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第一話「覇王」

儂の名はゼーレン・ヴァンデルク1世だ。

この世界の全ての国家を戦争で侵略し、支配した覇王だった。


なぜ侵略したか......?


それは渇いていたからだーーー。


儂は巨万の富を得ても、極上の美酒を飲んでも、絶世の美女を抱いても、最強の英雄を殺してもーーー満たされる事は無かった。


故に"世界"を手に入れれば、この渇きが満たされると思ったーーー。


しかしそれは決して満たされなかった......


考えれば当たり前の事だ。


儂は初めから全てを持っていたのだーーー。


由緒ある血統、武の才覚、恵まれた体躯、膨大な魔力、知性、叡智、名誉、賞賛、技術、魅力、美貌、野心、忠義ーーーそして愛ですら......だ。


故に"退屈"だったのだーーー。


そんな儂が世界を支配できるのは当然の出来事だった。


そして今、寿命を迎えるこの時までその支配が揺るぐ事は無かったーーー。


ーーー穏やかな死だ。


目の前には愛する妻、子供たち、家臣たちが居る。


口々に儂に何かを言っているが最早どうでも良かったーーー。





「実に、つまらない人生だったーーー」


その一言を最後に、儂の人生は幕を閉じた。









「ーーーーーーーー!」


眼を覚ますと知らない者たちが居た。


その者たちは鎧やローブに身を包み、こちらを睨みつけ怒号をあげていた。


先頭に立っている若い男は手に剣を持っていた。


何処にでもある粗野な鉄剣だ。


その剣の刀身は赤黒く汚れている.....どう考えても血だろう。




ーーーぼんやりとしていた思考を巡らせていると、意識が覚醒してきた。


だが次の瞬間ーーー身体が激痛に襲われた。


特に右眼が酷く痛い......そして左腕には至っては感覚が無くなっている。


「ーーーーーー!」


「ーーー」


「ーーーーー!ーーー!」


意識は覚醒したものの、目の前にいる人間たちの言語が理解できない。


どうやら異国の言葉のようだ。


話が通じるか分からないが、儂も声を出し接触を試みた。


『ーーーーーー』


しかし上手く言葉が出せない。


それどころか、口から出るのは獣のような唸り声だけだった......


「ーーー!!」


儂の声を聴くと、剣を持っていた若い男が血相を変えて斬りつけてくる。


その剣技は児戯の如く拙いーーー。


こんなもの、寝ながらでも避けれるーーーと思ったのだが、身体が思うように動かない。


齢百の死にかけの老人だが、腐っても"覇王"だ。


ここに居る者ならば一瞬で屠る事は容易い......はずだ。


しかし、あろう事か儂は体勢を崩してしまい、あっさりと斬り伏せられた。


『ーーー!!』


口からは汚い呻き声が出る。


儂のその姿を見てか、目の前の者たちは喜んでいるようにも見えた。


まったくーーー詰めが甘いものだ。


敵の生死を確認もせずに勝利に酔いしれるなど......しかし絶好の好機だ。


儂は痛む身体を起こし全力で走るーーー。


背後から怒号が聴こえるが、一度も振り向かずに走り去った。







生まれて始めて死に物狂いで走った......


どのくらい走ったか解らないが、息が続かなくなりその場に倒れ込む。


辺りは薄暗い森だったーーー。


森ならば近くに水源の一つでもあるだろう。


儂は喉を潤す為、身体を這いずり回した。


暫くすると、澄んだ水溜りを見つけた。


儂はなりふり構わず水に顔を突っ込み、水を飲み続けた。


こんなにも水を美味いと思った事は無い。


今まで飲んできたどんな酒よりも極上の味わいだった。


儂は喉を潤し終わった後に、水面に映る己の顔を見たーーー。






其処には醜い小鬼の顔が映っていたーーー。







ーーー何だこれは?


ーーーいったい何が起こっているんだ?


どのくらい呆けていたのか......辺りはすっかりと夜になっていた。


身体を改めて確認する。


これまでに鍛え上げてきた肉体はそこには無く......枯れた枝のような四肢と痩せこけた身体があった。


更に右眼は抉れ、左腕は肘下から骨が露出し皮一枚で繋がっているようなものだった。


おまけに着ている物はというと、ただのボロ切れ。


ーーーこれは夢なのか?


『夢じゃありませんよ』


聴き覚えの無い声が脳内に響いたーーー。




誰だ?


『私は神の使いーーー"オラクル"と申します』


神......だと?


『ええ。そうです』


なんの冗談だ?此処は死後の世界なのか?


『そうであり、そうでもない場所です』


説明になっていないっ!


『貴方ーーー"覇王"ゼーレン・ヴァンデルク1世は一度死にました。ですがその偉業を讃え、別世界に転生し二度目の人生を送る事を神がお赦しになったのです』


転生......?二度目の人生......?これが......?


『ですが、申し訳ありません。こちらの手違いで下級の魔物"ゴブリン"に転生させてしまいました』


ゴブリン......?この化物の事か?


『はい。申し訳ありませんが、肉体は変更できませんので、代わりにコチラから"スキル"を選定して下さい。好きな物をどれだけ選んで頂いても構いません』


スキル......?


『"スキル"とはこの世界の才能の事です。これがあれば卓越した剣技や人智を超えた魔法、圧倒的な肉体や叡智も思うがままとなります』


......


『これは手違いのお詫びです。どうぞ御選び下さい』







脳に響く声ーーーオラクルとか言う者の説明で状況は粗方把握できた。


どうやら儂は覇王としての功績により、二度目の人生を神から与えられたらしい。


しかも手違いで化物にしたものだから好きな能力を選ばせてやるとの事だーーー。


まったく、身勝手な神も居たものだな......


儂は心の中でこの馬鹿げた状況をつい笑ってしまう。


『それで、如何しますか?』


だが、これは好都合なのかもしれない。


『"スキル"は御決まりになりましたか?』


儂の渇きが満たされるのかもしれない。


『では、どれに致しますか?』


いらん......


『聴き間違いでしょうか?』


"いらん"と言っているだろぉうがッ!!


『何故でしょうか?そのままでは貴方はすぐにでも死んでしまいますよ?』


それがいいのだーーー。


この何も恵まれていない身体ーーー。


前世とは真逆の人生を味わえるじゃないかっ!




ここまで読んで頂きありがとうございました!

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