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作者: 岡野うか
掲載日:2025/10/10

 男には死んでも勝たなければいけない敵がいた。一日に一度、命がけの勝負が繰り広げられた。男が隙を見せれば、間違いなく意識を失い敗北する。現在の戦績は幾千勝、幾万敗。負けた日は夜まで悔しさに沈みながら「次こそは」と決心するのだが、そんな決意ですら無慈悲に敵は蹂躙してくるのだ。無表情に。敵に思いやりや優しさといった感情は一切ない。

 男は横たわり体を沈ませながら、人間の尊厳を破壊する無慈悲な力に太刀打ちできない人間の決意というものはなんと脆いものなのだろうと思い知った。戦いのさなか、さらに敵は呪文のように甘い虚無と絶望を男の頭蓋骨の中に植え付けてくる。敵は囁き続ける。休息の甘美さを、怠惰の心地よさを、現実逃避の快楽を。男の意志は溶けていく。抗えない根源的な欲求、朝に目覚める時の己自身が敵なのだ。

 次の朝も男の部屋に戦いのゴングが、ジリリンと鳴り響くのだろう。夜が深まる前に男は戦いに備えるように眠りに入っていった。

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