第14話 助けられた少女
ギルド支部の
ロビーは、
まだ
騒然としていた。
人。
カメラ。
声。
その中心から、
葛城亮は
静かに
距離を
取っていた。
注目は、
彼だけでは
なくなっている。
もう一人。
小野裕子。
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彼女は、
少し
離れた
ソファに
腰を下ろし、
両手を
膝の上で
握りしめていた。
表情は、
落ち着いて
いる。
だが、
内側では
違う。
それを、
亮は
見逃さなかった。
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職員の
誘導で、
二人は
小さな
応接室へ
通される。
カメラは、
外。
扉が
閉まると、
ようやく
静寂が
戻った。
「……ごめんなさい」
最初に
口を
開いたのは、
裕子だった。
視線を
伏せたまま、
続ける。
「勝手に、
言いました」
亮は、
首を
振る。
「結果は
同じだ」
事実だった。
彼女が
言わなくても、
時間の
問題だった。
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「でも……」
裕子は、
顔を
上げる。
真っ直ぐな
目。
「私は、
嘘を
つきたく
なかった」
亮は、
その言葉に、
少し
だけ
驚いた。
彼女は、
配信者だ。
演出も、
計算も、
できる
立場。
だが、
今の声は
違う。
等身大の
少女の
ものだった。
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「あなたに
助けられた」
裕子は、
はっきりと
言う。
「命を」
言葉が、
重い。
亮は、
視線を
逸らした。
「大げさだ」
「違います」
即答。
「私は、
あの時、
死ぬって
思いました」
ダンジョン深層。
イレギュラー。
逃げ場の
ない
圧力。
その中で、
現れた
無名の
探索者。
その背中を、
裕子は
忘れられない。
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「だから……」
少し
間を
置いて、
裕子は
続ける。
「私は、
あなたに
聞きたい」
亮は、
黙って
待つ。
「なぜ、
そこまで
強いのに、
隠すんですか?」
核心。
亮の
胸に、
鈍い
痛みが
走る。
理由は、
ある。
だが、
簡単には
言えない。
異世界。
勇者。
魔王。
どれも、
現実から
浮いている。
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「……守るためだ」
短く
答える。
「誰を?」
裕子の
問いは、
鋭い。
亮は、
少し
考え、
正直に
言った。
「自分を」
それだけで、
十分だった。
裕子は、
黙る。
そして、
小さく
笑った。
「変な
人ですね」
悪意は
ない。
むしろ、
安心した
ような
笑顔。
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「でも」
裕子は、
背筋を
伸ばす。
「私は、
あなたに
借りが
あります」
亮は、
眉を
ひそめる。
「返す
必要は
ない」
「あります」
強い
口調。
「助けられた
ままじゃ、
前に
進めない」
それは、
探索者としての
矜持。
配信者として
以前に、
一人の
ダイバーとしての
言葉。
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扉の
外で、
誰かが
待っている
気配。
時間は、
長く
取れない。
亮は、
立ち上がる。
「無理は
するな」
それだけ
言って、
出ようと
する。
その背中に、
裕子の
声が
届いた。
「また、
ダンジョンで
会えますか?」
亮は、
振り返らない。
だが、
足を
止める。
「……縁が
あればな」
それで
十分だった。
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応接室に
残された
裕子は、
深く
息を
吐く。
恐怖は、
まだ
消えていない。
だが、
希望が
あった。
無名の
探索者。
危うくて、
優しくて、
どこか
孤独な
男。
彼女は、
確信する。
この出会いは、
偶然では
終わらない。
助けられた
少女は、
もう
守られる
だけの
存在では
いられない。
彼の
背中に
追いつく
ために、
前に
進むと、
そう
決めていた。




