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「あーあ、彼氏ほしいなあ〜」
大衆居酒屋の喧騒の中、光里は大きなため息をついた。
すると、そのため息を吹き飛ばすようにはん、と向かいに座る女性が鼻で笑った。
「彼氏じゃなくて、都合のいい男、でしょ?」
「え〜、違うよ〜」
言葉では否定するが、軽薄な口調とニヤリと笑う姿からそれが表面的な物であることは誰にでもわかることだった。
「でも光里、今彼氏いなかったっけ?ほら、あの職場の先輩に紹介してもらったって人」
「ああ、頼んでもないのに勝手に盛り上がって、あれよあれよという間になんか付き合うことになってた人ね」
おかげで男漁りもできない、と光里は口を尖らせた。
「ひどい言い草だねえ。誠実でいい人なんでしょ?」
「誠実だけど、すごくつまらない人だよ。好きになれるかなと思って付き合い続けてはみたけど、多分無理かな。3ヶ月経ったし、先輩への義理は果たした」
暗にもうすぐ別れる、と言う光里に女性は「光里は誠実なのかそうじゃないのかどっちなの」
知り合って長い親友にいつものようにそう問うと、当たり前のように同じ答えが返ってきた。
「やだなあ、わたしほど誠実な人間はいないよ?」
名前は、ひかりです。