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涙の蹴鞠の如く

(切り捨てられようが、もうどうなっても構わないよ! あんな輩の殿方達とは婚姻なんて出来ないっ!)


 別室に連れていかれた桃千代は、多数の家来に監視されながらも新たな決意を自分自身に言い聞かせていた。

 そして冷水を絞った日本手ぬぐいを患部にあてる治療をし、回復した父荻野式尾がやって来た。


「皆の者。もう下がってよい。わしは桃千代と二人だけで話をする」

「…………」


 桃千代は目尻を上げたまま父と対峙した。


「桃千代……お主という奴は……」

「父上様。問答無用に危害を加えた事は謝ります。けれども、父上様のいいつけにはお応えし兼ねますっ!」

「落ち着くんだ桃千代」

 式尾は桃千代の両肩に手を置きじっと見つめた。

 暫しの沈黙。

 そしてぎゅっと抱きしめられた桃千代。

 ふっと我に返る。

 再び甦る幼き日の光景。


「父上様……」

「落ち着いたか? 桃千代」

「え? あ、はい……」


 ◇◆◇◆◇◆


「まったく……最近はおとなしいと思っていたが、お主の癇癪はどうにかならんのか?」

「め、面目ございません……」

 正座したままうつむく桃千代。

「まあ、握ったのが鍛え抜いたわしのでよかった。馬八郎殿のものであれば大変な事になっていた」

「…………」

(え? いなり袋って鍛えて強くなれるの?)

「桃千代」

「は、はい……」

「まあ、今回は事前になんの教えもなく、お主に突然縁談を申し付けたわしにも落ち度はある」

「いえ……」

「お主にはまだ婚姻というのは早すぎた」

「…………」

「お主には嫁入りというものの心得をしっかり教えてからでなければ駄目だ。だから伊達家との同盟は丁重にお断りするとしよう」

 その言葉を聞き、父の優しさと安堵感が溢れ桃千代は涙を流した。

「申し……訳……ありません……御心……使い……ありが……とう……ございます……」

「明日からお主には嫁入り修行をさせる」

「え?」

「実は武田家との同盟話もあるのじゃ。上杉家との戦で背後を固めたいという意図もあるのだと察する」

「え?」

「だから一ヶ月後の婚姻に向けしっかりと修行に励め」

「…………」

(なんですの? 私の気持ちをわかったような素振りでいけしゃあしゃあとふざけた事ばかりべらべらとっ! 修行をしろ? 私は荻野家の道具じゃないよっ!)


 その後桃千代は過去一番の大乱心。

 再び袋を握り潰し、裾を捲り蹴鞠をするかの如く蹴り上げた。


 荻野桃千代――

 生涯独身を貫き、後に日の本では希少な女城主となり、戦国時代以降も荻野家の存続に貢献したのであった。


 〈完〉


 政治の道具としての存在価値が大きいとされた女性ですが、戦国時代において女性城主は少ないながら存在しました。

 立花誾千代、おつやの方、妙林尼などがそうです。

 このように、戦国時代を語る上でも乱世の中で生きた女性の存在というのはなくてはならないものであり、いつの時代も女性は強かったのです。





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