第11話 無名の探索者、乱入
ダンジョン深部。
空気は、
粘つくように
重かった。
葛城亮は、
巨大な影を
正面に
見据えている。
核を
抱え込む
異形。
脈打つたび、
周囲の壁が
歪む。
「……長引かせる
タイプか」
小さく
呟く。
この魔物は、
倒せば
終わりではない。
核を
破壊しなければ、
再生する。
異世界で
何度も
戦った相手だ。
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背後で、
足音。
「誰だ!」
探索者の
声。
数人の
パーティが、
瓦礫の
陰から
姿を現した。
疲労が、
顔に
出ている。
「撤退命令、
出てるぞ!」
「ここは、
Bランク以上の
対応区域だ!」
亮は、
振り返らない。
視線は、
魔物から
外さない。
「……下がれ」
短い
言葉。
だが、
声には
不思議な
重みがあった。
探索者たちは、
一瞬
戸惑う。
「お前、
誰だよ……」
その疑問は、
当然だった。
亮の
装備は、
地味。
ランクを
示す
装飾もない。
どこにでも
いる
無名の探索者。
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魔物が、
動いた。
腕が、
振り上げられる。
衝撃波。
床が、
抉れる。
「危ない!」
叫び声。
だが、
亮は
既に
動いていた。
一歩。
踏み込み。
衝撃の
中心を
外す。
剣が、
核へ
走る。
浅い。
だが、
確実に
削った。
魔物が、
咆哮を
上げる。
探索者たちは、
呆然と
立ち尽くした。
「……今の、
見たか?」
「速すぎ……」
理解が、
追いつかない。
それでも、
事実だけは
目に
焼きついた。
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ギルドの
モニター室。
画面が、
切り替わる。
偶然
残っていた
監視映像。
深層の
戦闘。
そこに
映る、
一人の男。
「……誰だ、
あれ」
職員の
声が
震える。
データは、
存在する。
Dランク。
だが、
映像の
動きは、
明らかに
規格外だった。
「無名の
探索者が、
乱入した?」
ざわめき。
判断が、
遅れる。
誰も、
この状況を
想定して
いなかった。
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現場では、
亮が
間合いを
詰めていた。
力は、
まだ
解放しきっていない。
それでも、
周囲から見れば、
異常だ。
魔物の
攻撃を
紙一重で
かわし、
核を
狙い続ける。
「おい……」
探索者の
一人が、
震える声で
言う。
「俺たち、
足手まといか?」
誰も、
答えられない。
亮は、
一瞬だけ
振り返った。
「……退路、
確保しろ」
命令口調。
だが、
不快ではない。
生き残るための
言葉だと、
直感で
理解できた。
彼らは、
後退を
始める。
そして、
その背中に、
一つの
感情が
芽生えた。
――信頼。
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魔物が、
最後の
抵抗に
入る。
核が、
露出する。
亮は、
息を
吸い、
吐く。
集中。
一瞬だけ、
勇者の
感覚が
蘇る。
だが、
力は
抑えたまま。
一閃。
剣が、
核を
貫いた。
光が、
爆ぜる。
衝撃。
そして、
静寂。
魔物は、
完全に
消滅した。
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瓦礫の
中で、
亮は
剣を
収める。
周囲に、
視線を
走らせる。
配信カメラ。
監視レンズ。
どこかで、
見られている。
それは、
もう
隠せない。
だが、
名乗る
つもりは
なかった。
彼は、
無名で
いい。
ただ、
生き残るために
剣を
振るった
探索者。
地上へ
戻る途中、
誰かが
呟いた。
「……あの人、
何者だよ」
答えは、
ない。
だが、
この日を
境に、
噂は
広がっていく。
深層に
現れた、
名もなき
探索者。
無名の
乱入者が、
ダンジョンの
常識を
揺さぶり
始めたことを、
まだ
誰も
正確には
理解していなかった。




