トイレの花子さんと地獄
ひたすらにエグいだけのホラー作品です。
怪談と言うよりはヒューマンダークドラマと言う方が適切かもしれません。
病気の描写が有りますが、雰囲気優先のあやふや知識で書いてます。現実要素は欠片もないフィクションです。
閲覧は自己責任でお願いします。
「やーい!! 『まっくろハナコ』ー!!」
「…!」
クラスメートからのからかいの言葉に、逃げる様に教室を出てトイレに駆け込む。
右側一番奥、4番目のドアを開いて鍵を掛ける。
私の名前は羽苗子だ。お化けじゃない。
「なんっでいつも、いつもっ──ゴホッッ!?」ゼエエエ~…ッ
うっとぉしいなもうッ!!
「ゼエエぇ~ヒイイぃ~…、」ごそごそ…っ…
喘息発作を抑える吸引器をカバンから取り出しすぐさま口に当てる。
「」スウゥ~…ヒュゥ~…スウゥ~…
しばらく薬を吸っていれば発作もゆっくりと治まってきた。
本当に面倒臭い体──
──ダンッ! ダンッ!!
「」びくぅっ!?
「ハナコさんハナコさん居ますか~!!」バンバンっ! 「居たら返事しないでくださ~い!♪」きゃははっ!
トイレにまで来んな!
どっかいけ!
「」ダァンッ!!
「きゃっ!?」「ひっ!?」
内側から思いっきり叩き返してやれば、小さな悲鳴をあげてとたとたと逃げ出すいじめっ子ども。
「ちょっとあなたたち何逃げてんのよ!」
「だ、だって、」「言われた通りやったし──」
「あいつを泣かすまでやりなさいよ!」
トイレの入り口の方からキンキンと甲高い金切り声が聞こえる。
声の主は美火ちゃんだ。本来なら校則違反なのに髪をキンキラの金色に染めて来てる、政治家のお嬢さん。何がしたいのか、ことあるごとに嫌がらせをしてくるバカだ。
バァンッ!と個室のドアを勢い良く開けて出れば、奴とすぐさま目が合った。
「うっわ、黒~い! バイ菌の塊みたい~!」
「」キッ!
「やだ~、睨んでくる~! いっつもトイレに籠ってるから服も目付きも汚いわ~!」“名は体を表す”ってやつね~…!
──────────
別の日。いつもの様にトイレに入っていたら。
──ガタッ! ごっ、ドタッバシャアッ!
「きゃっ!?」
隣から変な物音がした直後私の頭を飛び越えて、個室の壁に水がぶち撒けられた。
え、何? すぐさま外に出る。
「さいあく、濡れた…。」
「ちょっと! あいつは濡れてないじゃない!」
「ちゃんと隣に水入れたって!」
「掛かってないなら意味ないでしょ! そんなことも分からないの!」
バケツを持った取り巻き女と美火が言い争っていた。
と思ったら私の方を見てキンキン叫ぶ。
「何? 止めてほしかったら、降伏しなさいよ。『美火様ごめんなさい』って──」
「」ダダダ!
「な、どこ行くてめぇ!」
付き合ってられるか!
──────────
さらに別の日。
聞き耳を立てながら静かに用をたして、トイレを流した時──
ポイッ… ガサッ!
「きっ、な何──いやあああああ!?」
思わず悲鳴をあげてしまった。
私の頭には木の枝先。緑の葉に毛虫がうじゃうじゃと居て、払った手に触れてしまった。
キモイキモイキモイキモイ!!
飛び出せばいつもの美火。
「うっわウジ虫だ~!! まっくろハナコがトイレで虫食べてる~!!」
「きっも~!」「フケツ~。」『ケムシ』だけど…
「…、」ガシッ…!
床に転がってた枝をひっ掴み、バカどもに突撃してやった。
「きゃあああああ!?」
「いやっ!?」「ひいや~!?」
後日、「美火の顔に毛虫を押し付けた」ことで私は生徒指導室に呼び出され激しく説教された。
──────────
「…、」
疲れた。さっきの家庭科の調理実習も地獄だった。
同じ班の人達は私を食材から遠ざけるし、先生は「もっと積極的に参加しろ」って言ってくるし。あの美火は途中で保健室行ってズル休みしやがるし。
もうクソ。全部クソ。何もかも──
「ケホッ、けァッ…。」
こんな時にまた発作。いつも通り持ち込んでいたカバンから吸引器を取り出し、いつも通りに個室の中で吸引しようと、開いてた便座の蓋を閉め──
ぱく…
「おげっ!?!」バッ!!!
