



  ***



鍋も雪平鍋しかないとわかると、魔法使いはため息をついてまたキッチンに消えていった。


そして待つこと数分。布団の上にはアツアツの料理が並べられた。


「鍋一つでよく作れましたね」


「多少魔法を使ったがな」


「なるほど。とすればこの料理は少し魔法風味ということですね」


「食べても魔法は使えるようにならんがな」


箸と取り皿が行き渡ったところで、食事開始となった。




  ***



「ん―、なかなか美味いな。味付けもバッチリだな」


「そうですね。……美味しいです」


「……なんでそんなに嫌そうな顔してるんだ」


「いえ……別に」


黙々と食べ進める音子。


ただマズいとは思ってないらしく、食べるスピードも量も下がることはなかった。


「ごっそさん」


「……ごちそうさま」


「どうだ? 俺の手料理は。なかなかのもんだろう。

というか、あのキッチン状況からしたら手料理自体久しぶりじゃないのか?」


「キッチンを使ったのは久しぶりです。ですが、今は暖かい家庭料理もデリバリーできる時代なので」


「お―……。それは反応に困るな。良かった……のか?」



  ***



「よし! じゃあ腹もいっぱいになったことだし腹ごなしに」


「曲を聴きましょう」


のそのそと電源を入れる音子の後ろから、魔法使いはリモコンで電源を落とした。


「外に行くぞ!」


「断固拒否します。

私の肌はまだ太陽光を反射するにまで至っていません」


「そうなることは絶対ないから。

ほら、俺と一緒に外出して、困っている人を救う旅に出ようじゃないか!!」


「旅は外出の域を越えてます」


「帰ってきたときはレベルアップしてるぞ」


「勇者属性はいりません」


「じゃあ、俺一人で行くぞ!!

いいのか」


「どうぞ」


「ついて来るなら今だぞ!」


「いってらっしゃい」



ひらひらと手を振ると、魔法使いは駄々をこねるように音子を外に出したかったが、結局諦めたようにトボトボと靴を履いていた。



  ***



「ふう。やっと出て行きましたか」


魔法使いが出て行った部屋で音子が呟く。


「まあ、すぐに帰ってくるでしょうね」


それまで音楽でも聴いてることにします、とスピーカーのボリュームをあげる。


怒る人もいないので、存分に音楽に身を委ねていると、あっという間に数時間立っていた。


魔法使いはまだ帰って来ない。


「ふむ、どこかで事故ったのでしょうか」


パソコンでテレビを映しても、交通事故の情報はない。


と、テレビの窓の後ろ、“魔法使い”の文字が見えた。


「なんでしょう」


それは、ニュースのトピックだった。


題名は『魔法使い現る』


なんと写真付き。しかもそこに写っているのはまごうことなきあの魔法使いだ。


「あの人はなにをしているのでしょうか」


写真は、魔法使いが魔法を使っているシーンが、ばっちり写っていた。小さな交差点で車を浮かしている。驚く通行人と、運転手は一様に驚いている。そして浮かんでいる車の下で、男の子が泣いているのが見えた。


それを見ただけで魔法使いがなにをしようとしたのかわかる。


おそらく、車に惹かれそうになった子どもを助けようとしたのだろう。


「……おや?」


写真のすぐ近くに、関連ページが表示されていた。


クリックしてみると、なんと動画が流れ出した。


車が宙に浮いているところから始まり、男の子を助け、魔法使いが去るところまで。


携帯で撮影したのか動画は荒い。


それでもこれは……。



バタン、と扉が閉まる音。

振り向くとそこには、顔を真っ青にした魔法使いが、扉に寄りかかって肩で息をしていた。







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