第五話「冒険者」
オレの名はレッド。
冒険者見習いの剣士だ。
一ヶ月前に冒険者ギルドに入団する為、入団試験のゴブリンを指定数駆除するというクエストでゴブリンを一匹取り逃がし本日仲間たちと共に再度入団試験に再チャレンジするところだ。
「みんな、前回はすまなかった......!」
オレは仲間である三人の幼馴染たちに頭を下げる。
なぜなら前回ゴブリンを駆除したと思い込み、みすみす逃してしまった張本人だからだ。
「気にすんなっ!今回はこんな楽なクエストちゃちゃーとクリアしちまおぜっ!」
戦士職のバルクが豪快に笑いながらオレの肩を叩く。
コイツはいつだって明るく場の空気を和ませてくれる......ほんと頼りになる奴だ。
「そうですよ。ボクたちはこんなところで躓いている場合じゃないですし......」
魔導師のミリアルドが眼鏡を上げながら少しだけ不機嫌そうに答える。
ミリアルドは口は悪いのが玉に瑕なのだが、これでも将来を有望視されている魔導師だ。
しかも文句を言いながら結局付き合ってくれるのだから根はいい奴なのだ。
「クス......早く冒険者になって、みんなと色々な場所に行きたいね」
そう言って優しく微笑んでくれたのは、神官のリリだ。
リリはいつだってオレの側にいてくれた......神官として引くて数多だったのにオレのパーティ以外は全て断ったのだ。
オレはそれが心底嬉しかったーーーだから次は彼女を失望させないようにしなければ......
「どうしたの?」
リリがオレの顔を覗き込む。
リリの顔があまりに近すぎてオレは驚き尻もちを着いてしまった。
「ち、近いぞっ......!」
「フフ......顔真っ赤にして......どうしたのレッドくん?」
リリは悪戯っ子のようにオレの姿を見て笑う。
その笑顔を見て改めてオレはリリが好き......いや、愛してるのだと自覚した。
「おーい、コラ。油断するな......というかイチャつくなぁー」
バルクがやれやれといった白い目でコチラを見る。
オレとリリは顔を見合わせると二人とも赤くなっていた。
「「イチャついてないっ......!!」」
その姿を見ていたミリアルドが遠くで溜息を吐いていた。
「おぉ......仲がよろしいことで......」
バルクが笑う。
「だが余り油断が過ぎるとゴブリンのような魔物にも足元を掬われるぞ......そしたらリリが連れ去られて......ヤラれちまうぞぉ〜」
「バルクのえっち」
リリが顔を伏せ耳まで赤くなっていた。
「おい、よせよバルク。セクハラって言うんだぞ、それ。それにリリはオレが命を賭けて守る」
「へいへい......」
バルクは苦笑いをしながら歩みを進めた。
◆
オレたちのパーティは入団試験を兼ねてクエストを受けていた。
それは前回オレがゴブリンを取り逃した場所である【暗澹の森】の調査だ。
【暗澹の森】は比較的低ランクの魔物が多く棲息している地域だ。
しかしこの半月で魔物の目撃数が激減しているとの報告があり"未知の魔物"がいる可能性がある為調査に出向いたのだ。
「なにか見つかったか?」
「いえ、なにも......」
ミリアルドが魔法で周囲を探索するが魔物やそれを狩っているであろう"未知の魔物"の痕跡は一向に見つからない。
「ヨシッ......!次だ!次!」
バルクが先頭を切り、茂みを掻き分けていく。
ーーーカラン、カラン......カラン、カラン......
オレたちの耳に不自然な音が聴こえた。
「おい、レッド......今の聴いたか?」
「ああ......魔物の鳴き声では......ないよな」
バルクが立ち止まり辺りを警戒する。
暫く様子を伺うが何も起こりはしなかった。
「おっ......これ......」
バルクが自らの足元を指差す。
そこには、いくつかの木の板に紐を通して作られた"鳴子"ーーーつまり警報装置があった。
「どっかの冒険者の忘れ物だな......焦らせやがって」
「そうですね......こういったモノがまだあるかもしれませんから気をつけましょう」
ミリアルドが小さく呪文を唱えると"鳴子"に火がつく。
オレはその様子を見て慌てて持っていた水筒の水を掛ける。
ミリアルドの奴め......森林火災にでもなったらどうするつもりだ?!
「森の中で火魔法使うなよっ......!」
「甘く見ないでもらいたい......ボク程の腕があれば対象物だけを燃やすなんて容易いですよ」
オレが慌てている間に気づけば"鳴子"はあっという間に灰となっていた。
「オレのみず......」
ミリアルドが溜息を吐き、バルクは爆笑していた。
「ワタシの水......分けてあげようか?」
リリがオレの口元に水筒をぐっと寄せてくる。
「い、いや......そんな、わるい......よ」
「ワタシはぜんぜん気にしないよ......?」
リリが先ほどまで飲んでいたのかと思うと、やはり手が出せない......ここは我慢しようと決めた。
「ちぇ......つまんなーい」
リリが不機嫌そうに頬を膨らませているが......当の本人も顔が赤い。
(恥ずかしいならやめればいいのに......)
と、つい心の中で呟いてしまった。
◆
オレたちは森の奥地まで辿り着いたーーー。
「魔物......一匹も遭わなかったね」
リリが少し怪訝そうに呟く。
確かに......ここまで何もないと報告しようも無い。
いったいどうしたものか......
『ーーーギ、ギギィィ』
森の中に濁った唸り声が響く。
オレたちはすぐに臨戦体制を整え、声の方を向く。
ーーーそこには一匹のゴブリンがいたのだ。
「なんだ......ただのゴブリンかよ」
バルクが落胆の声を漏らす。
しかしこれは進展だ......ここに来てやっと魔物に遭遇したのだから。
「しかし......手負いのようですね。片目が無く......腕も片方ない......もしかしてーーー」
ミリアルドがそこまで答えてオレも思い出す。
あれはきっとオレが取り逃がしたゴブリンに違いない。
「とりあえず手掛かりになるかもしれんな......とりあえず捕獲するか......」
バルクがゴブリンまでの距離を詰める。
普通のゴブリンならバルクの大柄な体躯を見れば逃げそうなものなのに、このゴブリンはジッとバルクを見据えている。
「ーーーバルク、なにかおかしい......」
「なにか?どう見たってただの死にかけのゴブリンだろ?」
「そうだけれども......」
オレは咄嗟にバルクに忠告しようとしたが根拠がない為言葉が続かない。
すると突然、ゴブリンは後退り逃げるそぶりを見せる。
「逃がすかよ......!!」
その気配を察知したバルクが走り出す。
『ーーーヒヒ』
オレはゴブリンが笑ったように見えたーーー。
「バルクーーー逃げろっ......!!」
次の瞬間ーーー地面から巨大な杭が飛び出し、バルクの身体を貫いた......
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