ボチャンッ!!
「げッッ!! げへぇ!! おべェーッ!!?」
何…!? 何これ…!? 口の中がめちゃくちゃ痛い…!!
吸、引器、何か壊れ、てた…??
「ゼエ~…ッ!! ズウウゥ~…ゥッ!!」
ヤ、ヤバい、発作が…強く…、く、薬…、
あ──
口から弾いた吸引器が。便器の中に水没してる──。
「ゼエエエ~~!? ゼエエエ~~ッ!」
ど、どうしたらいい、の…。
拾、う? 手、突っ込んで? 吸える? 嫌。でも薬、洗えば、すぐに? 病気、汚い──
「ひゅー~ッ!! ヒ~~…ッッ!!」ごそ…… ごそ……
よ、予備、薬…! か、カバン…、無い、片手、無理…、
せ、んせ… 誰か…、呼ぶ…、
「ぜええ…ッッ…、ェげっ……ッ…、…、」バタ…ッ
息、イき、生きが、出キ無息、もちワ、るい…、
た、たけ、け…て──、て──────
息できない。頭痛が痛い。体おかしい。
苦しい。苦しい苦しい。
苦しい苦しい苦しいクルしいクルしい狂シイ狂ジイッ!!
なんで! なんで私がこんな目に!!
なんでなんでなんで!?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで──
「──あなたが創ったからだよ。この地獄を。」
「ひっ!?だ、誰!!? ──え。」
真っ暗な世界で。真っ黒で陰気な女が、私を見下ろしていた。
地味な黒い服に、丈の長い黒スカート。葬式みたいな暗い表情に、温度を感じさせない黒い目。
「まっくろハナコ」が宙に浮いていた…。
「わ、私…?」
「いいえ? 私は『ハナコ』。『羽苗子』じゃないわ?」
「は…??」
「羽苗子は死んだ。女子トイレの右側4番目の個室の中で、喘息発作で倒れて死んだ。
吸引器を落として吸えなくて、苦しみながら死んだ。事故死として処理された。
あなたが家庭科室から盗って羽苗子の吸引器に塗った『わさびの液』は。水で流れて、消えて、綺麗さっぱり分からずじまい。」
「は…、な、何、なに言って──、」
「あなたが小学生だった頃やったことでしょ? 忘れちゃった? ほんと、“鳥頭”だね。」
「誰がトリ頭だゴラァ!!」
「だってそうでしょ?
頭空っぽの餓鬼のまま大人になって、興味と本能だけで男を見つけて。そいつに浮気されて、突き飛ばされて、頭割れて脳ミソ零れて、中身無くなって死んだんだから。」
「──は──?」
真っ黒い目が私を見据えて意味不明な言葉を吐き出し続ける。
「そうして死んじゃったオバサンを、彼氏と浮気相手が隠そうと、バレない様にこっそり埋めたのが、廃校になった小学校の裏庭。
トイレから見える、茂みの陰だったんだよね。」
「──?────???」
「“名前は体を表す”、だっけ?
本当にその通りになったよね。──『美火ちゃん』?」
なに、何を言ってるの?
だって、皆、そうして、パパもママもお手伝いも先公もクラスメートも、私に従って、ハナコだけが歯向かってきて、だから懲らしめてやって、悪い奴だったからエンマ大王が殺して地獄行きに──
「そうだね。犯罪者は閻魔様に裁かれて地獄に連れていかれるんだよね。」
ジャラララ! ジュウウウッ!!
「ぎゃあああああああ!?」
あ、熱い!? 首、クビが焼ケるゥ!?!?
「『羽苗子の人生体験』が終わったから、人殺しの罪滅ぼしは一旦完了。反省の色は無いけど無視して、次は『灼熱地獄』で嘘つきの罪に対する刑罰だって。」
「ぎぃいいいあああああ!? た、たす、ケ、ダズゲデェ!?!?」ギリギリギリ…
「うん。あなたの穢れの魂を浄化する為に、地獄の鬼いさん達が頑張ってくれるらしいよ。やったね?」
「や──ヤ”ダあ”あ”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ア”ア”──!!!!」ジャラララ…! ズリザリザリズズルゥ…!!
──キィ… バタンッ!!!
「このあとは、邪淫の罪に、強欲の罪に、親不孝の罪…。いったい何億年掛かるんだろうね。
ま、そのうちお前の父・母も仲間入りするし、担任とか同級生とかも後を追うから、きっと寂しくないよ。地獄で仲良くしなね?」




