1#お宝への情熱とクレープへの執着
「サナンの空を脅かす者よ、そなたの敵はここにはいない」
「グゲッ、グギャー!」
「大丈夫だ、今ならあの洞窟にまだ戻れる。心鎮めて」
「ギャーっ!ギャーっ!!」
「心鎮めて帰りたまえ!これ以上関係のない者を傷付けるのはやめよ!」
「ギェェエっ」
「そなたとの戦いは望ま」
「ゴァァァァ…っ」
「…だから…この…」
「―――っ!!」
「帰れっつってんだろこのクソ×××(ぴ―――)野郎!!!!」
パンチ一発。
正義の鉄拳。
サナン地方にある国、サナン王国。
アトラハナ、リノ、ユニタニ、ストレナという街と、そしてサナン。計五ヵ国で成るサナン地方で最大のこの国は、近隣四ヵ国との仲がよく、交流が多々あり皆安定した生活を送っている。近隣四ヵ国はサナン王国のように発展はしていないが、それでも初代国王モル・A・サナンは友好関係を求め、その平和は七代目アラトニアル・A・サナンの統治する今でも続いている。
そんな国の、とある酒屋で。
「っあ゛―――!全くっ」
「どうしたんです?お兄さん」
どん、と黄色い泡立つ酒のジョッキをカウンターに置いた若い男は、藍色のさらさらの髪の毛に碧い瞳。クリーム色の長いズボン、黒のタンクトップの上に半袖の短めの上着という簡単な服装をしていて、左腰には短剣を吊っていた。靴は動きやすそうな黒ブーツ。
「どーしたもこーしたも」
イライラした口調で続ける。
「この国で五千ティクで買ったマップ!とんでもねー嘘っぱちだったんだぜ」
「まぁ」
「ミクトーニ山のてっぺんの羽付きトカゲよ、『人間の言葉が分かるんだ』とかってあのオッサンが言ってたからおれが説得してやってたんだよ!はよ洞窟帰れってよ」
「サナン地方中からずっと苦情ありましたからね、夜中煩いって」
「ああ。…でもおれはさ、そいつの寝床にあるお宝が欲しかったんだよォォ!!だからあのクソトカゲが邪魔だったんだっ」
「…はぁ」
「なのにあいつ、訳分からん奇声ばっか発しやがって…ぶん殴って始末してから寝床行ってみれば…みれば…っ」
酒の一気飲みは危険ですよ、という若い女オーナーの忠告も耳に入らず。
「すっからかんなんだよー!!」
暗い夜道、酒屋のオーナーに教えて貰った宿屋へ向かう。
『今朝この国に来られたばかりなんですし、次はきっとお宝、見つかりますよ』
なんて憐れまれてしまったいい男、スカッド。
彼は今朝サナン王国に到着し、“お宝”の文字に誘われて宿もとらずにミクトーニ山へ向かった。
結果は先ほど吠えていた通りでして。
こういう事は彼の経験上決して少なくはないが、やはりショックは大きい。いつだって、骨折り損のくたびれ儲けはしたくないものだ。
(この国ってのは確かに平和だけど…)
石を蹴ろうとして、そんなものがない位綺麗な煉瓦道を恨めしそうに見た。
翌日、スカッドはサナン王国の大きな広場にいた。
そこにはクレープ屋やらフランクフルト屋やら色々な屋台が並んでおり、結構な賑わい。
「今日くらいは、のんびり過ごしてみるかなー」
と、クレープを片手に空いているベンチに座る。
少し頭が痛い。二日酔いだろうか。
「あのー」
「はぃ?」
誰かに呼ばれスカッドが斜め上を見ると、一人の女の子がにっこりと笑った。ぱっと見、歳は16・7位か。黒く長いストレートヘアが揺れた。
「それ、私も食べていい?」
「は?」
これにはスカッドも狼狽する。食べかけのクレープを指差して、女の子は
「ていうか食べちゃいますねっ、えい!」
ぱくり。
具をもってかれちゃった。
「えええぇえ?!」
