第5話 ダンジョンの仕組み
初めての潜入は、
思っていたより
静かだった。
葛城亮は、
Dランクダンジョンの
入口に立っている。
巨大なゲート。
黒い縁取りの
楕円形。
内部は、
光を吸い込むような
暗さだった。
「……生きてるな」
思わず、
そう呟く。
異世界の
ダンジョンと、
似ている。
だが、
決定的に
違う点がある。
管理されている。
入口横には、
監視端末。
侵入者数。
現在の階層。
異常警告。
すべて、
数値で
表示されている。
「兄さん、
最初は
一層だけ」
あみの
念押し。
「無理しない」
亮は、
軽く
頷いた。
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中に入ると、
空気が変わる。
湿度。
匂い。
音の反響。
すべてが、
現実と
切り離される。
壁は、
人工物のようで
自然物でもある。
石だが、
規則的すぎる。
「ダンジョンは、
自己修復する」
事前に
聞いた説明を
思い出す。
破壊された壁も、
時間が経てば
元に戻る。
そのため、
構造の
完全な把握は
不可能。
探索者は、
地図を
更新し続けるしかない。
一層目は、
チュートリアルと
呼ばれている。
弱い魔物。
単純な罠。
初心者向け。
角を曲がると、
小型の魔物が
現れた。
ゴブリン。
異世界でも
見慣れた存在。
「……遅い」
亮は、
最低限の動きで
回避する。
剣を
振るう。
一撃。
魔物は、
霧のように
消えた。
ドロップ品が、
地面に残る。
魔石。
ダンジョンの
核の欠片。
エネルギー源として
利用される。
「これが、
金になる」
亮は、
冷静に
拾い上げた。
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歩きながら、
ダンジョンの
法則を
整理する。
階層構造。
下に行くほど、
難易度が
上がる。
魔物の知能も、
戦術も
変化する。
一定階層ごとに
ボスが存在。
討伐されると、
階層は
リセットされる。
だが、
完全ではない。
「イレギュラー」
そう呼ばれる
存在が、
稀に現れる。
本来、
存在しないはずの
魔物。
想定外の
能力。
管理外。
事故の原因は、
ほとんどが
これだ。
亮は、
足を止める。
壁に触れる。
微かな
脈動。
「……繋がってる」
異世界と。
完全ではないが、
似た層が
重なっている。
だからこそ、
魔物が
現れる。
そして、
人類は
それを
利用している。
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一層の
終端。
小さな
結晶体が
浮いている。
転移装置。
触れれば、
地上へ
戻れる。
初心者が、
無事に
帰るための
安全装置。
亮は、
一瞬だけ
迷った。
もう一層。
余裕はある。
だが、
あみの言葉を
思い出す。
弱くやる。
彼は、
結晶に
手を伸ばした。
光が、
視界を包む。
次の瞬間、
地上の
待機エリア。
心拍は、
乱れていない。
だが、
胸の奥が
ざわつく。
このダンジョンは、
危険だ。
管理されていても、
根本は
変わらない。
異世界の
延長線。
勇者の力を
持つ者にとって、
誘惑が
強すぎる。
亮は、
自分に
言い聞かせた。
深入りしない。
これは、
仕事だ。
英雄譚ではない。
そうしなければ、
この世界は
壊れる。
あるいは、
自分が
壊れる。
葛城亮は、
登録証を
胸ポケットに
しまった。
次に踏み込む時、
何が起きるか。
それを知るのは、
もう少し
先の話だ。




