表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/20

第8話 小野裕子という少女


ダンジョン三層。


小野裕子は、

浅く

息を吸った。


胸の鼓動が、

イヤーピース越しに

自分でも

聞こえる。


「大丈夫、

 まだ

 余裕あるよ」


明るい声で

そう言い、

カメラに

笑顔を向ける。


だが、

足先は

わずかに

震えていた。


視聴者は、

気づかない。


それが、

配信者という

仕事だ。


---


裕子は、

十七歳。


学生であり、

探索者であり、

インフルエンサー。


肩書きは

多い。


だが、

根っこは

ただの少女だ。


三年前、

ダンジョンが

日常になった。


父は、

初期の

探索者だった。


帰ってこなかった。


その事実が、

彼女を

この場所へ

連れてきた。


「危ないから

 やめろ」


そう言われるほど、

やめられなかった。


知りたかった。


ダンジョンの中で、

父は

何を見たのか。


---


通路の先で、

気配が

濃くなる。


魔物の数。


多い。


裕子は、

一歩

後ろへ

下がる。


「今日は、

 ここまでに

 しようかな」


そう言いかけて、

コメント欄が

流れる。


「いける」

「逃げ?」


心が、

一瞬

揺れた。


配信者は、

期待に

応えなければ

ならない。


それが、

彼女の

生き方だった。


「……もう少し」


判断は、

遅れた。


---


床が、

きしむ。


魔力の

圧。


見慣れない

影が、

壁から

剥がれる。


「え……?」


声が、

震える。


イレギュラー。


裕子は、

その言葉を

知っている。


教本で

見ただけの

存在。


想定外。


逃げ道を

探すが、

通路が

塞がれる。


背中に、

冷たい汗。


「落ち着け、

 落ち着け……」


自分に

言い聞かせ、

武器を

構える。


だが、

距離が

近すぎた。


---


攻撃。


間一髪で

かわす。


だが、

体勢が

崩れる。


「くっ……!」


視聴者の

コメントが

加速する。


「やばい」

「逃げろ」


その文字が、

刃のように

突き刺さる。


裕子は、

歯を

食いしばった。


逃げたい。


でも、

逃げたら

終わる気がした。


父の背中を

追いかけて、

ここまで

来た。


それを、

無駄に

したくない。


---


次の瞬間。


視界の端で、

何かが

動いた。


速い。


信じられない

速度。


魔物の

注意が、

一瞬

逸れる。


「……?」


剣閃。


一撃。


音もなく、

魔物が

崩れ落ちた。


裕子は、

呆然と

立ち尽くす。


何が

起きたのか、

理解できない。


振り返ると、

そこに

一人の男。


地味な装備。

目立たない

立ち姿。


だが、

異様な

存在感。


---


「大丈夫?」


低い声。


落ち着いている。


戦闘直後とは

思えないほど。


裕子は、

数秒

遅れて

頷いた。


「……はい」


声が、

かすれる。


男は、

それ以上

何も言わず、

周囲を

警戒した。


配信は、

続いている。


コメント欄が、

爆発していた。


「誰?」

「速すぎ」


裕子は、

カメラを

見つめる。


そして、

男を見る。


助けられた。


それだけは、

確かだった。


小野裕子は、

この瞬間を

忘れない。


自分の

世界が、

大きく

変わったことを、

まだ

理解できないまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