「きゃ、美味しい。でも中のケーキ、なんだかぱさぱさね」
「ちょっとぉぉ!」
「ありがとう、ハンサムなお兄さん」
優雅に、かろやかに。
可愛らしい女の子は、嵐のごとく走り去ってしまった。
「なに?あれ…」
残された男は、同じく残されたクレープの生地を握りしめていました(笑)。
でも、なんだか気になって。
次の日もまたあの広場のあのベンチに座っていた。今度はポテトを持って。
「あの…」
「あっはい!」
来た、と勢いよく顔を上げると、
「ポテトのおつりです。受け取って頂いていないですよね?」
「…」
その日、女の子は来なかった。
「くっそ面白くもねー!」
カウンターにへばりつくスカッドを見て、オーナーは苦笑いをした。
「今日はどうしたんですか」
彼女はどうもおっとりしているようだ。その笑顔を見ると、広場で出逢った女の子が連想される。似ていないのに。
「いや…別に、何でもないっすよ」
「そうですか」
「……」
何て冷たい人なんだろう、と思ってしまう。腹が立っているだけに、ちょっとした事で頭にくる。
「なんか聞いてくれよー…」
「はぁ。どうなさったんで?」
強引すぎるだろうか。まあいいだろうと勝手に解決した。
空は夕焼けで真っ赤だった。
「おれ、泥棒にあった」
「えっ、泥棒ですか?」
「うん」
大幅に話を誇張している。
「女の子なんだけどさ。すげーむかついて、すげー頭から離れなくて…すっげぇ…」
「なんだか、恋の相談されてるみたいですよ」
「っはぁ??」
不思議そうにオーナーを見ると、相変わらずにこにこと笑っていた。その長い睫毛を見る。
「あのさ―――」
「いやぁぁぁっ!」
「?!」
店の外で悲鳴が響いた。反射的に駆け寄る。ドアを乱暴に開けて右を見ると、野次馬の中心に、図体のでかい男と派手な服装に髪の長い女の子がいた。どうやら手首をつかまれているらしい。
(あの子…っ)
「離してよ!!」
「いいじゃねぇか、お嬢ちゃんも暇なんだろ?」
「おい」
スカッドの手が女の子の細い肩の上に置かれ、身をかがめて男を睨む。
「あのさ、この子おれの関係者。どっか消えてくんない?」
「んだぁこのガキっ」
「おっとっと。…お嬢さん、早くうちに帰んな」
小声で囁くと、女の子は怯えた瞳でスカッドを見つめ、夕焼けの中を走って消えた。
「あっこら!」おおっと、野次馬の何人かが歓声をあげる。
「おじさーん、いい歳してあんな子誘うなんて趣味わりーぜ」
「んなっ!」
背中の大きな袋から男が取り出したのは、こんぼうのような武器。たくさん刺がでていた。それと同時にスカッドも簡易なナックルを取り出す。
「さっきから生意気な口ばかり叩きやがって…」
男が武器を振り上げる。
「らぁぁぁぁぁっ!」
スカッドは地面に右手をついて、タイミングよく斜め前に跳んだ。男の武器が道に食い込む。
「あーあー、壊れちゃった」
「くそっ」
男が振り向くと同時に、スカッドの長い脚が男の首にかかった。足首で固定する。
「あ―――」
「ん、のおぉ!!」
叫びながら、脚に力を入れて男の顔を道連れに地面に振り下ろした。
道に、ひびが入った。
「や、結局はナックル使ってないし、腰のこれも使ってないし」
「通りをこんなに破壊しておいてか?」
「だからおれは何にも悪い事してませんて」
「いいから来い!!」
その夜、スカッドが見回りの方々に解放されたのは日が変わってからだという。
話が全然見えませんね!!でも、だんだん分かってくる事もありますから;暇な時に読んでやってくださいませ。かながわまるでした。