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2.反攻

「爆雷戦用意!」


 轟沈した「駆潜艇703号」は、わが第15駆逐隊と共にこの船団を護衛していた艇だ。近頃は駆逐艦が不足気味となり、こうした小型艇も護衛に駆り出されている。


 「SZ504」船団の護衛隊は「インセクト」級駆逐艦3隻の他に、「哨戒艇22号」と「駆潜艇703号」で構成されていた。

 本艦は旗艦として先頭を航行している。僚艦である駆逐艦「クリケット」「リーフホッパー」はそれぞれ船団の上と下に、「哨戒艇22号」は左にいる。右側には「駆潜艇703号」しかいなかった。


 本艦は爆雷戦の用意をしつつ、現在の位置を維持する。「クリケット」か「リーフホッパー」がロールをかけて、艦体を傾けつつ向かった方が早い。


 しかし――


 どちらの艦も所定位置から動かない。


「何をやってるんだ?」

「早く行かないか」


 司令と艦長が苛立ちながら言う。


「艦長、2隻とも気付いてないんじゃないですか、潜望鏡に」


 航海長の声。


諸元(データ)送れ、レーザー通信!」


 すぐ艦長が大声で言った。


 後手に回った。司令も艦長も、味方が潜望鏡に気付いているものと思い込んでいたのだ。


「『スターフェアリー』、爆発」


 また貨物船がやられた。「駆潜艇703号」を失い右側方を無防備にさらけだしたわが船団を、見えざる敵が弄んでいる。


「『スターフェアリー』より、われ航行不能」


 航行不能――機関室をやられたか。本来ならすぐ救助に向かうところだが、潜空艦がいる空間でそれはできない。


 本艦からの敵艦位置の諸元を受け取った「クリケット」がようやく転舵した。船団の上から逆落としに、見えざる敵艦めがけて突っ込んでいく。

 「クリケット」が敵艦位置を通過した直後、強烈な空間の歪みが発生し艦体が揺すぶられた。「クリケット」が投下した爆雷が炸裂したのだ。


 私の見張り画面、4番光学観測器になにかが湧き出てくるのが映った。


「130度、俯角5度……燃料らしきもの」


 艦長席の画面へ画像を送る。


「……どうです?」


 司令に尋ねる艦長。


「いいだろうね。燃料が出てるならもう艦体は壊れてる。浮上してこないから、圧壊したとみていいだろう」


 そう言う司令。


「爆雷戦用具収め」


 戦闘態勢を解く号令がかかる。結局使わなかった爆雷を、本艦は片付けた。


・・・・・・


 無事な貨物船と液槽船を連れて、船団は航行不能となった「スターフェアリー」の元へ戻った。

 しかし破孔から黒煙を吹く「スターフェアリー」は本艦の呼びかけに応答しない。赤外線観測器を向けると、画面は真っ赤に染まった。


 船体越しに観測できる程の高温――船内の人間は、もう焼けてしまっている。


 結局「スターフェアリー」は放棄し、生存者の見込み無しとして救助活動も行わなかった。残った2隻の輸送船を守るため、また沈んだ「駆潜艇703号」の穴を埋めるため、隊列を組みなおした。


 先頭は変わらず本艦「グラスホッパー」が務め、右に「クリケット」、左に「リーフホッパー」がついた。両艦には船団の左右を守りつつ、上下方向からの敵に対しては艦体をロールで傾け対処させることとなった。


 「哨戒艇22号」は最後尾についた。後方の守りではあるが、わが軍において「哨戒艇」とは旧式となり前線から退いた元駆逐艦である。戦闘力としては、あまり期待できない。


 隊列を整え終えた「SZ504」船団は、黒煙を吹き続ける「スターフェアリー」を置き去りに前進を再開した。


・・・・・・


「艦長、敵艦がこちらの位置と船の数を打電しています」


 通信員の報告に、艦橋の空気は一気に凍った。


「なに?」

「敵艦が?」


 司令と艦長の声が重なる。


「駆逐艦4隻、輸送船2隻、ゼーピン星系へ向け航行中――」


 確かにわが船団の情報だ。駆逐艦の数が1隻多いのは、「哨戒艇22号」を駆逐艦と誤認したからだろう。


 問題は、どうしてこの正確な情報が敵に知られたか、であるが――


「――あっ!」


 気付いた司令が声を上げたが、今更どうしようもなかった。


「欺瞞か――」


 どうもそうらしかった。


 我々は異空間から湧き出してきた燃料を見て、それが圧壊した敵潜から出てきたものだと思い込んでいた。

 しかし敵潜は生きていたのだ。おそらくわざと燃料を漏らさせて艦が圧壊したように見せかけ、異空間に潜んでわが船団をやり過ごして。


 そして今、わが船団の正確な位置を打電している。


 わが船団の情報は、敵に知られた。

 進むか、退くか――わが船団には、もはやどちらの選択肢もない。


 このままゼーピン星系へ行くにしても、輸送を諦めてスギパール星系へ引き返すにしても――液槽船「ディフェンダー」の船足が遅いのだ。


 もうゼーピン星系は近い。そして敵の手に落ちたゲェメ星系も近い。船団の位置を知られた今、ゲェメ星系の戦闘艇基地から敵戦闘艇がやって来るのは時間の問題だ。

 船団が、戦時標準船である「ディフェンダー」の速力に合わせて走っていれば、進んでも退いても、敵戦闘艇の作戦行動範囲を出る前に襲撃を受けることになる。


「……」


 司令はなにも言わない。


 それはすなわち、当初予定通りにゼーピン星系へ向かうという意味となる。


・・・・・・


 かくして「SZ504」船団は、何の策もないままゼーピン星系への直行航路を進み続けた。

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