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第2話 五年前の世界


朝の光が、

カーテンの隙間から

差し込んでいた。


葛城亮は、

天井を見つめたまま

しばらく動かなかった。


見慣れた部屋。


だが、

五年前の記憶とは

微妙にずれている。


時計を見る。


日付は、

確かに現在だ。


異世界で過ごした

長い年月が、

一気に

現実へ押し戻される。


「……五年、か」


呟くと、

胸の奥が

重くなった。


異世界では、

毎日が生死の境だった。


だが、

こちらでは

時間だけが

静かに流れていた。


服を着替え、

外へ出る。


街は、

記憶よりも

騒がしかった。


駅前の広場には、

巨大なモニターが

設置されている。


映っているのは、

武装した人間たち。


剣を振るう者。

魔法のような

光を放つ者。


「Bランクダンジョン

 攻略配信中」


字幕が流れる。


亮は、

足を止めた。


戦いが、

娯楽として

消費されている。


その事実に、

違和感を覚える。


視線を移すと、

駅の外れに

高いフェンスがあった。


その奥に、

黒い構造物が

そびえている。


塔のようで、

穴のようでもある。


近づくにつれ、

肌が

ひりつく感覚を覚えた。


魔力だ。


異世界と同質の、

だが不安定な

気配。


「……ダンジョン」


誰かが

後ろで呟く。


五年前、

突如として

現れた存在。


人類は、

排除ではなく

管理を選んだ。


危険を

制御できると

信じたのだ。


亮は、

フェンス越しに

内部を覗く。


闇が、

奥へ奥へと

続いている。


底が、

見えない。


異世界で見た

ダンジョンとは

違う。


こちらは、

人間の手が

加わっている。


監視カメラ。

警備員。

入退場ゲート。


危険は、

制度の中に

閉じ込められていた。


それでも、

完全ではない。


亮は、

直感で理解する。


この世界は、

既に

変わってしまった。


戻る前の

日常は、

もう存在しない。


帰宅すると、

妹のあみが

テレビを見ていた。


画面には、

ダンジョンの

ニュース。


負傷者数。

探索者のランク。


淡々と

読み上げられる。


「兄さん」


あみが

振り返る。


「今日、

 街見たでしょ」


亮は、

頷いた。


「どう思った?」


少し考えてから、

答える。


「……戦場が、

 日常になってる」


あみは、

小さく笑った。


「正解」


「だから、

 今さら

 驚かない」


五年前の世界は、

異常を

受け入れた世界だ。


恐怖を、

数字と映像で

処理する。


そうしなければ、

生きていけない。


亮は、

拳を

静かに握る。


異世界で

戦ってきた理由は、

ここにはない。


だが、

ダンジョンは

確かに存在する。


そして、

犠牲もある。


「……俺は」


言いかけて、

言葉を止めた。


まだ、

答えは出ない。


ただ一つ、

確かなことがある。


この五年前の世界は、

勇者を

必要としていない。


だが、

力を持つ者から

逃げることも

許してはくれない。


葛城亮は、

静かに息を吐いた。


新しい世界で

生きるための

覚悟が、

少しずつ

形を持ち始めていた。


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